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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
22/53

1-20 ひとつの試み

「あ、そうだ」

 神殿の奥に小さな通用口を見つけ、奥へ進むための道を確保する。その後、半壊した神殿の中で、ティアはふと思い出したように足を止めた。不思議そうに見てくるセフィの手を離すと、無事だった椅子の一つに腰掛けつつティアは言う。

「行く前に、状況整理するぞ」

「いいんですか? 早く先に進んだ方が…」

「まあ、聞いとけ。一応、心構えしないと、この先まずいぞ」

 そう言うと、セフィは神妙な顔をしてやってくる。

 右横にセフィが腰掛けると、ティアは自分の中でも情報を整理しつつ、話し始めた。

「闘技場の奥へ進んだ辺りのとき、オレが終焉属性の集団と戦ってたの、覚えてるか?」

「はい。ティアさんが縛って転がしといた奴らですね。」

 何て覚え方だ、と思ったが、それは口にせず続ける。

「…まあ、確かにそいつらだ。そいつらなんだが、どうやら洗脳されてたみたいなんだよ。終焉属性なのに、だぜ?」

「えーっと…何か問題あるんでしょうか?」

「あ、これは知らなかったか。…いいか? 終焉属性が忌み嫌われる理由は、破壊しかもたらせない、生きた災害だから。子供とかは、すぐに力を暴走させるからでもあるな。

 でも、考えてみてくれ。確かに、終焉属性の攻撃力は他以上だし、今の時点で、まだ攻撃術しか存在していないことも認めよう。だが、単純に攻撃力で比較するなら、火、地、光、時空の4属性だって、かなりのものがある。でも、そいつらが『生きた災害』とまで言われたのって、聞いたことないだろ?」

「まあ、確かに…そうですね」

 セフィが釈然としないながらも頷いたのを見てから、ティアは続ける。

「終焉属性は、もう一つ、他の属性にはない大きな特徴がある」

 ふぅ、と息をついて、精神を集中する。ティアは左右の手のひらを上に向けて、胸の前に差し出すと、軽く目を伏せた。

「見てろ。右手に闇の力、左手に終焉の力を出す」

 同時に、右手の上には黒の、左手の上には銀の、それぞれ片手で掴めそうなくらいの大きさの魔力球が生じる。

「今は両方とも制御してるが…少しずつ、制御を緩めるぞ。念のため、ちょっと離れとけ」

 セフィが、慌てて下がったのを確認し、ティアは慎重に制御を緩め始める。

 変化は、すぐ起こった。


 右手の闇の魔力は、別に何ら変化はない。しかし。

 左手の終焉の魔力は、ほんの少し制御を緩めただけで、歪み、うねり、大きく膨らんで…

 暴走を始めようとしたその瞬間、ティアはそれを握りつぶした。

「これが、そのもう一つの特徴。終焉属性はめちゃくちゃ不安定なんだよ。ちょっとした制御の乱れで、すぐ暴発しそうになる。ちなみに、今どれくらい制御を緩めたかっていうと…そうだな、子供が癇癪起こしたのより、まだ制御されてるくらいだ。こんな風なんだから、終焉属性の子供が暴走するのは、まあ当たり前なんだよなぁ…」

 最後は独り言のように呟いて、ティアは闇の魔力も消した。

「それで、だ。魔力の制御に必要なのは何だ?」

「確固たる自我と、感情の制御…です」

 その答えに、ティアは頷き、「だが」と続けた。

「お前、それ意識してやってるか? 子供の頃とか、どうだった?」

 しばし考えた後、セフィは首を横に振る。ティアは口元に薄く苦笑いを浮かべた。

「だろうな…こんなの意識しないといけないのって、終焉属性くらいだと思う。なのに、その終焉属性を洗脳するとどうなるか、ってことだ。まあ、感情はある意味制御されるだろうよ。でも、自我を消してしまう、ってことになる。結果は…さあ、どうなると思う?」

 ティアは、セフィに問う。

「暴走しやすくなる、ってことですか?」

「そういうことだ。洗脳によって消された感情が、少しでも蘇ったら…あいつら、暴走するぜ」

 ゆっくり立ち上がって、奥に続く扉を見やる。ティアは苦く呟いた。

「解ってやってんのか、それとも知らずにやってんのか。正直、どっちかわかんねぇ。けどな…一つ、言える事がある。表のカンバン信用して、盲目的に従うような奴は、洗脳されてない」

 グラン=ラスパードを思う。彼は洗脳されてなかった。いかに強くても、彼は末端の狂信者だったのだろう。

「でも、少しでも疑ったり、深いところまで知った終焉属性の奴らは、洗脳される」

 洗脳された尖兵たち。幹部級であろうに、洗脳された男。

「この矛盾した体制。これで宗教団体って事は、まずありえないだろう? 単なる宗教団体って考えてると、足元掬われるぞ。この先に進むんだったら…軍隊並に武装した犯罪組織相手にするくらいの心構えしとけよ」

 覚悟決まったら行くぞ、とだけ繋げて、ティアは扉の前まで歩く。


 …本当は、言ったほうが良いのかもしれないことがある。しかし、確証がないから、黙っている事がある。

 掲げられた闘神の紋章。

 『闘争国家』ファルマフォルク。

 自我なき終焉属性の、その感情を、完璧にゼロにコントロールできるなら…


 最悪の可能性を思い、ティアは扉を睨みつける。この『白銀の炎』の正体…それは…



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