1-20 ひとつの試み
「あ、そうだ」
神殿の奥に小さな通用口を見つけ、奥へ進むための道を確保する。その後、半壊した神殿の中で、ティアはふと思い出したように足を止めた。不思議そうに見てくるセフィの手を離すと、無事だった椅子の一つに腰掛けつつティアは言う。
「行く前に、状況整理するぞ」
「いいんですか? 早く先に進んだ方が…」
「まあ、聞いとけ。一応、心構えしないと、この先まずいぞ」
そう言うと、セフィは神妙な顔をしてやってくる。
右横にセフィが腰掛けると、ティアは自分の中でも情報を整理しつつ、話し始めた。
「闘技場の奥へ進んだ辺りのとき、オレが終焉属性の集団と戦ってたの、覚えてるか?」
「はい。ティアさんが縛って転がしといた奴らですね。」
何て覚え方だ、と思ったが、それは口にせず続ける。
「…まあ、確かにそいつらだ。そいつらなんだが、どうやら洗脳されてたみたいなんだよ。終焉属性なのに、だぜ?」
「えーっと…何か問題あるんでしょうか?」
「あ、これは知らなかったか。…いいか? 終焉属性が忌み嫌われる理由は、破壊しかもたらせない、生きた災害だから。子供とかは、すぐに力を暴走させるからでもあるな。
でも、考えてみてくれ。確かに、終焉属性の攻撃力は他以上だし、今の時点で、まだ攻撃術しか存在していないことも認めよう。だが、単純に攻撃力で比較するなら、火、地、光、時空の4属性だって、かなりのものがある。でも、そいつらが『生きた災害』とまで言われたのって、聞いたことないだろ?」
「まあ、確かに…そうですね」
セフィが釈然としないながらも頷いたのを見てから、ティアは続ける。
「終焉属性は、もう一つ、他の属性にはない大きな特徴がある」
ふぅ、と息をついて、精神を集中する。ティアは左右の手のひらを上に向けて、胸の前に差し出すと、軽く目を伏せた。
「見てろ。右手に闇の力、左手に終焉の力を出す」
同時に、右手の上には黒の、左手の上には銀の、それぞれ片手で掴めそうなくらいの大きさの魔力球が生じる。
「今は両方とも制御してるが…少しずつ、制御を緩めるぞ。念のため、ちょっと離れとけ」
セフィが、慌てて下がったのを確認し、ティアは慎重に制御を緩め始める。
変化は、すぐ起こった。
右手の闇の魔力は、別に何ら変化はない。しかし。
左手の終焉の魔力は、ほんの少し制御を緩めただけで、歪み、うねり、大きく膨らんで…
暴走を始めようとしたその瞬間、ティアはそれを握りつぶした。
「これが、そのもう一つの特徴。終焉属性はめちゃくちゃ不安定なんだよ。ちょっとした制御の乱れで、すぐ暴発しそうになる。ちなみに、今どれくらい制御を緩めたかっていうと…そうだな、子供が癇癪起こしたのより、まだ制御されてるくらいだ。こんな風なんだから、終焉属性の子供が暴走するのは、まあ当たり前なんだよなぁ…」
最後は独り言のように呟いて、ティアは闇の魔力も消した。
「それで、だ。魔力の制御に必要なのは何だ?」
「確固たる自我と、感情の制御…です」
その答えに、ティアは頷き、「だが」と続けた。
「お前、それ意識してやってるか? 子供の頃とか、どうだった?」
しばし考えた後、セフィは首を横に振る。ティアは口元に薄く苦笑いを浮かべた。
「だろうな…こんなの意識しないといけないのって、終焉属性くらいだと思う。なのに、その終焉属性を洗脳するとどうなるか、ってことだ。まあ、感情はある意味制御されるだろうよ。でも、自我を消してしまう、ってことになる。結果は…さあ、どうなると思う?」
ティアは、セフィに問う。
「暴走しやすくなる、ってことですか?」
「そういうことだ。洗脳によって消された感情が、少しでも蘇ったら…あいつら、暴走するぜ」
ゆっくり立ち上がって、奥に続く扉を見やる。ティアは苦く呟いた。
「解ってやってんのか、それとも知らずにやってんのか。正直、どっちかわかんねぇ。けどな…一つ、言える事がある。表のカンバン信用して、盲目的に従うような奴は、洗脳されてない」
グラン=ラスパードを思う。彼は洗脳されてなかった。いかに強くても、彼は末端の狂信者だったのだろう。
「でも、少しでも疑ったり、深いところまで知った終焉属性の奴らは、洗脳される」
洗脳された尖兵たち。幹部級であろうに、洗脳された男。
「この矛盾した体制。これで宗教団体って事は、まずありえないだろう? 単なる宗教団体って考えてると、足元掬われるぞ。この先に進むんだったら…軍隊並に武装した犯罪組織相手にするくらいの心構えしとけよ」
覚悟決まったら行くぞ、とだけ繋げて、ティアは扉の前まで歩く。
…本当は、言ったほうが良いのかもしれないことがある。しかし、確証がないから、黙っている事がある。
掲げられた闘神の紋章。
『闘争国家』ファルマフォルク。
自我なき終焉属性の、その感情を、完璧にゼロにコントロールできるなら…
最悪の可能性を思い、ティアは扉を睨みつける。この『白銀の炎』の正体…それは…




