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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
20/53

1-18 失われるならば


 次の瞬間、ティアはうっすらと瞳を開いた。確かに感じる、これは人の気配。随分と近くに感じられるそれに、ティアは小さく舌打ちをする。

 ゆっくり歩くような速度で、少しずつ迫る気配に、ティアはすらりと剣を抜き放ち、口の中で小さく呪文を唱える。

「終焉は我が思いを導く。滅びの剣は我が手の内に」

 終焉属性、付与魔術。そして…

「終焉は我が思いを導く」

 剣を持たぬ左手に銀の光を宿し、扉に向けて翳して。

「白銀の顎よ、喰らいつくせ!」

 放った銀の光は、射線上にあった椅子ごと、音もなく扉を消滅させた。

 そして、ティアは開いた道を駆ける。すぐそこまで来ていた気配の主、魔導士風の男に切りかかろうとして…

「わーっ!! ティアさん待って下さい! 僕です、僕!」

 その声に、ティアは驚き叫んだ。

「ぅあぁぁっ!」

 咄嗟に剣を手放す。勢いのまま変な方向に飛んでいった剣は、その軌道にあった椅子と机数個を消し飛ばし、床に転がった。

「お前っ!! 何でいるんだよ、セフィ!? 危うく消し飛ばすところだったじゃねぇか!」

 激しく打つ鼓動を宥めるように、深呼吸を繰り返す。

(……怖かった。気付くの間に合って、本当に良かった)

 血の気の引いた顔でセフィを睨みつけるが、セフィはどこか暢気に言うだけ。

「吃驚したのはこっちですよ! いきなり切りかかってくるなんて…」

「ここは敵のアジトだ! 後ろから近づいてくる奴なんざ、切られて当然!」

「物騒ですねぇ」

「お前が能天気なだけだっ!!」

 全身の気力が根こそぎ持っていかれるような倦怠感を覚え、ティアは深く溜息をついた。そうして何とか一応の冷静さを取り戻すと、極力平坦な声で、噛んで含めるように告げる。

「あのな、セフィ。解ってないようだからもう一回いうぞ。帰れ。この先に進むな。ついて来るな。わかったな」

「それにしても…どうしてここに、闘神ファルマ様の紋章があるんでしょうか?」

 沈黙。

「人の話を聞けぇっ!!」

「……嫌ですよ」

 ぽつりと、セフィが呟く。それは、今までのどこかのほほんとした声とは違う真剣なもの。その声を聞いた瞬間、ティアは今までのどこか緩んだ空気を消して、セフィを見つめた。

「僕にも一応、ここを何とかしなければいけない理由がありますから」

 その物言いが気に掛かったものの、問うてもいいものなのかの判別がつかず、ティアは口を閉ざす。それをどう思ったのか、セフィは不思議そうに首を傾げた。

「聞かないんですね、理由」

「言いたくなければ別にいい。が、言いたいなら言え。聞き役くらいはやってやる」

 セフィの目は、言うべきか辞めるべきか迷っていたけど、ティアはそのどちらの後押しをすることもなく、そのままただ立っていた。それは、彼自身が決めることだ。そうでなければ、どちらにしろ、後悔するのはセフィなのだから。

 それを口に出すこともなく、ティアは静かに腕を組み、傍観の体勢に入る。

「…とりあえず、恨みが有るわけではない、とだけ」

 セフィが再び呟いて、それっきり口を閉ざした。心なしか、頬が赤く染まっているようにも見えたが、ティアは特に指摘することもせず「そうか」とだけ呟く。

「とにかく。僕は僕なりの理由でこの先に進まないといけないので、ティアさん、一緒に行きましょう」

「…ちょっと待て」

 その言葉に、流石にティアは口を開いた。

「行くのはいい。この際諦めよう。でも何で、オレも一緒に行かなきゃならないんだ? 一人で行け、一人で」

「えー? 寂しいじゃないですか。それに、一人より二人のほうが、出来ることも増えますよ?」

「邪魔だ。一人のほうが動きやすい。第一…」

 言いかけて、ティアは言葉を飲み込む。セフィが不思議そうな顔をしたが、構わなかった。

 ティアは、自信がないのだ。セフィを…殺してしまわない自信が。例え、万が一にでも、その可能性を残しておきたくはなかった。


 終焉属性と知りつつも、普通に話しかけてくれた。その稀有な心が、その持ち主が、失われてしまうのを、ティアは怖れている。

 レヴィン然り、セフィ然り。

 幸運にも繋がれた絆が、失われてしまうのが、恐ろしい。

 

(彼らを失うくらいなら…

   …この絆、自分から断ち切ってやる)


 瞳に、悲しい決意を滲ませて、ティアは再び、セフィに背を向けた。




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