1-16 重ねる願い
「…それを、信じろと?」
しばしの時間が経って、セフィが呻くように言った。搾り出すように発された声に、ティアは苦く笑う。
「まあ、そう思うのが普通だよな」
なにしろ、事が『終焉属性』の根本に関わることである。破壊しか出来ないから忌み嫌われている終焉属性が、実はそうではない、となれば…恐らく、世界の常識が覆される。
それこそが、ティアの望み。だが、それが受け入れられないことであることも解っている。だから、ティアは苦笑したまま、言った。
「信じろ、なんて言わない。信じて欲しいとも思わない。ただ、オレはそれを証明するよ。どれだけ時間がかかろうとも、絶対に。
今は、まだ誰にも理解されはしないだろうけど。…例え、誰に笑われても、罵倒されたとしても」
穏やかな声音で、ただただ、何かに言い聞かせるように、ティアは語り続ける。
「難しいことだってわかってる。オレが生きてるうちに出来るかだってわからない。それでも……オレは、進み続けることだけは、やめない」
それは、もう既にセフィに向けて言っているのではない。ティアは、ティア自身に向けて言っている。
何度でも、何度でも、繰り返す。
挫けそうになる度に。立ち止まりそうになる度に。
繰り返し、心に刻み付けていく。
『終焉属性を、破壊だけのものではないと証明する』
『進み続けることをやめない』
これが、誓い。
ティアの、生きる道標。
「絶対に、諦めない」
そう宣言して、ティアは再び前を見つめた。
セフィは、何も言わない。でも、ティアはそれで構わなかった。ふと一瞬瞳を閉じた後、廊下の奥に向かって歩き始める。その瞳には静かな決意。
「どこへ、行くんですか?」
「どこへ? って…ここを潰すために来たんだ、奥に行くに決まってるだろ?」
何を当たり前なことを言ってるんだ…とばかりに、前を向いたまま答える。
「でも、ここにいるのは…」
「オレと同じ、終焉属性だな。好き好んで倒したい相手じゃないが…ちょっと、気になることもあるからな」
今となっては、ただの宗教団体とは到底思えないこの組織。それならばここは一体何なのか…いくつかの可能性は考えられる。しかし、そのどれもが、あまりよい結末にはならないであろうことを思って、ティアは小さく息を吐く。
「…まあ、何にしろ。ここでお別れだな、セフィ」
その吐息に乗せるように、ティアはあくまでも軽く言った。そして、躊躇いもなく一人で歩き出す。と、セフィは何故かティアの後を追いかけてきた。
「ちょ…どうして!?」
「お前なぁ。この先出てくるのっていったら、多分ほとんど終焉属性だぞ? 一発でも攻撃受けたら、即死確定。冗談抜きで、だ。終焉属性に対抗できるのは、終焉属性だけ。最強の攻撃力と、最速の発動速度は伊達じゃない。お前、まだ、死にたくないだろ?」
(…とはいえ。半分建前なんだよな…)
顔は見せないまま、密かに苦い顔をする。
ティアがセフィを遠ざけようとする、本当の理由…それは、怖いから。
グランが、最後に言ったこと。戦いを、殺戮を楽しむのが、終焉属性の性だと。それは真実であると、ティアは直感的に悟っていた。
(オレは負けたくない。終焉の性にだって、打ち勝ってみせる。そう、言い切れると思ってた。でも…)
あの時…グランを殺したあの時、ティアがそれを楽しんでいたのも、確かに事実。それが、ティアの自信を揺らがせる。
「…こんな所で、わざわざ死に急ぐな。帰れよ、セフィ…お前の日常へ。終焉属性のことは終焉属性が片をつける」
片をつける…か。
ティアは、笑ってそう言った。…随分と出来の悪い、涙をこらえるような歪んだ笑みだったけれども。
それでも、と、ティアは切実に願った。
これ以上、追求してくれるな…と。これ以上、関わってくれるな…と。
(オレは……お前を殺すようなことは、したくないんだ)
だから。
「…じゃあな。オレのことは忘れて、達者で暮らせよ。」
無機質な声。それだけを残して、ティアは今度こそセフィを振り払い、歩き始めた。




