1-14 本当の自分
「……ったんです」
「ん?」
セフィがぽつりと何か言ったが、前半が聞き取れなくて聞き返す。また押し黙るかと思いきや、すぐに答えは返ってきた。
「信じられなかったんです」
「何が?」
「ティアさんが…終焉属性だということが」
「ああ…」
無理もないと思い、ティアは苦笑する。人間扱いされていない、生まれてすぐに殺されるのがほとんどの終焉属性が、大手を振って街の中を歩いてたのだから。
「残念ながら、オレは確かに終焉属性だ。証拠ならホラ、この通り」
フードを取り払い、銀の目を曝すと、セフィがまた息を呑む。
「口調も、本当はこの通り。改めて自己紹介でもしようか?」
「『ティア』さん…じゃ、ないんですか?」
どうやら、違う意味に受け取られたらしく、ティアはまた口の端を歪める。
「姓は違う。本当の姓は、『クルストーラ』」
「クルストーラ…?」
セフィは呟いて何かを思い出すように首を傾げる。
「『レヴィン=クルストーラ』なら知ってるか? 『浄焔のレヴィン』。一応、有名人だしな」
思い当たったように頷くセフィ。当代最強と名高いレヴィンのことは、やはり知っていたらしい。少しだけ誇らしい気分で、ティアは告げた。
「一応、オレの師匠にして養い親だよ。…オレの本名は、アストランティア=クルストーラ。闇と終焉の魔戦士」
そう自己紹介すると、セフィは視線を彷徨わせて黙った。そして、ぽつりと言う。
「……どうして…」
躊躇って、口に出して、それで言葉を止める。何が言いたいのか、はっきりとは解らないが、ティアは何となく予想がついた。
「何が『どうして』だ?
どうして隠してたのか? どうしてここにいるのか? それとも…どうして生きてるのか?」
口調は、自分でも意外なほどに穏やかだった。言っていて腹が立つこともない。いい加減度胸も据わってきたのか、と、少々物悲しいような呆れたような心境になりつつも、続ける。
「隠してた理由は、わかるだろ? 言えるはずないし。名前に関していうのなら、師匠は結構有名だから、かな? 『クルストーラ』の姓を出せば、簡単に師匠に行き着く。そうすれば、自然とオレにも行き着くだろうよ。
ここにいる理由は、この組織が気に入らないから。目的は変わってない。
どうして生きてるかって? 目的があるから、生きてるんだよ」
つらつらと並べた答えに、セフィの顔が少し歪む。この中に言いたいことがあったのだろう。
薄い笑みを浮かべると、目を伏せてティアは歩き出す。
「で? 用がないならどいてよ、セフィ。オレはこの奥に用があるんだ」
セフィは、動かない。ティアは一息つくと、セフィの横を通り抜けようとして…
「…って、何すんのさ、セフィ!?」
瞬間、セフィに腕を掴まれた。
(…って、掴む!? 触れるも汚らわしい、ってなるんじゃないのか? 気を使って少し離れてたのに…)
予想外の事態に、掴まれた腕を凝視していると、上から声が降ってきた。
「ひとつだけ、聞かせてください」
顔を上げると、セフィと視線が交わる。
「…何をだ?」
「さっきの言葉の意味です」
「さっきの、って…?」
「『終焉属性に破壊以外の道を見出すまで、死ねない』というのです」
「ああ…聞いてたのか」
少々驚きながらも、ティアは凛と宣言する。
「そのままの意味だよ。オレの夢だ」
「そんなこと…不可能でしょう?」
「誰が決めたんだ? そんなこと。オレは、自分で試さないと気がすまない性質なんでね」
一度は、ティア自身不可能だと諦めかけた。しかし、だからこそ今それはより強い決意として存在している。しかし、セフィは納得できていないようだ。
仕方ない、と、ふと微笑み、そして…
「まあ、普通そんなこと考えないだろうな。でも、オレは……知ってるから」
そう言って、ティアは口ごもった。それからしばらく躊躇って、覚悟を決めたように口を開く。
「…聞きたいか? 理由」
「え?」
「長い話になる上に、あまり楽しい話じゃない。ほとんどオレの身の上話だ。それでも、聞きたいか? …オレの、理由を」
セフィは、しばし戸惑うように視線を彷徨わせた後、小さく、しかしはっきりと頷いた。
「…知りたい、です」
「わかった」
そして、ティアは近くの部屋の扉を開く。誰もいない事は気配で確認していた。扉を閉めて気配霍乱の術をかけた上で、ティアは置いてあった椅子に腰掛けた。セフィも、椅子を持ってきて座る。
思い出す。懐かしい面影を。
「今から、ざっと11年くらい前。オレが物心ついて数年たったころの話だ」
ティアは思い出す。レヴィンに出会う前の…そして、彼と出会うきっかけとなった事件を。
そして…あのときは気付かなかった、小さな、しかし驚くべき、あの『奇跡』を……。




