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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
14/53

1-12 終焉の性

 戦闘・流血・死亡の描写があります。生ぬるいものですが、苦手な方は注意してください。

 剣と拳がぶつかり合う。纏わせた終焉の力同士が相殺し、金属音とも打撃音とも違う鈍い音を立てる。

 バックステップで距離をとり、剣を持たない左手を掲げて唱える。

「終焉は我が思いを導く」

 グランが距離を詰め、拳の連撃を繰り出してくるのを、右手の剣で受ける。予想以上に強い力に、受けきった右手が痺れた。

「降り来るは銀の涙雨…!」

 強引に身体を捻り衝撃を逃がす。そのままの勢いで左手から銀の光矢を放つが、不安定な状態から放ったそれは、あっさりと回避される。それでも、一瞬グランの体勢が崩れた。ティアとグランはほぼ同時に体勢を立て直すと、再び静かに構えなおした。

 繰り出す剣が弾かれ、掠める拳をかわして。終焉の力と終焉の力がぶつかる鈍い音だけが、広い闘技場に響く。

(強い……!)

 魔戦士として完成された強さ。その終焉の力を纏った拳は、同じく終焉の力が宿ったものでなければ防げない。剣以外で受ければ、死は免れない。

 極限の状況下で、ティアは、不思議な高揚を感じていた。口の端に笑みすら浮かべながら、舞い踊るかのように軽やかに、ティアは闘技場を駆ける。

 思えば、終焉属性の力を存分に使っての戦いなど、これまで経験したことはなかった。全ての枷が取り払われたかのように、視界は晴れ、思考は澄み渡り…戦いを純粋に楽しむように、鮮やかな笑みを浮かべながら。

 少しずつ、ティアの速度が上がってゆく。先ほどまで力負けしていたのが嘘のように、悠々と拳を弾き返して。今なら、誰にも負けない…そう確信できるほどに。

 グランの動きの一つ一つが、はっきりと認識できる。普段なら認識できないほどの小さな隙の一つ一つが判って、ティアは一歩、前へ踏み込んだ。

 拳を剣で弾いて。それだけで、グランの体勢が崩れる。

 懐に潜り込むように身体を前に倒す。防御するための拳の動きが…遅い。

 そして、ここで剣を振りぬけば、終わる。

(…終わる?)

 ふと、加熱した思考が凍った。まるで戦いを…殺すことを楽しんでいるような、一瞬前までの自分に、ティアは叫ぶ。

「ダメだ…っ!!」

 しかし、その時にはもう遅かった。剣の動きは鈍って、グランの体を掠っただけだったけれども…剣に纏わせた終焉の力は、グランの体をあっさりと抉り取っていた。


 どしゃりと、濡れた重い音を立てて、グランは地に倒れ伏す。恐ろしい勢いで広がる血。…当たり前だ。胴体が半分抉れて千切れかけているのだから。

「フ…見事、だな」

 それでもかろうじて息はあった。掠れた声で言うグランの目はどことなく優しい。しかし、ティアにはそれも見えていない。

「違う…。何で、オレ…」

 呆然と、ティアは呟く。頭の中には、先ほどまでの自分の有様が浮かんでいた。

 ティアとて、旅を経験した身。人を殺したこともある。生き延びるため刃を振るい、傷ついたことも、傷つけたことも…自身が死にかけたこともあった。しかし…命のやり取りを楽しいなどと思ったことは、一度としてなかった。それなのに…

「異なことを…。御主は、勝った。それが、全て…」

「違うんだよ。オレ、楽しんでた。何で、どうして、こんな事を…ッ!?」

 何が言いたいのか、ティア自身もよくわかってはいなかった。混乱した頭の中は、ただ疑問のみで埋め尽くされている。

 グランは、掠れた吐息に、答えを乗せた。

「それが…終焉の、性、よ……」

 そう言ったきり、グランはもう喋らない。土気色の顔に赤みが差すことは二度とない。それでも、開いたままの目がティアを見つめている。

 その瞳が…それが本当のお前だ、と。殺戮を楽しむのが、お前の本心だと。そう語っているかのように思えた。だから…決して優しさからでなく、ただその目を見たくないという理由だけで、ティアはグランの傍らに膝をつき、その瞼を閉ざした。

「………」

 何と言えばいいのかわからず、亡骸を前に虚しく口を開閉する。何か、彼に言葉をかけるべきだと思ったのに、叶わない。

(…オレが殺した奴に、何を言うんだ? …許せ、ってか? それとも…)

 結局言葉は見つからず、ティアはそのまま立ち上がる。一瞬瞳を閉じて黙祷を捧げ、また静かに瞳を開けた。

辺りを見ると、入ってきた場所とは別に、もう一箇所扉がある。マントを拾い上げそちらに向かおうとして、ふと足を止めた。

「…セフィ」

 離れ離れになってしまったが、探しに戻るわけにも行かない。無事だろうかと思って、ぽつりと呟いた声は、思った以上によく闘技場に響いた。


  ことん。

 不意に、何かを倒したような音がする。

(また追っ手か!?)

 ティアは、抜いたままになっていた剣を構えなおし、音の方へと向き直った。

「……ぁっ!」

「……なんで…?」

 からり、と。音がする。ティアが剣を取り落とした音が。

 ティアのいる底面から一段高い場所、闘技場の柵に寄りかかり、持っていた杖を落として。

「何で、そこにいるんだよ…?」

 蒼白な顔でティアを見つめ、震えているのは。

「見てたのか…セフィ」

 セフィ、だった。


 セフィの反応を見て、ティアは一瞬で理解する。セフィは、今の戦いを見ていたのだろう。…終焉の力を揮う、銀の瞳のティアを。

「見てたんだな」

 内心これ以上ないほど動揺しているのにも関わらず、ティアの声は信じられないほど平坦だ。驚きが過ぎると逆に無感情になるのだろうか? と、妙に冷静に考えつつ、ティアはセフィを見つめた。もはや隠しても意味はないと、銀の瞳を曝したまま、まっすぐに。

 真っ青な顔をしたセフィは、そのままじりじりと後ずさり…逃げ出した。

「セフィ! …ッ」

 慌てて呼び止めようとして、ティアは言葉を飲み込んだ。追いかけようとした足も止める。

 追って、何になるというのだろう? 

(追ってどうするんだ? 殺すのか? …さっきみたいに、心底楽しんで。笑ってセフィを殺すのか?)

 そう、自分に問いかけて、急に身体が冷えたような心地になった。

 それは…絶対に嫌だ。

 ならばどうしよう? そう考えて…答えは、一瞬で出た。決まっている。このままでいいのだ、と。

 これでいい。もう、会うこともないだろう。セフィは、ティアのことを話せはしまい。何しろ、『ティアの行動に責任を取る』などと言ったのだから。ティアが終焉属性だった、なんて申し出れるはずもない。例え、正義感が勝って話したとしても…追っ手がかかっても、捕まらなければいいだけのことなのだ。

(…もういい。早くこのアジトを潰して、それでまたどこかに旅立とう)

 どこか投げやりに決意して、剣を拾い上げる。それを鞘に収めてマントを羽織りなおし、ティアは一人、アジトの奥へと歩き出した。


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