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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
13/53

1-11 届かぬとしても


ゆっくりと、振り向く。足の裏で砂がきゅ、と鳴いた。

「祭儀場って言うより、闘技場に見えるな」

 薄く笑みを浮かべて、ティアは言う。軽口のつもりだったのだが、初老の男は重々しく頷いた。

「闘技場でもある。ブリーティス様に捧げる闘いの場だ」

「へぇ」

「ここへ御主が来たのも、運命かも知れん」

 そういうと、彼は右拳を左手に打ちつける。一瞬で右拳が淡い銀の輝きを纏った。同様に左手を拳にすると、右手に打ちつける。そうして、両手に銀の輝きを纏わせて、初老の男は厳かに宣言した。

「我らが理想のため、御主には死んでもらう」

 隙なく構える初老の男を見て、ティアは問う。

「なあ。理想って、終焉属性の力で革命を起こして…とかいうのか?」

「それ以外に何がある!? 我ら終焉の力を忌み嫌うもの共に、目に物見せてくれるわ!」

 それを聞いて、ティアは深々と溜息をついた。なんとも言えぬ悲しみがこみ上げてきて、目尻をじわりと熱くした。それに気付かぬ振りをして、溜息にそっと言葉を乗せ、ティアは問いを重ねる。

「それで、本当に何かが変わると思ってるのか?」

「何!?」

「何も変わらないさ、きっと。終焉の力は、確かに強い。でも、その力を見せつけたところで、後に残るのは恐怖と悲しみだけだ。終焉属性は忌まれ続ける。そして、仮に頂点に立ったとしても…恐怖による支配は、長くは続かない。いかに強大な力を持っていても、だ。

 そして、終焉属性による支配が倒れれば…今度こそ、終焉属性は皆殺しにされるだろう。これから生まれてくる終焉属性の子供達も、全て。それを解ってるのか?」

 それは、ティアの望む未来ではない。しかし…ティアの言葉は届かない。

「黙れ小童! 終焉の加護の下に生まれたという、ただそれだけで! なぜ我らは迫害を受けねばならん!? 今の世が我らを受け入れぬならば、我ら自身の力で居場所を創る。それのどこがいけない!?

 生まれて間もない赤子が、母の手で殺される様を見たことがあるか? 髪が、瞳が、銀の色をしているというだけで、武器で持って追い立てられる子を見たことがあるか?

 我らはそうして死と隣り合わせで、かろうじて生き延びてきた者ばかりだ。御主の言葉は、苦労知らずの小童の綺麗事に過ぎぬわ!!」

 ティアは、フードの下で目を閉じる。零れ落ちそうになった涙を堪えるために。

(ああ…同じだ。こいつらは、オレと同じ考えを持ってるんだ…)

 しかし、違う。彼らとティアは、ある一点において決定的に異なっている。

 彼らの望みは、破壊の後にもたらされる平穏。終焉の力で世を壊し、終焉属性のためだけの世の中を創ろうとしている。

 ティアの望みは、破壊なき共存。終焉属性の力を破壊以外に見出し、今の世の中に在りたいと思っている。

 ティアは、静かに唇を開いた。自らの思いを伝えるために。それが例え相容れないものだとしても…このまま戦うのは、悲しすぎるから。

 しかし、このままでは、言葉は届かない。

 だから…ティアは、手を胸元に伸ばす。

「知ってるよ、全部」

 ぱちん、と、小さな音を立てて、マント留が外される。

「実感してるよ、この身でもって、ね。だって…」

 はっきりと言葉を紡ぎながら、ばさりと、マントを脱ぎ捨てる。

 もう、涙は出ない。ティアはゆっくりと目を開けて、言った。

「オレも、終焉属性だから」

 その、銀の色に輝く瞳を曝し、彼を見つめる。

 初老の男は、ティアの瞳を見て、息を呑んだ。


 久々にマントごしでなく見る太陽が眩しくて、ティアは目を細めた。真っ白に染まった視界が徐々に色彩を取り戻してくると、改めて初老の男を見やり、ふと表情を曇らせた。

(ああ、こいつ…髪も目も銀色だ)

 隠しようもない、純然たる終焉属性の証に、ティアは先ほどの彼の言葉を思い出す。この世界は、彼にとってさぞ生き難いものだっただろう。

「何故だ…? 御主も終焉属性ならば、辛い目にもあってきたであろう? なのに何故、あのような綺麗事を言える!?」

 先ほどとは打って変わって、困惑が前面に出た声で彼は言う。

 そう思うのも無理はない。ティアとて、レヴィンに拾われるまでは随分苦労したものだ。あまり思い出したくない過去を一瞬顧みて、苦笑する。あの状況が延々続くとなれば、すべてを壊したくもなるだろう。

 それでも、ティアは知っている。ヒトの温もりというものを。それが、ただ運が良かっただけだとわかっていても。

 だから…ティアは綺麗事を貫きたいのだ。恐らくそれが出来るのは、終焉属性に生まれながらも、運よく全うな『ヒト』として生きることの出来たものだけだろうと、知っているから。

「夢が、あるからだよ」

「夢、だと?」

 ティアよりずっと辛い目にあってきただろう、目の前の男。ティアが終焉属性だと知らせても、その言葉は彼には届かないだろう。けれど…彼と『ただの敵同士』として戦いたくはないと、ティアは思う。だから、言う。

「終焉属性が、ただ破壊だけのものでないことを証明する。それが、オレの夢だ」

 案の定、彼は目を丸くした。そして、苦い顔で言う。

「まさしく『夢』だな。夢物語だ。そんなことが出来るなら、終焉属性は忌み嫌われはせん」

「ちょっと前までは、オレ自身そう思ってたよ。でも、やってみるって決めた。やらずに諦めたくはないんでね。絶望だったら、後でも出来るさ」

「無謀極まりない」

「解ってる。でも、オレ、真剣だぞ。だからこそ、お前達を止めに来たんだ」

「止める…か」

 ティアは笑う。彼も、ほんの少しだけ笑ったように見えた。

 思いは同じでも、願いは決して交わらない。道を塞ぐなら、戦うしかない。それでも…言葉を交わした。夢を伝えた。

 解り合うことは叶わなくても…こういう形で戦うのならば、ティアに悔いはない。

「我が名は、グラン=ラスパード」

「ティア。アストランティア=クルストーラ」

 本名を名乗り、一息に剣を抜き放つ。刀身を滑るように銀光が走り、その刃を煌めかせた。終焉の付与魔術。多少威力は落ちるが、ティアも呪文無しで魔術を使える。

 対峙は一瞬。静寂を切り裂いて、響くグランの声。

「いざ、尋常に勝負!」

 それを合図に、ティアは剣を振るった。



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