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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
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1-9 心地よい諦め

 元より、旅する身であった二人である。すぐに準備は整い、ティアは今、リーフォルクから少し離れた森の中にいる。その横に、当然のようにセフィもいるが。

「ティアさ~ん」

 あの後、ティアはついに我慢の限界に達し、セフィとの会話を一切拒否した。話したくない、というのもあるが、今喋ったら、確実に地が出る。

「ねえ、ティアさん」

 それを、しつこくしつこくセフィが話しかけてくる。正直、鬱陶しいと思いつつ、下草や木々を掻き分けて、ひたすらに前に進む。

「ティアさん…。そんなに怒ってるんですか?」

 そして…ティアは、その場にぴたりと立ち止まった。

「ティアさん、やっと話を…」

(決めた。撒く)

 瞬間、ティアは一気に走り出した。山育ち、森育ちのティアとしては、こういう森の中はむしろ走りやすい。

「闇は我が思いを導く。我が身を不可侵の領域に!」

 走りながら魔術を使い、気配まで消す。これなら、ヤワそうなセフィは追ってこれまい! そう確信して、駆け抜ける。

 しばらく走って、足を止めて。すがすがしい気持ちで後ろを振り返ると…

「凄いですね!僕こんなに速く走る人、初めて見ました!」

(………何故いる?)

 すぐ後ろに、セフィがいた。

 頭の中を真っ白にしながらもよく見ると、セフィの足が地面から僅かに浮いている。どうやら、セフィは風属性魔術で飛んできたらしい。しかも、ティアの気配霍乱を見抜いて。風属性の特殊能力は確かに情報伝達・監視能力ではあるのだが…意外とやるようだ。

「あのですね! 私は、あなたと組む気は、一切、ないんです!」

「でも、もう登録してしまいましたからねぇ」

 一語一語区切ってはっきりと言ってやっても、セフィは応えない。

(…オレ、十分我慢したよな?ここでこいつ殴り倒して放置しても、許されるよな? ってか許せ。許すだろ、なあ!!)

 完全に血の上った頭で、本気でセフィを殴り倒すべく拳を固めたティアは…直後拳を解き、剣に手をかけた。先ほどまでの、怒りと苛立ちは完全になりを潜め、冷徹なまでの冷静さをもって。

「ティアさん?」

 セフィが不思議そうに呟くが、ティアは構わず睨みつける。セフィではなく、その背後にある茂みを。

 心持ち声を落として、すぐさま戦闘に入れるよう鯉口を切る。

「出て来い。隠れてるのは解っている」

 地が出たのは解っているが、そんなことは気にしていられない。感覚を凝らし、気配を探る。強くはないが…数が、多い。最低10人、と数えて、ティアは小さく舌打ちした。

 うかつだった。いくらセフィに腹を立てていたとはいえ、危ない宗教団体のお膝元で大声を出してしまうとは。見つけてくれと言っているようなものである。

「出て来い!」

 もう一度強く言った瞬間、茂みから飛び出してくる人、人、人。セフィを盾にするように飛び掛ってくるそいつらは、それほどの力を持っているとは思えないが、統制が取れている。

「闇は我が思いを導く。我らを包み盾となれ!」

 薄闇が降りたように陰りが生まれる。セフィを防御魔術に取り込み、同時に剣を引き抜き再び唱える。

「闇は我が思いを導く。常闇の剣は我が手の内に」

 ティアの剣の刀身が黒に染まる。剣に魔力を上乗せする付与魔術は、魔戦士の中でも、よほど魔術・体術共に自信のある者しか使わない術だ。ティアとてそこまで剣術の腕に自信があるわけではないのだが、何しろ闇属性は攻撃力が弱い。こうした方が効率がいいのだ。

 結界を解除し、前に飛び出す。すれ違いざまに剣を二振り。まずは2人が、地に伏せる。

「ティアさん、こいつら、『白銀の炎』の信者です! 胸に徽章が!」

 言われて目を走らせると、そこには炎を象った銀の徽章がある。それは確かに、資料にあった『白銀の炎』の紋章であった。

「見張り、か」

 走りながらもぽつりと呟いて、また剣を一振り。3人目が倒れる。

 背後からオレの横を通り過ぎて、風の刃が舞う。セフィの魔術だろう。また2人が戦闘不能に陥った。

 その間に、ティアは更に走る。舞うような動きで残り数人を一息に仕留め、さらにその奥、茂みの中へ。

「あと、一人!」

 剣を振り上げ、そこに隠れていた指揮官らしき男に切りかかろうとして…ティアの手が止まった。

 そこにいた男は、銀髪。終焉属性…!

 一瞬の動揺が隙を生む。その隙に、男は魔術を解き放った。終焉の力が、迫る。

 判断は刹那。セフィが来ないことを祈りつつ、ティアは小声で呪文を叫びながら、剣を持たない左手を薙ぐ。

「終焉は我が思いを導く。呑み込みて無へ帰せ!」

 終焉の力を終焉の力で打ち消し、後に残ったのは、空気を震わせる、音とも呼べぬ鈍い振動。その衝撃を軽く受け流し、ティアは男を見やる。

 小さく見える、後姿。男は、とっくに逃げ出していた。

「大丈夫ですか?」

 後ろから、セフィが声をかけてくる。

「一人、逃がしました。銀髪の男。終焉属性です」

戦闘中は素に戻っていたことを気にしつつ、猫を被った話し方で言う。

「本当ですか!? ティアさん、よく無事でいられましたね」

「運が良かったんでしょう。」

 どうやら、セフィも必死だったらしい。特に気にされていないようで、ティアは少し安心する。

 しかし、と思い、辺りに視線を走らせる。あれだけの数の見張りが徒党を組んで出てきた、ということは…。

「もう近いようですね」

 セフィが言う。どうやら、二人とも考えていることは同じだったようだ。

「そうですね」

 ティアも言って、茂みの奥…男が走って逃げた方向を見つめる。普通なら見逃すかもしれない、僅かな痕跡。折れた梢、踏みしだかれた下草。そういったものを追っていけば、おのずとアジトへたどり着けるだろう。それらを目敏く見つけると、ティアは歩き出した。

「こっちです」

「あ、やっと口聞いてくれましたね」

「もう諦めました」

 苦笑しながらティアは言い、振り返らず歩く。その後ろに、セフィがついてくる気配を感じながら。

 しかし…今はそれが、なぜか不思議と悪い心地はしなかったのだ。


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