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CHANGE!  作者: ヒ日
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「は? ひまわりが、昨日の夜、消えたところを見た……?」

 

 昨日の夜に僕がひまわりと会って起きたことを伝えると、先程ひまわりの存在自体が消えてしまったことを聞かされた僕のように、蓮は無意識にそう呟いた。


 信じられないのも無理はない。だけど全て事実だ。


 そのはずだ。


 蓮は両肘を机の上に突き、指を組んだままのポーズで(うつむ)く。が、悩んでいても進展しないことに気がついのか、すぐに気を取り直したように顔を上げた。


「けど、そんなことがあったとして、何で昨日の夜、教えてくれなかったんだよ」

「ごめん。でも、言っても信じてもらえないと思ったし。流石に疲れて寝ちゃったんだよ」

「……今日寝坊してきたのも、昨日のそれが原因だったのか」

「あ、うん、まぁ、そんな感じ」


 本当はあの悪夢を見たせいもあったのだけど。しかしそれは言う気にはなれなかった。


 思い出したくないほど嫌な夢だったというのもあるけれど、夢の中で、死んだ誰かに泣き叫んでいたひまわりが今は消えてしまっているだなんて、そんなことを、僕を含めひまわりの友人たちの前で冗談でも口にしたくなかったからだ。……いや、でも、どうなんだろう。こういうことも全員に伝えた方がいいのだろうか。でもそんな予兆めいたことが仮にあったとして、なんでそんなことが。


「んー。まぁとにかく事情は分かったよ。……けどよ。やっぱり、そんなこと有り得んのか?」


 目を閉じて腕を組んで黙考していた蓮だったが、やはり理解できなかったのか、眉根を寄せてそう問うてくる。


 ……まぁ、流石にすぐには信じてもらえないよな。


 起きた事が事だし。僕が蓮だったとしても、きっと同じ反応を返したに違いない。

 

 そう、思っていたのだけれど、


「累の言うことを否定したって仕方がないでしょう。あなたは累がこんな状況でそんなふざけた嘘を吐くような人間に見えるの? それにそれじゃあ、あなたは今何でこんなことが起きてるか説明できるの?」

 

 斜め前から援護射撃が飛んだ。菊乃だ。


 鋭い指摘に蓮は一度うっと言葉に詰まるが、しかし、そこは流石に長年彼女と渡り合っている蓮だ。姿勢をやや前に倒すと、


「あんまり考えたくはなかったが、いじめられて失踪(しっそう)、とかは思ったぜ。ほら、よくあるだろ。嫌いな奴の存在を全員で無視して、そいつから居場所を無くすみたいなやつ。それならその辛さに耐えかねてってことで、ひまわりがいなくなっちまったことにも、そして、俺たち以外がひまわりの存在を覚えてないことにも説明が付く。そいつらは全員、ひまわりのことを覚えてないんじゃなくて無視してるだけなんだ」

「あのね。いじめって言うのは、長く続くからいじめなのよ。知ってるでしょう。ひまわりがいじめられてて、私たちが気が付かないなんてことがあると思う?」

「水面下で行われてたとしたらどうなんだよ。俺たち以外、全員、教師も丸め込んでな。それなら俺たちが気付かねぇのも無理ねぇだろ」

「だとしてもLINEのアカウントや名簿が消えていることはおかしいでしょう。それに仮にあなたの言うことが正しかったとしても、昨日のアレ、あなたも聞いたでしょう? ひまわりはイラストレーターとしてプロデビュー前だったのよ。そんな人間がいきなり事前に相談もなしに消える?」

「じゃあ、お前はどう説明するつもりなんだよ」

「……それは」

「はいそこまでー!」

 

 隣に座るすみれが、まるで水泳のけのびのような格好で、争うふたりの間に体をねじこませた。


「もう!二人とも、ひまわりのことを考えてくれるのは嬉しいけど、喧嘩はめ、だよ!『みんな仲良く』がグループ唯一のルールです!」

「いや……僕、そんなルール初めて聞いけど……」

 

 間違いなくその場のノリで作ったものだろう。それにそのルールに従うのなら、僕がさっき新幹線に轢かれて死ねばいいという願望を抱いたすみれは完全に犯罪者になってしまうと思うのだが、どうなのか。


「……悪かった」

「……私も言い過ぎたわ」


 しかし、僕とは違って連と菊乃は納得はしたらしい。互いに目を逸らし、申し訳なさそうな顔で同時に体を背もたれに預ける。


 おそらく、こんな緊迫した状況で、いつものような口喧嘩をしてしまったことを恥ずかしく思ったのだろう。

 

 けど、別にそんな表情をする必要はないと思う。すみれの言う通り、蓮と菊乃はひまわりのことを思って意見を交わし合ったのだし、それに、みんな心が疲弊している状況だ。自我を完全に消して冷静に発言することはものすごく難しい。


 ……ん?


 ……自我、を消す?

 

 ……自分で、自分を……。


「……ドッペルゲンガー」

「え? え? 急にどしたの? 累? まだ体調悪いの?」


 (ひと)(ごと)を言う僕を、心底心配そうにすみれはのぞき込んできた。


 若干失礼な態度な気もするが、まぁそんな反応になるのも分かる。

 

 状況が状況だし、急に変なことを言い出す奴がいれば、そいつの体調を疑いたくもなる。それがドッペルゲンガーなどというイミフな台詞ならなおさらだ。


 しかし、意外にも一人。


 そんな僕に同調する人物が一人だけいた。


「なるほど。それなら確かに、つじつまが合う……」


 菊乃だ。


 小さな顎を右手の人差し指と親指でつまんで頷いている。


 なるほど。普段からそういう物語を作ってたり読んだりしている菊乃なら、これだけで僕の言いたいことを理解できてもおかしくない。というか、僕が思いつかなければ、先に菊乃が思いついていたかもしれない。


「え? 何々? どういうこと? 全然わかんない!

 自分の小さな顔を、隣に座る僕と前に座る菊乃に交互にあわただしく向けてくるすみれ。流石にそこまで露骨ではないが、蓮も眉根を寄せ、どいういうことだと視線で訴えかけてきている。


「いや。ほら、僕達、去年ドッペルゲンガーのゲーム作っただろ。それでさ、思ったんだよ。なんか昨日のひまわりってドッペルゲンガーみたいだなって。話しかけても反応しないで、忽然と消える。そして――ドッペルゲンガーを本人が見れば――本人が死ぬ」


 瞬間、場が静まりかえった。


 が、すぐに、すみれが机を叩き立ち上り、まくしたてる。


「え? いやいや待ってよ。それじゃあ累は、ひまわりはドッペルゲンガーを見ちゃったから死んだって言いたいの? でも、死んだんじゃなくて消えたんでしょ?」

「まぁ、より詳しく言えば、そうね。けど、ひまわりの存在が消えてしまっている以上、同じことでしょう。いや、むしろそれ以上とも言える。だって肉体の死だけではなく、ひまわりの情報さえも全てなくなってしまっているんだから」

「そんな……」


 呟くすみれ。しかし、反論も思いつかなかったのか、顔を伏せて席につく。そしてもう一人、唯一会話に入ってこなかった蓮は意外にも納得、とまでは言わずとも、一つの可能性として考慮しているくらいには真面目な顔で僕達の話に耳を傾けていた。


 すみれとは違って蓮は菊乃と幼馴染だ。小さいころからそういう話を菊乃から聞かされ耐性が付いているが故だろう。そういうところに理解があるのが、二人が単なる敵対関係ではなく腐れ縁とも呼べるもので結びついている証拠だ。まぁもちろん完全に納得したかと問われれば絶対にそうではないのだろうけれど。そして、それは僕だって、そして菊乃も同じだ。


「……あれ?でもさ、それってまずくない?」


 と、疑いは抱きつつも他の説もないのでとりあえずその説を軸にして、これから僕達はどうすればいいのか考えようとしていた時、ぼそっと小さく、すみれが呟いた。


 ……? 何か、まずいことがあるだろうか? いや、確かにひまわりにとってはものすごい災難なことだったとは思うが、しかし、それはあくまで既に、誤解を恐れずに言ってしまえば過ぎたことであって……。


「いや、だってさ、ひまわりがドッペルゲンガーに襲われて、消えて、そのひまわりの記憶を私たち四人だけが持ってるんだよ。それって——」


 ――カツン。


 すみれが続きを話そうとし、そしてその恐ろしい真意を、僕達三人が悟りかけたその瞬間――足音が。

そんな小さく、空虚な足音が廊下から聞こえ、僕たちは振り返った。


 そして、見た。


 その足音が聞こえてきた教室後方の扉。


 その隙間が、少し開いている。


 そこから、誰かが覗いている。

 

 否、誰かではない。


 見覚えのある、長い金髪。


 精悍な顔立ち。

 

 しかし――本人とは似ても似つかない、力のない、しかし見ていると引きずり込まれそうな瞳をした、見覚えしかない、男。


 

 『弓弦羽蓮(ゆずりはれん)』が、観察するような瞳で僕達を見ていた。


 ご一読ありがとうございます。

 よろしければ感想等いただけると幸いです。

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