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朝は普段、学校に向かって歩いていると、家も近所で行く先も同じなので、大抵誰かしら、蓮か菊乃、運がよければすみれとも一緒に学校に行くことになるのだけど、今日は例の悪夢を見たせいで、僕の足はハーレム物の主人公の如く鈍くなってしまっていたせいか、結局誰とも会うことはなく、僕が上履きを履いたのはあわや遅刻になる三分前のことだった。
お遅刻はゆるしまへんでーとか、どっかで聞いたことのあるような檄を飛ばす体育教師にせっつかれながら、僕は慌てて二階にある教室へ向かおうとする。
が、寸前で立ち止まり、スマホを開いた。この学校ではスマホの持ち込みは自由だが、授業中は電源を切るかマナーモードにしておかなければいけないことになっている。スマホを開き、急ぎ飛行機のボタンを押す。何件か蓮からLINEのメッセージや電話が入っていたが、まぁ蓮はクラスメイトなので(すみれも菊乃もひわまりもクラスメイトだ)、別に教室で直接話せばいいだろう。
階段を上って教室後方の扉を開ける。すると、蓮がやけに怖い顔つきでスマホの画面を必死に叩いている光景が目に入ってきた。もう朝のホームルームが始まる前だって言うのに、何をしてるんだろうか。しかも、それを見つめるすみれと菊乃も蓮と同じような顔をしてるし。
なんだろう。
ああ。もしかして電話に出なかったもんだから、風邪でも引いているのかと心配してくれているのだろうか。それだとさっきの大量の着信にも納得がいく。確かに僕はサボり癖のある蓮や、単に寝坊助のすみれと違い、滅多に遅刻もしないしサボりもしないから、そんな僕がなかなか学校に来ないとなるとそんな風に思われても仕方ないだろう。だとしたら申し訳ないことをした。正直そんな気分でもないのだが、ここは友人を安心させてやるためにも、気丈に振舞ってやるべきだろう。
僕は柄にもなく過剰に元気な振りをして三人に近づくと、
「よっ。皆おはよう!」
「累……!? お前、大丈夫か!?」
「…………」
……いや……そりゃあまぁ、普段の挨拶で僕は絶対に「よっ」なんて柄じゃない挨拶を笑顔で言ったりしない。しないんだけど……蓮。それだけで僕は肩をつかまれぶんぶん揺さぶられるほどのヤバいやつだったのか……。菊乃もひまわりもそれにまったくツッコむ様子もないし。むしろそれ以上に心配している感じだし。もうそこそこ長い付き合いなのだけど、改めて僕が皆にどんなふうに思われてるのか再確認したくなってきた。
「何だよ、蓮。せっかく親友が気を遣ってあげたっていうのに、その言い草は。言っておくけど、僕はひまわりの次にこのグループでまともな自信があるぞ。特にどこかの軽薄女たらしと違ってね。……て、あれ? というかそのひまわりは? まだ来てないの?」
貶されたことで毒素が溜まっていたので毒を吐きながら、僕は教室を見渡す。トイレにでも行っているのか、ひまわりの姿はない。あの通り真面目な奴なのでひまわりは欠席はもちろん遅刻なんてしたことがない。いない光景を見るのは珍しい。
「その点については後で議論したいところだが……ああ、そっか、お前、知らないんだったな……」
「え?」
ただ単に友人の所在を問うただけなのに、蓮はやけに神妙な面持ちで、僕の肩から手を離した。
友達の居場所を知らなかっただけで、何故そこまで残念な顔を向けられねばならんのか。
そう思い、僕はすみれと菊乃に同意を求めるべく、彼女たちへ顔を向けた。しかし、あにはからんや、何故か彼女たちも蓮と同様の顔で、そっと目を伏せる。……? なんだ? まったく意味が分からない。どういう遊びなんだ、これは。
「累……確かに俺はお前の言う鳥居、自分でも自分のことを軽薄な奴だとは自覚している部分はある。けど、そんな俺でもこんな冗談は絶対に言わない。だから、ちゃんと、聞いてくれ」
蓮はそう言って、再度、右手で僕の肩を掴んでくる。
しかし、その声は、普段の明るい見た目と裏腹にどっしりとした力強い低音ボイスとは異なり弱弱しく、顔も45度程下に傾いてしまっている。
そして、蓮はギリっと一度歯噛みする音を響かせると、次のような台詞を口にした。
おそらく。
僕が今、もっとも耳にしたくない、その台詞を。
「……ひまわりが、消えた」
「……は?」
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