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アイスが溶けきるまでその場に呆然とたたずんで、やっと我を取り戻し、いや、取り戻せずただ本能の従うままにふらふらと帰宅した僕はその後、蓮あたりに相談したりする気にもなれず、ただ茫然と、日常のルーチンワークをこなし、床に就いた。
きっとあれは夢だったのだ。だから寝て、夢から覚めれば全て解決しているだろうという、淡い希望を抱いて。
しかし、やはりというか、なんというか、そんな夜に限って、僕は悪夢を見た。
そこは病室みたいなところで、ベッドのサイドテーブルの上に置かれたデジタル時計の日付は、正月も正月、今年の1月1日の17時を指している。そこの病室のベッドで寝ている誰かに向け、泣きながらひまわりが何かを叫んでいた。
「×××! 私、絶対頑張る! 絶対プロのイラストレーターになって×××のために皆と一緒にゲームを作る! だから、待ってて!」
×××という部分はきっと誰かの名前が入るのだろう。
その部分だけ靄がかかったようにうまく聞き取れないが、しかし、ここが病室で、普段あまり感情を発露しない彼女が泣き叫んでいるところを見ると、きっと叫ばれている人間は死んでしまったのだろう。
その人物が誰なのか気になって、僕は何故か影が覆いかぶさっていて見えないその人物の顔を覗き込もうとする。
徐々にその輪郭がはっきりしてきて、やっと顔が見えそうになった、その直前――
「っ――!?」
――ベッドから飛び起きた僕は、脈打つ心臓を抑えることで、ようやく自分が夢を見ていたことと、そして自分が夢から覚めたことに気が付いた。
慌てて回りを見渡す。
味気のないシングルタイプのベッド。
制服と、少ない私服がかかったクローゼット。
姿見。
勉強用机とその上に置かれたデジタル時計。
その隣で、異常なくらい存在感を発揮している、去年、ゲーム作りでプログラムと編集を行うため購入した、貯金箱をぶっ壊して買ったデスクトップパソコン。
紛れもない自分の家の、自分の部屋だ。
病室でもなければ、昨日、ひまわりと会った公園でもない、僕の部屋。
外は曇っているのか、早朝だと言うのに薄暗い。
「……こっちが夢ってことは、じゃあ、昨日のひまわりのアレは現実だったっていうのか……いや、にしても、なんだ、さっきの……妙にリアルな夢……っ……!」
急に。
急に胃が逆流する感覚を覚え、僕は慌ててゴミ箱に口を突っ込んだ。
吐瀉物。
昨日食べたアイスも含まれた、僕の吐瀉物。
気持ち悪い。
とにかく気持ちが悪い。
さっきの夢のことを思い出すだけでものすごく気分が悪くなる。
それくらい、さっきの夢は妙にリアルだった。
病室の匂いや温度、ひまわりのセリフといい、とにかくリアルだった。そう。まるで本当に去年、そんなことがあったような……。
「……それこそ悪夢だな」
ゴミ箱から顔を上げ、あまりの自分の夢想っぷりに苦笑する。
ひまわりが泣いていたということは、ひまわりと関係が深い人物が死んだということだ。それはひまわりの友人として、夢とはいえ、考えることさえ憚られるような、最悪な行為だ。
机の上のデジタル時計を見る。日にちはもちろん終業式が行われる7月20日。時刻は午前7時半。
正直親に言って休みたい気分だったが、終業式なので学校は午前中には終わる。
出るだけ出て、その後は夏休みスタート記念とか、終業式で学校が午前中に終わるのはつまりそういうこと、とか言って遊びに誘ってくるであろうすみれには申し訳ないけれど、今日は終業式が終了次第、さっさと帰宅させてもらうとしよう。ひまわりがちゃんと学校に来ているかも気になるし。どのみち行かないことには始まるまい。
制服に着替え、スカスカの鞄を持ってキッチンへ下りる。
徐々に世界から数を減らしつつあるやや過保護気味の専業主婦母親作のテンプレ故に王道な朝食をいただき、僕は悪夢のせいで未だ重い瞼をこすりながら家を出た。
しかし、この時の僕はまだ気が付いていなかった。
その悪夢が、本当の悪夢の始まりに過ぎないということを。
ご一読ありがとうございました。
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