参謀総長と不死身の盾
衛兵に捕らえられ、独房に入れられた俺は、命令違反とブタとの件について、会議に呼び出された。
「アルト・レガリア中尉、だね?」
「はっ!」
この銀髪の軍人が、この軍の参謀総長……
【最優の参謀長】モーリス・ヴァイスマン上級将軍――軍のNo.2だ。
「君の命令違反、そして上官への反逆行為は聞いている。今日はその話をするために来てもらった。」
参謀総長が口を開いた瞬間、場の空気が一気に固まる。
会議に出席している他の幹部も皆、俺の方を睨むように見る。
その顔ぶれは、東部戦線総司令官や参謀本部の幹部など、錚々たるものだった。
まるで、獰猛な狼の群れに睨まれているようなプレッシャーが身を襲った。
「早速だが、君の刑はもう決まっている。」
「はっ!」
降格や謹慎ならまだいい。最悪の場合、反逆行為は極刑になる……
「君の刑は……」
心臓が跳ねる。額に冷や汗が流れ、頬まで伝った。
「3ヶ月の減給のみだ。良かったねぇ!」
参謀総長の声がいきなり和らぎ、場の空気が一気に柔らかになる。
彼の秘書らしき人が、つけられていた手錠を外す。
「なっ……なぜですか?! 私は極刑もあり得る罪を――」
「おや、君は自ら死にたいと?」
参謀総長は、またもや険しい声色になって問う。
「いえ、そういうわけでは……」
「ならいいじゃないか。みんな、彼を責めないでくれよ?」
「わかっております、総長。」
「この会議に出席しているもので、彼を極刑になどと考えている者はおりません。」
会議に参加していた軍の幹部が口を開く。
「ボクはいい部下を持ったなぁ。では、[軍法第2条に則り、会議に出席した者の中で最も権力が高い者、および出席したものの3分の2が賛同したため、アルト・レガリア中尉の刑罰は3ヶ月間の減給のみとする。]いいね?」
「「「もちろんです。」」」
会議に出席していた幹部たちが、一斉に返事をする。
「じゃあ、これでボクは行くよ。」
参謀総長は、会議室の扉に手をかけた。
「ヴァイスマン参謀総長殿!!」
俺は、部屋を去ろうとする参謀総長を呼び止めた。
「おっと、なんだい? レガリア中尉。」
「私は……なぜこんな軽い刑で済んだのでしょうか……?」
「ハァ……」
参謀総長は深くため息を付き、俺の方を向く。
「私も暇ではないのだけれどね……ついて来なさい。」
「はっ!」
俺と参謀総長は、基地の屋上に来ていた。
参謀総長は柵によりかかり、空を眺めながら言う。
「レガリア中尉。」
「はっ!」
「君の両親は、王国出身らしいね。」
参謀総長は振り向き、こちらを見る。
俺は頭を下げ、目線を逸らした。
「君は王国の純血というわけだ……」
参謀総長はこちらに歩み寄り、俺の顔を下から見つめる。
「君は、王国をどう思う?」
その目は、俺だけを見つめていた。
参謀総長の瞳孔に、自分の顔が反射して映る。
「私は……王国を憎んでいます。王国は、両親を……兄を……」
俺は10年前、両親を何者かに殺され、兄と生き別れた。
燃える家と、母の悲鳴だけを薄っすらと覚えている。
両親はもともと王国の人間で、この帝国へ亡命してきたのだ。
きっと、王国は自国の民が敵国に逃げたことを許さなかったのだろう。
両親の死体には、王国の魔法による痕跡が残っていたらしい。
そして、兄は王国に連れ去られた。
その兄を救い、また一緒に過ごすために、俺は軍に志願した。
兄の後ろ姿が思い出される……
俺の声は震えていた。
頬に、涙が伝う。
「なるほど……君は帝国を裏切る気はないと。」
参謀総長は再び空を見上げた。
「はい……私は、帝国軍人ですから。」
俺は、涙を軍服の裾で拭い、答えた。
「安心したよ。君の噂はよく耳にするからね。」
「私の……噂ですか……?」
俺の噂? 王国からのスパイやらなんやらの話だろうか?
そんな根も葉もない噂を参謀総長が信じるとはとても思えないが……
「【不死身の盾】……」
参謀総長が葉巻を懐から取り出し、ライターで火を付ける。
「幾度の戦場を越え、最小限の被害で生還する。君の良い噂はよく耳にするよ。」
「不死身の……盾……ですか。」
「ま、君の噂は悪いものばかりじゃないってわけだ!」
参謀総長は俺にウインクをする。
絶妙にウインクができていないせいで、惨めな顔になっているのは言わないでおこう。
「さて……」
参謀総長は葉巻を口に咥え、ふぅと息を吐く。煙が空へ昇っていった。
「君は仲間の命を守るため、命令に違反した。」
参謀総長が空を眺めながら言う。
「その行動をボクは讃えよう。君は、勇敢でとても優秀な軍人だ。」
まさか、自分がそんなふうに言われているとは思いもしなかった。
「ボクもあのデブブタは嫌いだったしね!」
参謀総長の声色が、急に子供のように幼くなる。
「さ、君にはまだまだ働いてもらうよ!」
「はっ!」
参謀総長が、俺の横を通り過ぎた。
「ボクが、この軍を……そしてこの国を変えるまでね……」
その言葉は今までとは違う、冷え切ったよう声色だった。
「それはどういう――」
「気にしなくていいよ〜」
参謀総長は手を振りながら階段を降りていった。
その後姿に、俺は心からの敬礼をした。




