ネメシス
「やっぱり、圧巻だねぇ……」
モーリスは秘書とともに、軍の機密工場を訪れていた。
視線の先には、数人の作業員と5メートルほどの高さがある兵器があった。
魔導列車によって運ばれていた兵器とは、これのことである。
鋼鉄の分厚い装甲、右腕には大きな砲身、左腕にはパイルバンカーが装着されている。
背中側のバックパックには、巨大なブースターと動力源となる”モノ”が入っている。
「核魔導原動式強化外装、ネメシスですか……」
秘書は抱えていた書類を見ながら呟く。
「無事、ここまで運ぶことができてよかったよ。アルト大尉には感謝だね。」
モーリスはネメシスに近づき、作業員に話しかける。
「触ってもいいかな?」
「どうぞ、調整は順調ですよ。」
「なら良かったよ。」
モーリスはネメシスの右腕に装着されている、魔力砲に手を伸ばす。
黒鉄の砲身に手のひらを合わせ、ゆっくりと撫でる。
「素晴らしいね、流石だよ。」
モーリスの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
すると工場の扉が開かれ、コツコツという安い革靴の音が聞こえた。
「お、来たようだね。」
モーリスは砲身から手を離し、足音のする方を見る。
そこには、赤褐色の髪の少年がいた。
「ようこそ”ガレス・ディル少尉”。」
「どうも。」
少年の目つきは鋭く、モーリスとその背後にあるネメシスを見つめていた。
「それが、例の……」
「そう、これがネメシスだよ。」
ネメシスは、黒く、鈍く輝いていた。
「けど、本当にいいんだね?」
モーリスはガレスの目をまっすぐに見て、尋ねる。
「俺は、これであいつの……コルトの仇を……」
ガレスの右拳が、強く握られる。
その声は震え、拳からは爪が食い込んだのか、血が滴っている。
「調整、完了です。起動実験はどうしますか?」
作業員が汗を拭いながらモーリスに尋ねる。
「ディル小尉、行けるかい?」
「いけます。」
ガレスは、ネメシスのコクピットに乗り込んだ。
コクピットは、人がギリギリ一人入れる程度のスペースしかない。
『起動方法は教わったね?』
モーリスの声が、無線から響く。
ガレスは右手側にあるボタンとパネルを操作し、ネメシスを起動させる。
甲高い音とともに、動力が動き始める。
「ネメシス0式、起動。」
その言葉と同時に、ネメシスの頭部のアイサイトが赤黒く輝く。
装甲に赤色の魔力が流れ、網目状に張り巡らされる。
ガレスの身体にも魔力が流れ込み、虹彩は薄く赤色に染まっている。
「エンジン稼働率、正常です。」
モーリスは、実験室の隣りにある管制室から、その様子を見ていた。
「素晴らしいね。」
ネメシスはゆっくりと、一歩目を踏み出す。
重厚な装甲が揺れ、赤く染まった黒鉄が光を反射する。
「やはり、あの”モノ”には利用価値があるね。これは良い収穫だ。」
モーリスは、秘書を連れて部屋を去った。
その顔には、今までにないような笑みが浮かんでいた。




