防御魔法
「いや〜 隊長が無事に退院できてよかったですよ〜」
俺はノウェルと二人で基地内を歩いていた。
コツコツという革靴の音が、廊下に響く。
左腕のギプスはまだ取れないが、あと2週間もすれば治るだろう。
「【紫電極星】の制服、似合ってますね。」
「そうかな? 俺的にはもっとラフなのがいいんだけどね。」
紫電極星に入って早1ヶ月、相変わらず制服がピシッとしているせいで着心地が悪い。
「あの人、こういうところは遊び心ないんだよな……」
「あの人って……参謀総長殿のことですか?」
ノウェルが少し目を大きくして聞く。
「そうだよ、本当に掴みどころのない人でね……」
俺は軽く首を振る。
「それにしても……」
ノウェルは腕を組み、目を瞑る。
「スピード出世、いいですよね〜」
「そうかな? だいぶ忙しいよ?」
俺は大尉になり、新たに第24歩兵中隊を率いることになった。
大出世だが、書類が多すぎて頭と手が足りない。
左手が使えない今、十分に書類を捌くことはとても難しい。
ちなみに、中隊の中には第73歩兵小隊も組み込まれることになっている。
「疲れるよ、本当に……」
「それも、贅沢な悩みだと思いますよ?」
「そうかな?」
そんな事を話していると、いつの間にか第3研究実験場に到着していた。
「アル! こっちこっち!」
アリシアが手を振っている。
「はいはい、すぐ行くよ。」
俺は駆け足でアリシアのもとへ向かった。
ここでは、回収した王国の杖を解析した魔法、および新型の魔法を開発している。
そして俺達は、あの時に使った防御魔法の研究を行っていた。
「今日もアレ、始めるよ。」
「了解。」
俺は詠唱を始め、あの時に使った防御魔法を展開する。
「OK! そのままキープね!」
「わかった。」
俺の展開する防御魔法は、普通に展開した防御魔法の3倍ほど硬いらしい。
「じゃあ、スタート!」
アリシアが叫ぶと同時に、ノウェルが機関銃を持って待機室のドアから出てくる。
ノウェルは機関銃を俺に向け、どっしりと構える。
「ごめんなさい、隊長!」
トリガーが引かれ、弾丸が放たれる。
俺は気合を入れ、防御魔法に全意識を集中させる。
排莢口から飛び出た薬莢が、床に跳ねる。
弾帯はみるみると短くなっていき、空薬莢が床を埋め尽くしている。
やがて弾丸を全て撃ち終わり、俺は防御魔法を解除した。
ノウェルが機関銃を床に下ろし、ゴトンという音が響く。
「疲れたぁ〜」
俺は床に座り込み、大の字になる。
「お疲れ様でした、隊長! 今、お茶持ってきますね!」
ノウェルが待機室へ走っていったのと同時に、アリシアが待機室から出てくる。
手には分厚い書類の束があった。
「アル〜 良いデータが取れたわ、ありがとう。」
アリシアが書類をパタパタと揺らしてみせる。
「どういたしまして、研究所長殿。」
俺はアリシアをからかった。
アリシアは俺の右隣に足を抱えて座り込み、俺の顔を見つめる。
「もう、その呼び方はやめてよ…… アルも所長なわけだし。」
この研究所の所長はアリシアと、そして俺だ。
「持ってきました!」
ノウェルがペットボトル飲料を3本持って、部屋から出てきた。
「ありがとう。」
「ありがと、ノウェル君。」
それを俺とアリシアに渡し、左隣に腰を下ろした。
「やっぱり、硬くなってますよね?」
ノウェルがペットボトルをくるりと回転させながら言う。
「そうね……実験開始から強度が2倍近くになってるわ。」
どうやら、俺の防御魔法は段々と硬くなっているらしい。
「魔導適性の成長なんて、聞いたことがないけど……?」
なんせ魔法の効力は、魔導適性によって変わる。
適正の低い者がどれだけ強力な魔法を使おうと、適正が高い者には勝てない。
そして、魔導適性は生まれつき持っている力で、生涯変化することのないもののはずだ。
「もし魔導適性が変化するなら、大発見ですよ!」
ノウェルはペットボトルを放り、床に華麗に着地させる。
中の水が静かに揺れ、波を立てている。
「ま、どちらにしろ報告しないとだから。」
アリシアは書類を抱えて立ち上がる。
「じゃあ、報告行ってきまぁす。」
俺とノウェルは、アリシアの背中に手を振った。




