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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第13章 空軍本部
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第73話 共謀

 サラは隠し持っていた銃を素早くホルスターから外す。銃身側を握り、自分の肩に手を置く空兵に殴りかかった。空兵はその手を掴み捻りあげる。サラは痛みに微かに眉を寄せ、死角になるよう反対の手で握ったもう一つの銃を振り上げる。


「二丁とは……生意気だな」


そちらの手もあっさりと受け止められた上、流れるように地面に倒し押さえつけられてしまった。


 失敗した、とサラは思った。逃げるか気絶させるかの判断を見誤った。制服を奪おうと欲をかいたのがいけなかった。どう言い逃れしようか懸命に考えていたが、それは空兵の言葉でストップした。


「落ち着け。私は今お前を連行するつもりはない」


サラにのしかかったまま、空兵は耳元に顔を近づけた。


「お前、サラだな? ノアの妹の。兄を助けに来たんだろう?」


サラの体は意識とは関係なく、ピクリと動く。


「一緒に来い。私はお前の敵ではない……少なくともこの件に関しては」


サラは空兵の言葉を信じてよいのかわからなかった。彼女はそれだけ言うとサラの上からどいた。銃も奪っていない。紫の瞳は立ち上がったサラをあくまで真っすぐ見つめる。


「サラってなんの話だ。オレは――」

「とぼけても無駄だ。私はノア本人からお前のことを聞いている。とにかく一緒に来い。ここでは目立つ」


兄が自分の本名を誰かに話していることとそれが新聞には載っていなかったことから、サラはこの人物は味方になりうると思考を巡らせた。それに、接近戦で圧倒的に強い紫瞳しとう族の彼女は、連行するつもりならとっくにそうしているはずか……とサラは考え空兵について行くことにした。




 キシキシと音を立てるベッドの上にサラは座らされた。空兵の宿舎より自分たちの船のほうが豪華だとサラは思った。


 改めて自分をここまで連れてきた空兵を見た。腰に二本刺している脇差しを取り壁に立てかけた彼女は、肩に三つの星を持っていた。ということは大尉だ。瞳の色は紫。髪はサラと同じくらいのショートカットで栗色だ。歳はノアよりも上だろうが、まだ若い。左胸の名札には……


「紫苑だ」


サラに向き直り、紫苑は名札を見せて名乗った。


「お前の兄の直属の上官だ――いや、だった」


紫苑は板張りの床に座った。サラにはまだ紫苑の意図がわからなかった。


「で……その上官は大空賊の息子と娘をどうしたいんだ?」


何かの罠だった場合すぐ逃げられるよう、マントの中でくすねてきたアベルの煙玉を握った。


「私は今回の件に納得していない。私にとってルイ……ノアは優秀な部下だった。それが突然スパイ行為だなんだと罪を着せられ連行された」


サラは眉をひそめた。空軍の中は一枚岩ではない……?


「ありもしない罪で連行するぐらいだ。上層部は恐らくノアを死刑にする」

「そんなっ……!」


サラは思わず立ち上がった。予想していたことだし、だからこそ単身乗り込んできたわけだが、人の口から直接聞くと落ち着いてはいられない。


「待て、まず聞いてくれ。私はそれには反対だ」


紫苑はあくまで冷静に話し続ける。冷静だが、冷たくはない。この人には信頼したいと思わせる何かがある、とサラはまたベッドに座った。


「私はノアを逃がすつもりだ。お前にそれを協力してほしい。もちろん、これがばれれば私はもう空軍にはいられない……というか恐らく死刑だし、お前も捕らえられれば同じ道をたどる」


紫苑はサラの返事を待っていた。サラは紫苑の目を見た。揺らぎはない。嘘をついてはいないし、つく意味もない。兄はきっとこの人のことを上官として慕っていたことだろうとサラは思った。


「わかった、協力する。私は何をすれば良い?」

「よし。では、作戦を伝える」


紫苑は無駄話をせず淡々と事を進める。軍人らしいとサラは頼もしく感じた。


「……その前に」


すっと物音一つ立てず紫苑は立ち上がり、そっとドアの方へ歩いて行った。手振りでサラにドアからは死角になる本棚とベッドの間に行けと伝えてきた。サラは紫苑にならい音を立てず移動した。紫苑は、ドアノブに手をかけると一気に扉を開けた。


「わっ、隊長〜!」

「バレてたみたいね」


紫苑のため息と共に、翠瞳すいとう族と紅瞳こうとう族の空兵二人が部屋に入ってきた。


「お前たち、どこから聞いていた?」


紫苑が二人を「ケイリーとビアンカ、私の隊の者だ。信頼できる」とサラに紹介した。


「私たちに作戦言う前に妹ちゃんに伝えるなんて、水臭いじゃないですかぁ」

「ケイリー、隊長は私たちが共犯にならないよう作戦を伝えない気だったんだと思うのよ、私」


紫苑はビアンカの言葉に返事をせず、二人にも座るよう指示した。


「っていうか妹ちゃん、ルイに顔そっくり!」

「その眼鏡は伊達かしら? 狙撃の腕も良さそうね」


賑やかな二人だ。自分の船の仲間たちを思い出し、サラは胸の奥がきゅっとした。彼らは今頃どうしているだろうか。


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