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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第13章 空軍本部
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第74話 船の上と独房

 サラが紫苑と出会う一日前、サラが仲間たちから離れた直後――


 船に戻ってすぐ、アベルはサラがいなくなってしまったことを仲間たちに伝えた。急いた気持ちに自然と早口になる。


「いつもと様子が違うのは気付いてたんだ。兄ちゃんのことがあるから落ち着かないんだろうな、くらいにしか考えてなくて。ごめん、俺、全然サラのことわかってなかった。探したんだけど、見つからなくて……」

「わかったから、一旦落ち着け。誰か、拭くものを持ってきてくれないか?」


スヴェンにそう言われて食堂の椅子に座る。寧々がタオルをかけてくれたが、アベルは全身の力が抜けて顔も上げられなかった。別れる直前のサラの思い詰めた顔が、頭から離れない。自分の呼ぶ声に、サラは一切反応せず行ってしまった。


「仕方ありません。僕も船から降りるサラさんを見て、同じように思いました」


肩に置かれたリアムの手は温かかったが、気付いてあげられなかった自分がアベルは許せなかった。サラに投げつけられたバンダナを固く握りしめた。雨を吸った山吹色の布からは水が滴る。


「十中八九、ロンシャス島に一人で向かったな」


スヴェンの予想に船員たちは同意の声を上げる。兄を助けるために、仲間の命を危険には晒せない……サラが考えそうなことだった。それは、こっちだって同じ思いなのに……とアベルは唇を噛み締めた。サラが万が一、戻ってこないなんてことになったら……


 最悪の事態の想像に、すっと心が冷たくなる。嫌だ。もう、大切な人を失いたくない。アベルはサラのバンダナを額に当て目を閉じた。


「甘いわね。ここでまいたって、私たちが止まるわけないじゃない」

「全速前進!」

「助っ人参上!」


マイリと双子は迷いがない。真っ直ぐな仲間の声。アベルは顔を上げ両手で自分の頬をパシッと叩く。


「そうだね、できることをやらないと。斜陽石がまだあるから、俺セットしてくるよ」


まだ痛む胸に蓋をし、食堂を後にしようとしたその時、


「ホーホー!」


甲板で見張りに出ていたノーチェスが騒がしくなった。「僕が行きます」と言って、リアムがサーベルを抜いて食堂から出た。アベルも後に続く。ノーチェスが顔を向けている方向には、見覚えのある白い船の姿があった。


「空軍の巡回船……!」


リアムがはっと息をのむ。ちょうど月明かりが雲で隠れているところにアベルたちはおり、向こうはこちらに気付いてない。


「あれは、使おう」


一緒に食堂から出てきたスヴェンが、断固たる口調で言った。


「陽動作戦だ。浩宇ハオユー、力を貸してくれ。リアムと二人であの船に近づいてほしい」


食堂内からひょっこり顔を出した浩宇は眉毛をハの字にしている。


「もしかして、それは僕たちが『陽』の方?」

「悪いが、そうだ。大丈夫だ。リアムは防御魔法も使えるし、俺たちはそんなに時間をかけない」


おずおずと片手に持っていたお玉をキッチンに置いてから、浩宇は甲板で龍に変化した。その間スヴェンはアベルに船を急上昇させる準備を、都紀とき柘紀つきには船全体に気配を消す術を、寧々ととげ丸に戦闘準備を、マイリに後方支援をするよう指示を出した。


「お互い頑張りましょう」


浩宇の首元にリアムが跨り、しっかりと角を握った。ふわりと浩宇は浮かび上がる。




 天候も味方し、アベルたちはすんなりと空軍の巡回船を制圧することができた。


「制服は頂いて……この人たちどうする?」


下着の状態で猿ぐつわを噛まされ、丈夫な縄でぐるぐる巻きにされた空軍兵たちは、怯えたような蔑むような目で寧々を見た。


「ここから投げ捨てる……」


マイリの言葉に空兵たちの顔は一気に青くなった。下海げかいまで落ちたら確実に死んでしまうのだから。


「……のは流石にかわいそうだから、近くの島に置いてきましょ」

「船は一応もらっていこう。この船に繋いでひっぱれるか?」


スヴェンに「もちろん!」とアベルは頷く。巡回船に乗っていたのは五人。それぞれ違う種族だ。巡回船内には空軍本部への航空図があった。ありがたく頂戴し、そこに載る最短航路でロンシャス島へ向かうことにした。


 船の進路を定めてすぐ、アベルは一人動力室にやってきた。斜陽石を動力機構にセットする。


「サラ、お願いだから無事でいて……絶対に追いつくから」


アベルの碧い瞳には、切実な想いと覚悟の光が宿る。




 サラが紫苑と出会う少し前、ロンシャス島監獄内――


 未だに何の情報も入ってこない。月明かりの差し込む独房で、ノアは大きなため息を吐いた。


 数時間前の夕方、やっと誰か来たと思ったら見知らぬ上官だった。今後の自分の立場や同じ巡回船に乗っていた紫苑たちのことが気になっていたが、それらについては何も教えてもらえなかった。


「ダミアンとの関係は?」

「連絡手段は?」

「ダミアンから何を聞いている? 『イヴァンの鍵』について知っていることを話せ」


といったことを尋問されただけだった。どの質問に対しても「知りません」「わかりません」と答えることしかノアにはできなかった。実際、ダミアンが実の父親であるというのは事実であるが、生家を空賊に襲われてサラと二人で逃げ出して以来会っていない。それ以前も基本的に彼は家にはおらず、ほとんど母親とサラとの三人暮らしだった。三人で暮らしている時は、父親は貿易船の船員だと聞かされていた。


 ノアが『鍵』について知っていることは、世間一般の人々が知っていることと変わらなかった。


「くそ親父……」


壁に向かってそう吐き捨てるくらいしか、ノアにはやることがなかった。


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