第61話 守り
十階分程下ったか……そう思いサラが息を大きくついたところで、階段は終わった。大理石でできていた床が、土に変わった。心なしか気温が下がった気がした。
広々とした部屋だった。天井は高く、暗くて見えない。一行の船がすっぽり入ってしまいそうな程の広さだ。部屋の中央がステージのように小高くなっておりそこに一つ、大きな四角い箱がある。石棺だ。あとはただ四角い空間が広がっているだけだ。
スヴェンが真ん中の石棺に向かったが、何か感じたのか方向転換し壁に近づき松明で照らした。サラも一緒に隣に立ったが、壁の様子を見てぎょっとしてさっと一歩下がった。
「これは墓か?」
スヴェンはよく見ようとさらに壁に顔を近づけた。
「お前、心臓鉄でできてんのか。よく平気だな」
サラの言葉に恐る恐るリアムと寧々もスヴェンと同じ場所に目をやる。
「うわっ……」
「えっ……」
二人の反応はサラとほとんど同じだった。やっぱり普通そうだよな……とサラは少し安心したが恐怖心は増した。こんな壁を作ったやつは気がどうかしている。
スヴェンが近づいた壁は、あるものでできていた。壁一面ぎっしり埋め尽くされているそれは……
「本物の髑髏……だな」
暗く虚ろな目のそれは、スヴェンの持つ炎の光をザラザラとした表面に反射させた。
「古代の魔法の話に髑髏を見張りに玄関先へ置いた魔女の話が出てきますが、それの強化版でしょうか」
「そうかもな。だとしたら、ここには何か重要なものが隠されているということになる」
スヴェンはくるりと壁に背を向け、部屋の中央の高台に登り石棺に近づき手を触れた。
「特に変わったところはなさそうだが……」
その時だ。カチッと微かな音がした。小さく固いものをぶつけたような、そう、まるで歯を強くかみ合わせたような……。音の正体を探ろうと壁に目を向け、サラは驚愕した。
「動いてる……!」
髑髏が顎を動かし音を出していたのだ。始めは一つだけだったのが二つ、三つと増えていき、壁中の髑髏がカタカタと顎を震わせ音を出した。死者の大合唱。サラは全身に鳥肌が立った。
サラたちはできるだけ壁から離れようと中央の石棺の周りに集まった。
「ちなみに……リアムくんの知ってる話だと、その髑髏の見張りは敵を見つけるとどうするの?」
「ちょうどこんな風にカチカチ音を出して侵入者を攻撃してきます」
寧々の質問に答えながら、リアムはサーベルを抜いた。それを見てサラもホルスターから銃を取り出した。
「まだ時間はあるか……? 壁は一面髑髏だ。何かあるとしたらこの石棺だと思うんだが」
スヴェンと寧々が協力して石棺の蓋を開けた。中は空っぽだった。蓋の裏や石棺の内部を照らしてみたが、何も変わったところはないようだった。
「また何か仕掛けがあるのかな……あれ、止まった?」
寧々が棺から壁へ視線を動かした。髑髏の大合唱がピタリと止まったのだ。不穏な静寂。髑髏たちの口は大きく開いたまま止まっている。
「来ます!!」
リアムが素早く水の防護壁を張った。間一髪、髑髏たちの口から真っ黒などろりとした液体がサラたちに向かって飛んできた。思わず後ずさった寧々とサラとスヴェンの衝撃で石棺が少しだけずれた。
「なんだよ、これ!」
サラは壁に向かって発砲した。撃った分だけ髑髏は壊れたが、元の数が多すぎて焼け石に水である。
「僕にもわかりません。でも当たったらただでは済まないと思います」
リアムは防護壁を一定の強度に保つのに精いっぱいなようで、額に汗を浮かべている。
「脱出しよう。早くしないと床も歩けなくなりそうだ。リアム、それを張ったまま移動は?」
「すみません、おそらく崩れてしまいます」
歯を食いしばるリアム。スヴェンは頷いた。
「アベルからもらった爆弾を使おう。壁に投げつけて隙を作って全力で階段まで走る」
「待って。私だけなら、階段までの距離なら瞬身の術を使える。走るより、私が糸で引っ張った方が速いよ」
スヴェンは寧々に頷いて見せた。頷き返す寧々。複雑に指を組み合わせ、サラの投げた爆弾が起爆するタイミングで術を発動させた。本当に一瞬で階段まで移動してしまった。それでも黒い液体が当たったようで、服の一部が少し溶けていた。顔や手に当たらなくて本当に良かったとサラは短く息をつく。
「リアム、悪いが最後で良いか」
「もちろんです。みなさんを守ります。サラさん、さあ」
リアムは息を切らしつつもにこりと笑って見せた。寧々が糸をつけやすいように、サラは階段側に背を向けて立った。
「サラちゃん、行くよ!」
「ああ……ん? これって……うわっ!」
スヴェンが投げた爆弾が爆ぜ、手足と胴と頭がグイッと引っ張られた。気が付いた時にはサラは寧々の隣に立っていた。
「スヴェン、足元に何かある! 棺の下に隠れてたんだ!!」
引っ張られる瞬間、少しだけ見えた。かなり小ぶりだが、時計塔や東の尖塔で見た陣と似ていた。その一部に思えた。
「これは……」
スヴェンがよく見ようとしゃがみ込んだ瞬間、壁の髑髏たちの攻撃の勢いが増した。時間の経過とともに強化される仕組みなのかもしれない。床はもうドロドロの液体の池のようになっていた。
「すみません、これ以上持たないかもしれません……」
リアムは眉間に皺を寄せ片膝をついた。




