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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第2章 王子
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第6話 実行

 黒々とした、月のない夜だった。ルイ達は見張りの兵士たちから拝借した(奪い取った)甲冑を身に着け、隙間なく敷き詰められた石の城壁のすぐそばにいた。ダインはこの場にいない。


「あいつの計画雑過ぎねぇか。オレたちは捨て駒か?」


南の城門の直ぐ側まで近づきながら、ルイが囁いた。


 昼間、やむを得ず協力を約束したルイたち。そんな三人にダインから告げられた計画は、陽動作戦だった。ダインが北から城内に進入するので、そこから兵士たちの気をそらしてほしいというものだった。


 ここらが潮時か……? とこの短い付き合いの二人組から離れることもルイの頭によぎった。しかし、似顔絵の問題がある。自分だけ後から指名手配されてはたまったものではない。


 それに……ルイは昼間の出来事を思い返す。ダインにナンパされた時の二人の態度。ルイが不快な思いをしないよう、危害を加えられないよう前に立つ二人。自分を守る背中を見たのはいつぶりだろうか。


「そうかもな。それか、余程城の内部に精通していて、素早く終わらせる自信があるか」


もうすぐ作戦開始の時刻だ。スヴェンはいつも通り落ち着いている。


「やるからには、ちゃんとやりましょ! 準備はいい?」


マイリが懐から拳大の玉を取り出した。ダインからもらったそれは、枝や葉などを固めたもので火をつけると煙を発生させるそうだ。ルイも同じものを取り出して頷いた。スヴェンはしっかりとした足取りで城門へと向かった。


「第二部隊、トーマスです! 交代の時間であります」


甲冑を身に着けたスヴェンは堂々と声を張り上げた。やや堅いが、疑われてはいないようだ。「んあ〜、ご苦労さん」と眠たげな返事の後、大きな門の脇の兵士の通行用の小さな扉が開いた。


 それを見てマイリとルイは城壁の向こうに、火をつけた煙玉を投げ入れた。


 煙が勢いよく立ち昇るのが見えたところで、二人はスヴェンと合流し何食わぬ顔つきで扉をくぐった。


 城門を入ってすぐは中庭だそうだが、煙で何も見えない。見張りの兵達は騒然としている。作戦通りのことを三人は叫んだ。


「南門から敵襲ー!」

「敵は火を放った模様!」

「南門へ集合ー!」


姿の見えない三人の声に、周りの見張りの兵士たちの声や動きはより騒がしくなる。城壁の上にいる兵士がカンカンカンカン、と火事を知らせる早鐘を打った。


 人波に逆らい、三人はどうにか中庭を抜けた。柱の陰に隠れて重たい甲冑を脱ぐ。石の床に金属の転がる音は、騒ぎでかき消された。ルイの体は一気に軽くなる。三人は、城の兵士達の制服姿だ。


「こっちだ」


スヴェンが迷わず先導する。ルイははぐれないよう、マイリとともにすぐ後に続く。


 南門で騒ぎを起こした後、王の居室のある東棟とは反対の西棟へ向かい、そちらでも騒ぎを起こせとのことだった。


「ここだ」


スヴェンがそっと扉を開けて中に入る。ルイ達がたどり着いたのは食堂だ。すぐ隣に厨房があるはずで、そこで実際に火を起こすことになっていた。


 スヴェンが入ってすぐ、扉横の壁に備え付けられた燭台に火を灯した。その明かりをたよりに厨房への扉を探っていると、食堂の奥で誰かが動いた気配がしルイは飛び上がった。


「誰か起こしてくれても良さそうなのによぉ。おい、お前! 今何時だ?」


兵士のようだった。かなり大柄なシルエットがこちらに近付いてくる。スヴェンが張りつめた声色で答えた。


「午前二時だ。今南門の火災にみんな対応している」

「火災!? そりゃまずいな。俺も行くか……お前らは何してんだ?」


最もな疑問だ。火災が起きたのなら、その対応をしているべきだ。スヴェンは言葉に詰まった。


「放火した犯人が見つかっていない。オレ達はその捜索班だ」


ルイのとっさの嘘に、目の前にいたマイリは後ろ手に親指を立て「よくやった!」と称賛を送る。


「そうか。では、俺も犯人を探すとしよう」


このままどこかに行ってくれれば……と思ったが、ルイのその考えは甘かった。大柄な兵士は突然、背中に持っていた武器を振り回し出した。鎖の先に大きな鉄球がついた、一目見て全身に鳥肌が立つような代物だった。


 咄嗟に両手を体の前に構え身を引いたが、鉄球が掠り入ってきたのとは反対側の扉までルイはふっとばされた。強い衝撃に、一瞬息が止まる。木の割れる音。扉は壊れ、隣の部屋――厨房へとルイは投げ出されていた。


 どうにか起き上がったものの、全身が酷く痛む。すぐ隣には顔をしかめよろよろと立ち上がるマイリ。どうやら同じように攻撃を受けたらしい。


 スヴェンが反対側の壁で片膝をついているのが見えた。生きてはいる。


「俺に向かってそんな口の利き方をするやつぁ、ここにはいねぇ。なんせ、俺ぁ隊長なんだから。賊はお前らだな」


不敵な笑みを浮かべて、隊長だと言う男はかろうじてぶら下がる扉の残骸を鉄球で破壊し、ルイとマイリに近付いてくる。太い首と腕。冷たい鎖の擦れる音。ルイはホルスターの銃に手を伸ばした。


「熱っ!」


突然叫んだ隊長は立ち止まり、スヴェンの方へ振り向いた。スヴェンの掌から、炎が鞭のように伸びていた。


「作戦を遂行しろ! 俺がこいつの相手をする」


炎は消えてしまった。しかし、興味を引かれたのか、隊長はスヴェンの方へと向き直った。


「わかったわかった。先に相手してやる……よっと!」


隊長は鉄球をスヴェンへ投げつけた。壊れた椅子の破片やら砕けた床やらがちらばり、スヴェンの様子がルイにはよく見えない。助けに行くべきか迷っていたルイの腕をマイリが引っ張った。


「行くわよ! 火をつけましょう」

「でも……」

「大丈夫。スヴェンは強いのよ!」


ルイはスヴェンのいる食堂の方へ顔を向け、ぎゅっと拳を握った。響く鉄球の破壊音。震える空気。肩に手を置かれ振り向くと、にっと笑うマイリの顔が目に飛び込んだ。その緊張感のない顔にルイの拳はゆるんだ。マイリに向かって頷き、厨房の奥へとともに向かった。





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