第57話 可能性
リアムが知りたがったのは、主人公が宝玉をどこで誰から受け取るのかということだった。
「確か最初は建築現場で棟梁から、でしたよね?」
双子は仲良くこっくりと頷く。
「その次は、川辺で漁師から」
「その次は、町役場で税収係から」
「その次は、また川辺で漁師から」
「その次は、村人の家で村人から」
交互にすらすらと双子は述べていく。もう物語を覚えてしまったようだ。
「やはり……『宝玉』を納めておく場所としては不自然ではないですか? 城の宝物庫だとか村の長の家だとかではないんです」
「うーん、そうかもね。盗まれないようにあえて変なところに隠したのかな?」
アベルは首を捻る。最初に話を聞いた時に、確かにサラもリアムと同じことを思った。「宝玉」と名のつくものの管理としてはかなり杜撰な感じがした。アベルの言うように意外性を狙うにしても、あまりに適当だ。川辺なんて盗まれる以前になくしてしまいそうである。
リアムはアベルに首を振り、続けた。
「やはり、宝玉というのは比喩だと思うんです」
「各種族の目……か」
そうです、とスヴェンの呟きにリアムは頷いてみせた。
「もらった宝玉は、各種族の目の色と同じです。つまり、各種族の人のことなんです。お話の中では宝玉がすごい力を持っているかのように語られますが、実はそのようなことができた人がいたのではないかと」
なるほど、とマイリがこくこくと頷く。
「だったら、陣の上に置かなくても別にいいわね。もし、その陣が翠瞳族の魔法陣と同じような仕組みなら、近くにいれば発動できるもの」
「ああ、それでリアムは今の話思いついたんだね」
ポンッとアベルは手を打った。スヴェンは組んでいた腕を解いた。
「辻褄が合わなくはない。俺もその説を考えていた。この紅瞳族の島で碧瞳族のサラが陣を見つけられたのだし、陣に様々な種族の古語が書かれていた」
「それなら、メンバー揃えて時計塔で試してみてもいいかもね!」
スヴェンと寧々は乗り気だ。その説が正しいのか、今ならば試せる。そう、黄瞳族の浩宇がここにはいる。全種族がそろっているのだ。
浩宇が夕飯を作っている間(「ぜひ作らせてよ! また美味しいものいっぱいにするよ」)、どのように動くべきかサラたちは食堂で会議を開き話し合った。
「船は残るメンバーでリーミン島へ移動するとして……。浩宇と俺は時計塔で決定……でいいか?」
「おっけー! 上手く行けば、船を使わないで帰れるってことだよね」
忙しくキッチンカウンターの向こう側を動き回りながら、スヴェンの提案を浩宇はあっさりと了承した。危ない橋を渡ろうとしていることをわかっているのだろうか、とサラは心配になった。
「お前、うまく戻れたとして……私たちと一緒にいるところを万が一見られたら、まずいんじゃないか?」
「その場合は、僕たちに無理やり協力させられた、という話にしましょう」
リアムの言葉に「いいの? ありがとう!」と上機嫌で浩宇は返した。サラは浩宇の立ち位置がよくわからなくなってきた。これでいい……のか?
「あとは、どうする?」
スヴェンがみんなの顔を見渡す。紫、碧、翠の瞳をもつ種族はこの船には複数人いる。
「二人で一緒に試せないなら」
「僕たちはいやだな」
と都紀と柘紀が各々腕をクロスし、ばつ印を顔の前で作った。
「じゃ、私行くよ!」
寧々は満面の笑みで手を挙げる。その瞳には恐れや不安はみじんも見えない。
「船をリーミン島へ移動させるなら、俺はこっちに居たほうがいいかな」
そう言うとアベルはサラの顔を覗き込んだ。サラは自分が行くという了承の意を込めて軽く頷いた。
「では、僕も時計台の方へ行きます!」
リアムがすかさず声を張り上げた。そうしなければリアムは女性のメンバーと一緒に行動することができないからだと気づいたのは、おそらくサラだけではない。もしリアムが船に残ったら、マイリが時計台へ行くことになる。そうすると、船にはリアム、アベル、都紀、柘紀、ノーチェス、とげ丸がいることになり、女性は誰もいなくなる。
「良いですか、マイリさん?」
ここ最近で一番真剣な眼差しに、マイリは呆れたように笑って了承した。
「ノーチェスも一緒に行こう。伝令役がほしい」
ノーチェスはスヴェンへ顔を向け「ホー」と嬉しそうに鳴いた。
「さあ、できたよ! 運ぶの手伝ってもらっても良いかな?」
浩宇はにこにこと船室を見回した。サラたちはさっと立ち上がりあっという間に食卓を整えた。腹が減っていたのもあるが、昼間に食べた浩宇の料理の味をみんな覚えていたのだ。あんなに高いレベルの食事は、待ちきれない。
濃厚なソースのかかった白アスパラ、ニンニクやハーブがアクセントになっている腸詰め肉、パスタ生地の中に引き肉や玉ねぎの入ったものがしっとりと浸ったスープ、カボチャの種がトッピングされたパンなどが所狭しと並んだ。
「いただきまーす!」
誰ともなく威勢よく叫ぶように言い、一行は食事を始めた。量は充分にあったが、サラはいつもよりずっと速く食べ進めてしまった。美味しくて手を止められない。味音痴のマイリはどう思っているのだろうか……とチラリと見やった。
「……なあに?」
笑顔でパンを頬張っているマイリはサラの視線に気づいた。なんとなく失礼なことをした気がしてサラは「私にもそのパン、取ってくれ」と言って誤魔化した。
皿はあっという間に空になり、浩宇は目を細めて後片付けをした。
「お前、本当に私たちと一緒に行って大丈夫か?」
渡された皿の水気を布巾で拭き取りながら、サラはまた尋ねた。浩宇は不思議そうな顔をした。
「え……何か問題あるかな……?」
逆に聞かれてしまって、サラは軽くため息を付いた。この船に来る連中は何故か、妙に楽観的というか、緩いというか……。
「なんでもねぇ」
サラは首を軽く振って、食器を拭き続けた。




