第56話 発見
ゴリゴリと響く歯車の回転音。その仕掛けが放置されていた長い年月の重みを伝える。
「なんだ?」
部屋のサラとは反対側を調べていたスヴェンが振り向いた。サラは部屋の上部から目が離せなかった。
「あれだ……!!」
「まさか上に立てない位置にあるとはな……」
サラの指差す方へ視線をやるスヴェン。丸い複雑な模様や文字のようなものが描かれた陣が、仕掛けによって開かれた天井の奥にあった。
「大きいし、色んな模様が描いてある! きっとあれが仕掛けなんだよ!」
見上げる寧々の声は喜びに満ちている。確かにサラにもそう思えた。しかし、物語の中では宝玉を陣の縁に置いていたし、青年は陣の上に立っていた。彼のしたことをなぞらえることはできない。
「宝玉があったとして、置けないね」
「そうだな。とくにはめ込むためのくぼみとかねぇしな」
寧々に肩車されより近くでサラは模様を見たが、新しい発見はなかった。陣を見つけた瞬間は興奮したが、謎が増えた気がしてきた。
「一部、翠瞳族の魔法陣に似通ったところがあるな……。それに、紫瞳族の古語みたいな文字もないか?」
スヴェンに言われて、寧々は目を細めて模様を見つめた。
「あ、ほんとだ! 『身……揃……』うーん、かすれちゃって読めないな。なんか他の種族の古語も書いてあるけど……ほとんど消えちゃってるね」
サラを下ろした寧々は肩をすくませた。先程引き抜いた歯車を見ていたサラは、おかしなことに気がついた。
「お前、この時計の仕組みわかんねぇんだよな?」
「そうだ。以前銃の仕組みを聞いたときと同じで、このからくりも聞けそうにない」
スヴェンが頷き「私も」と寧々が言った。
「だったら、この紅瞳族の島になんでこの時計があるんだ? お前らは私たちのつくったものは使えるし、ある程度のメンテナンスはできる。けど、つくることはできない。この時計はでかすぎて、どこかで組み立てて運び込めるものじゃない」
スヴェンは何も答えず眉間にしわを寄せた。寧々は目を丸くした。
「え……碧瞳族がこの島で造ったってことになるの……?」
「わからない。でも、この陣を見つけるにもこの時計の仕組みの理解が必要だった。この歯車が時計の稼働にはいらないものだって、わからないといけない」
サラは歯車を見つめた。陣を発見したときのように、また鼓動が速くなってきた。もしかしたら、思っていたよりとんでもないものを見つけてしまったのかもしれない。
「元は碧瞳族の島だった……いや、しかし街の建物は紅瞳族の様式だ……昔は他種族で交流があった……根拠は? ……もっとよく陣を見てみよう」
ブツブツ呟いていたスヴェンはまた顔を上げた。この中で観察眼が一番鋭いのはスヴェンだと意見が合致した寧々とサラは、二人でスヴェンを担ぎ陣により顔を近付けさせた。
陣をじっと見つめ、時折少し動くようサラと寧々に指示を出したが、それ以外でスヴェンは口を開かなかった。
「悪かったな。もう降ろしてくれ」
スヴェンの重みから解放された腕と肩をサラはぐいぐいと回した。スヴェンは細身だし寧々と二人で持ち上げてはいたが、流石に痺れてしまった。
「もう一度、都紀と柘紀の話を聞いてみよう」
スヴェンは厳しい表情のままだ。三人は長く狭い螺旋階段を、駆け足で下りていった。
船には既に食料買い出し組が戻っていた。見慣れない食材を浩宇が嬉々として解説していた。船に残っていた考察組も興味深そうに、浩宇の話に聞き入っていた。物語の読み込みからは大した収穫はなかったのだろう、とその様子を見てサラは確信した。
「あ、お帰りなさい! 瞬間移動、見つけられた?」
両手にそれぞれ違う色味の腸詰め肉を持ったまま、アベルがサラたちに笑顔を向けた。
「時計塔にあった」
得意気になっていると悟られるのが気恥ずかしく、強いて淡々とサラは言った。
「そうだよねぇ。そんな簡単に……って、え、ほんとに!?」
「時計塔って教会にくっついてるやつ!?」
双子は身を乗り出して、サラに顔を近づけた。興奮で目がキラキラと輝いている。サラは自分もこんな風に気持ちを素直に表現できたらいいのに、と思いつつ頷いた。
「あ、ああ、そうだ」
「サラちゃんが見つけたんだよ。時計の歯車の謎を解いて!」
寧々の言葉に「おおー!」と歓声が上がった。サラはもごもごと「大したことない」と言った。
「だから、確認したいんだ。サラが見つけた陣は天井に描かれていた。人がその上に乗ることはできないし、宝玉を置くこともできない。どう使うのか、物語にヒントはないだろうか」
スヴェンの言葉にリアムがハッとして、双子に顔を向けた。




