表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第10章 料理人と伝説
PR
51/52

第51話 調理

 船にはすでに都紀とき柘紀つきととげ丸が戻っていた。自分たちで買ってきたであろう年輪型の焼き菓子をもぐもぐと頬張っていた。


「わお、誘拐?」

「人質?」


緑茶で口の中の物を流し込みながら、二人は物騒なことを言う。が、まあ誘拐といえば誘拐か、とサラはその発言に苦笑した。浩宇ハオユーを怖がらせないためか、リアムが穏やかな口調で言う。


「浩宇さんとおっしゃるそうで……貴重な情報を持ったお客様です」


リアムの丁寧な言葉遣いと笑顔は、逆効果のようだった。浩宇の震えは酷くなった。しかし、次の瞬間、


 ぐーぎゅるぎゅるぎゅる……


 突然の轟音に、船室内の全員が動きと思考を一瞬停止した。そしてすぐ、視線を浩宇へと注いだ。


「あ……君たちがお菓子食べてるの見てたらお腹空いてきちゃって……」


恥ずかしさの方が勝っているのか、先程までの震えが完全に収まった手で、浩宇はポリポリと頭を掻いた。吹き出しそうになるのを懸命に抑えながら、サラはとっくに笑い転げている双子に顔を向けた。


「お前らその食ってるやつは自分たちの分だけだよな?」


仲良く全く同じタイミングで頷く都紀と柘紀。浩宇にわけてやることができないが、仕方ない。二人には情報収集に専念してもらうため買い出しは頼んでいなかった。何なら、サラたちが食料の買い出しは担当だった。


「私たちも食料全然調達できなかったね。お昼時だし、私なにか買ってこようか」


寧々《ねね》の提案に、また轟音が鳴り響いた。今度は堪えきれず、サラは吹き出した。


「もしよかったら……僕が作っても良い? キッチンがとっても立派だし、僕は十分に食材を持ってる。全員分足りるよ」


どうやら、今から何か買ってくるのでは遅すぎるらしい。先程の怯えていた人物と同じ人とは思えないやる気に満ちた輝く瞳で、浩宇は提案した。


「作っていただけるなら、ありがたいです」


リアムの言葉にやや被せ気味に「やったー!」と歓声を上げて浩宇は、そそくさと準備に取り掛かった。


 キッチンに立った浩宇は別人のような真剣な顔つきで、手際よく野菜を刻み湯を沸かし肉に火を通した。先程のドタドタ走りが信じられないほどの機敏な動作。彼の筋肉は調理という動きの一点においてのみ、極限まで鍛えられているようだった。彼の料理中、サラたちが「なにか手伝うか」と声をかける隙はなかった。


「はーい、完成!」


サラが今までに見たことがない程、美しく盛り付けられた料理だった。ごてごてと凝っているのではない。食材がその食材らしく生き生きと主張している。それでいて互いを邪魔していない。


「こんなにたくさん、あっと言う間だったね」


寧々は並んだ料理をじっと見つめ簡単な息を漏らす。


「そのまま食べられるものもいっぱいあるからね。パンに挟んだりお皿に盛ったりしただけの物もあるよ」


浩宇は笑顔で答えて、すぐに「さあさあ!」とサラたちを食卓につくよう促した。先程までの浩宇の恐怖は、食欲で完全にかき消されているようだった。


「いっただっきまーす!」

「おいしそー!」


つい先ほどおやつを食べていた都紀と柘紀が真っ先に手を伸ばした。サラたちも右にならい、切れ目に何か挟まれたパンを手に取る。


「うまっ。なんだこれ?」


思わず頬張りながら、サラは呟いた。同じく頬張りながら、浩宇は得意げに答えた。


「豚の生肉のミンチを、レモンとかハーブとかで味付けしたのが挟んであるんだよ。普通は豚肉の生食ってだめなんだけど、紅瞳こうとう族の島でなら食べられるんだ。昔はナハトの姿で生食がよく食べられていたらしくてその名残みたい。あと、彼らは鼻がいいから、肉が悪くなってたらすぐわかるからね」

「へぇ、知らなかったな」


サラは食べる手を止められない。


「その種族の島で生活しないと知るチャンスがないかもね。他のもおいしいから食べて食べて!」


大きな肉団子の入った透明なスープ、程よい酸味のある発酵キャベツ、サクッと揚げ焼きにしてある仔牛肉、ずっしりとした重みと噛み応えのあるパン……。浩宇の言った通りどれもこれも美味しく、遠慮という言葉はサラの脳裏を掠りもしなかった。


「ご馳走様でした!」


寧々がふーっと息を吐き、満足げな声で言った。


「すっかり頂いてしまいました。後で買い出しに行ってお返しします」


リアムが口元を上品に拭って、浩宇に頭を下げた。


「いいのいいの! 僕は自分の作ったものを誰かが美味しく食べてくれるのが幸せだから。それを自分も一緒に味わえるのなら、なおのこと」


浩宇は笑顔で膨らんだ腹をポンポンと叩いた。


「太っ腹だね!」

「都紀、上手いこと言うね!」


また笑い転げる双子とともに浩宇も「あはは、確かに!」ともう一度腹を叩く。食事前にサラたちのことを空賊だと恐れていた彼は、すっかりこの場になじんでしまった。


「ただいまー!……って、どなた?」


日用品を買い込んだ袋を抱えて背中で船室の扉を開けたマイリが、にこにこと目を細めている浩宇を見て首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ