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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第10章 料理人と伝説
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第52話 夢の仕掛け

 浩宇ハオユーとの出会いの経緯を、リアムがマイリたちに簡潔に話した。


「なるほど、詳しい話が聞けそうだな」


とっておいたよ、と柘紀つきに差し出された生豚ひき肉のパンばさみを一口かじりながら、スヴェンが頷いた。スヴェンたちは日用品の買い物はできたものの大した情報は得られなかったらしい。


「何だこれ……うまいな」


先程のサラと同じようにスヴェンが呟いた。


「生の豚ひき肉に味付けしたものだそうです」

「それをパンに……ってスヴェンくんは紅瞳こうとう族だから、知ってるんじゃないの?」


すかさず説明するリアムと寧々《ねね》に、スヴェンは首を振った。


「……俺のいた島では食べてなかったな」


浩宇は興味深そうに「同じ種族でも島によって食文化が違うんだねぇ」と一人頷いている。サラはマイリが何か言いたそうな顔をしていることに気付いたが、彼女はスヴェンと同じ料理をもぐもぐと頬張り続けただけだった。


 浩宇は先ほどサラたちにした教主の話をもう一度、スヴェンや双子たちにした。


「だから、あんなに警備が厳重だったんだ。なかなか入るのは難しそうだね……」


聞き終わったアベルがため息交じりに言った。サラたちの中に黄瞳おうとう族はいない。聖地リーミン島に堂々と入ることはできないということだ。これでは、グスト島に関する手がかりを調べることができない。


「強行突破かしら……?」

「お前、わりとすぐ強引な手段に訴えるよな」


特に他の考えが浮かんだわけではないが、リスクの大きな方法を安易に選択しようとするマイリにサラは思わず突っ込んだ。そんなサラを押しのけるかのように身を乗り出して、双子が待ってましたとばかりに手を挙げた。


「強行突破、賛成!」

「強行……というか、面白そうな話を僕たち聞いてきたんだ」


自分たちの掴んできた情報を披露するタイミングを、ずっと伺っていたようだった。味付けされていない生肉を部屋の隅の止まり木で突いていたノーチェスが、大声にビクッと一瞬羽を膨らませた。


「この島にはね……」

「というか、リーミン島とその周辺の島にはね……」


双子は顔を見合わせ息を合わせた。


「「誰でも使える瞬間移動の仕掛けがあるんだって!」」


サラの頭の中は疑問符だらけとなった。……瞬間移動の仕掛け?


「え、いいね! すっごく便利」

「すぐリーミン島へ行けちゃうわね!」


素直代表のアベルと大雑把代表のマイリは喜びの声を上げた。違うだろ、情報の精査をしなくちゃいけねぇだろ……とサラが突っ込む前に浩宇が口を開いた。


「その噂、僕も聞いたことあるけど……実際に使ったことある人見たことないよ」

「あんのかよ……」


反射的に口を挟んだが、サラはまだ信じられない。そんな技術があるのならば、この世界の物流をはじめ様々な仕組みはもっと違った形になっているはずだ。タソガレ島で都紀ときと柘紀がサフィール空賊団員に魔法で転送されていたが、あれは特定の条件下で魔法が使えなくてはいけないはずだ。誰でもできるものではない。


 そうだ、今浩宇も「噂」と言った。確かな話ではない。


「もちろん、簡単に見つかる場所にはないみたい」

「それに、起動させるにも条件があるみたい」


双子はもったいぶって人差し指を立て、ちっちっちと振る。


「ここら辺の島に伝わる昔話の一節に『大切な五色の宝玉を携えて、高き塔に登り……』」

「『光より速く、壁を、土を、雲を、通り抜け進んで行く』っていうのがあって、それが瞬間移動の仕掛けのことなんだって」


双子はこの情報を島の広場で遊ぶ子どもたちから聞いたらしい。いまいち信憑性に欠ける。それにそれだけでは、どこにその瞬間移動の仕掛けがあってどう使うのかもわからない。都紀が言うには、地面だか床だかに丸く大きい複雑な印が描いてありその上に乗って何かする必要があるとのことだった。


「ざっくりしてんな」


サラは頭を抱えた。やはり子どもが掴んでくる情報なんてこんなものなのだろうか。柘紀はサラの考えを感じ取ったのか


「聞いた話はメモしてある。じっくり読み解けばもう少しヒントがあるはずだよ」


と穏やかに言った。


「それが本当だとして、浩宇はそんな印をリーミン島で見たことはあるのか」

「ないよ……あ、いや……」


スヴェンに尋ねられた浩宇は少し難しい顔をして、腕を組んだ。ムチムチした腕は、かなり組みにくそうだったが、本人は真剣に何かを思い出そうとしているようだった。


「そうそう、東の尖塔にあったかも! 絶対それとは言い切れないんだけど……。立ち入り禁止の場所なんだ」

「祭事か何かで登ったのでしょうか」


リアムに首を振る浩宇。


「どうしても新鮮な鳥肉を使ったシチューを作りたくて、狩ろうと思って……こっそり登っちゃったんだ」


あははは……と少しバツが悪そうに笑う浩宇に、サラは改めて確信した。食べ物のためなら本当に何でもするんだ、こいつは。


「そんな便利なものが実際にあったとして、何でこれまで使われてこなかったんだろうね」

「入島を制御するのが難しくなっちゃうからかな。それか使用にものすごくエネルギーがいるとか」


浩宇の提供してくれた情報により少し信憑性が増したが、寧々とアベルのやり取りを聞いてやはり瞬間移動の仕掛けには不可解な点が多いとサラはため息をついた。


 あまり引き止めても浩宇の立場を悪くするだろうと、帰ってもらうことになった。欲を言えば、どうにかしてリーミン島に入島した際に、案内役として一行は浩宇には一緒にいてほしかった。しかし、さすがにそこまで付き合ってもらっては、浩宇の立場がなくなってしまう。


「長い間お引止めしてしまって、すみません。ありがとうございました」

「ごはんおいしかったわ。ごちそうさま!」


船から降りた浩宇はリアムとマイリの声に笑顔で手を振り、とてとてと去って行った。

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