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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第10章 料理人と伝説
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第50話 食欲

 昼日中、大通りのざわつきが遠ざかる。


 サラたちは船まで戻るつもりで走っていたが、脂肪たっぷりの彼の体力はあっという間に底をついてしまった。


「はあ、はあ……あの……僕もう……動けないよぉ……」


見た目通り、運動はあまり得意ではないようだ。緊急事態なのだから置いて行けば良いのに、買い付けたであろう食材を後生大事に抱え続けていた。薄暗い路地を抜ける前にへたり込むぽっちゃりさんを見つめて、リアムが軽くため息をついた。


「まあ、いいでしょう。大分離れたし、追手もいなさそうです」


サラはまだ肩で息をしている男に、ぐいっと顔を近づけた。


「で、お前は空賊なのか?」

「ええ!? 空賊だなんて……僕はただの料理人だよ。聖地リーミン島の巡礼者向け食堂で働いてる浩宇ハオユーって言うんだ」


慌てて立ち上がりながら、浩宇は弁明した。サラはホルスターに近づけていた手を下ろした。嘘はついていなさそうだ。それに、殺気や悪意をまるで感じない。


「料理人がなぜ他種族の島に……? それに、聖地の名前ははアカツキ島ではないんですか?」


リアムの問いに浩宇は「ああ、まだ伝わってないところもあるんだね」と言って説明し出した。


「三年前に、教主様が沐辰ムーチェン様に変わったんだ。沐辰様は青天教の教えを徹底的に守りたい考えの持ち主なんだよ。だから、自分と同じ黄瞳おうとう族しか聖地には受け入れないし、島の名前も紫瞳しとう族風の言葉から黄瞳族のものに変更したんだ。色々と反対もあったみたいで、それが実施されたのは去年のことなんだけどね」


浩宇は、はぁ……と悲し気なため息をついて続けた。


「それまでは、聖地の食堂は色んな種族の人向けに料理を提供していたんだ。色んな食材、香辛料、調味料、調理法! 自分が育ってきたところでは決して味わうことのなかった、おいしい料理!」


自分で言いながらよだれが出そうになっているようで、浩宇は慌てて口元を手で拭った。


「でもね、黄瞳族しか入れなくなっちゃったから、それがなくなっちゃったんだ。僕は色んな味を楽しむことが生きがいだったのに。今では他種族の料理は禁止。大好きなものを味わえないんだ……」

「もしかして……わざわざ紅瞳こうとう族の食材を手に入れるためにここに来たの?」


寧々《ねね》の言葉に浩宇はこくんと頷き「お願いだから、僕のことは誰にも言わないでほしい!」と頭を下げた。


 何だ、ただの食いしん坊だ……とサラは呆れつつもその執念に感心してしまった。近くの島とはいえ、他種族の島に入るのは違法だ。己の食へのこだわりのためにここまで行動できる人は、なかなかいない。リアムがぽんっと浩宇の肩に手を置いた。


「別に誰かに言おうとは思ってませんよ」


浩宇は顔を上げ安堵の笑みを浮かべた。笑うとただでさえ細い目がさらに細くなり、幸せそうな顔つきになる。どこか憎めない奴だ。サラは肩の力が抜けてしまった。


「で、君たちは遠方からの巡礼者だよね? ここ、他種族同士の島が珍しく近いから、たまに間違えちゃう人がいるんだ。警備隊の詰所に行って事情を話せば、一回なら入島ミスを許してもらえるよ」


浩宇の言葉に、サラたちは顔を見合わせる。見知らぬ人なのにやけにいろいろ気さくに話してくれると思ったが、そういう勘違いをしていたからかとサラは腑に落ちた。


「え……入島ミスの巡礼者じゃないの……? それ以外で他種族の島にいるなんて僕みたいに食材を手に入れたい人か、違法者の冒険者の空賊か……あ……瞳の色、一人だけしか碧くない……ってことは……?」


浩宇は自分で言いながら思い込んでいた方とは違う方の可能性が正しいことに気が付いたようだ。もしも間違えて上陸してしまった巡礼者のグループならば、全員同じ瞳色でなくてはおかしい。眼鏡のないサラが碧でリアムと寧々は眼鏡を通して今は紅だ。浩宇の顔色はみるみる青くなっていった。ころころとよく表情が変わる。


「お察しのとおりだ。けど、別にお前に危害を加えたいわけじゃない。お前が同じ空賊ってんなら話は別だったけどな」

「そうです。僕たちは情報収集しているだけですから、安心してください」


サラとリアムにそういわれても、浩宇は落ち着かないようだった。それはそうか、とサラは思った。空賊と聞けば、平気で人を殺したり物を奪ったりする者たちを普通はイメージする。怖がられて当然の存在なのだ。アベルや寧々が自分たちを空賊だと知っても普通に接してきていたので、自分がそのような存在だということをすっかり忘れていた。


「怖がっているみたいだから、ちょっと申し訳ないけど……料理人なら聖地の内部も詳しそうだよね。やっぱり船まで来てもらって話聞いた方がよくないかな?」

「えぇ……僕、行かなきゃだめ……?」


寧々の提案に震える浩宇をなだめすかし、サラたちは船へ一緒に向かった。紅瞳族の島なので、嫌がりつつも彼は助けを求めることはできない。食材の入った袋をぎゅっと抱きしめながら、すごすごとサラたちについてきた。











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