第47話 わからぬ地図
仲間たちに注目される中、何の躊躇もなくスヴェンはすぐ首を縦に振った。
「この船にはまだまだ余裕がある。入りたいなら入れば良い。地図もくれるとはありがたい」
スヴェンの予想通りの反応に、サラは軽く息をついた。彼は来るものを拒まない。双子は目をぱちくりとさせている。
「え、この前盗みに入ったんだけど……」
「鉱山で、出し抜こうとしたんだけど……」
こうもすんなり承諾されるとは思っていなかったのだろう。双子たちは自分たちで悪事を暴露する始末だ。
「でも、今は仲間になりたいんでしょ?」
マイリが盗みなんて大したことではないといった調子で尋ねる。マイリの細かいことを気にしないこの大雑把な性格にも、サラは慣れてきていた。
「そう、二人の力では限界があるなって」
「鉱山であった時、仲良しで強そうだなって思って」
双子とハリネズミは仲良く頷く。素直である。
「決まりだね! えっと……俺アベルっていうんだけど、君たち名前は?」
「都紀!」
「柘紀……あと、とげ丸!」
アベルの笑顔につられてか、都紀と柘紀も先程の少し尖ったような固い雰囲気の面持ちではなく穏やかな表情で名乗った。
一行に盗……潜入のエキスパートが加わった。
早速新しい仲間が土産に持ってきた地図をテーブルに広げ、全員で覗き込んだ。地図は一般的な世界地図と同じような大きさだが、紙でも羊皮紙でもない、サラたちが知らない丈夫な素材に描かれていた。
「これ……どういうことだよ?」
サラは首を傾げる。素材だけではなく、内容もサラが知っている地図とは違った。知っている島々がない。描かれているのは、てんで見当違いな場所に描かれた見たことのない形の島々だった。その中の一つに「グスト島」と名前が書かれていた。
「まさか、偽物……?」
寧々《ねね》は訝しげな表情を浮かべた。
「サフィール空賊団が偽物を賞品にするとは思えないが……」
スヴェンは腕を組む。世界地図だけではなく、各地方の拡大図も見比べてみたが、グスト島の地図と合致するものはなかった。
「ブノワさんの日記通り、アカツキ島へまずは行ってみますか」
顎に手を当てたリアムは、うーんと唸りつつ提案した。そうするしかない、と満場一致で船の進路は以前と変えずアカツキ島へ向けることになった。
ローズウッドのアンティーク家具が、互いを邪魔しない程よい距離感で配置された船室。テーブルやチェストには、繊細な職人の技が光る植物を象った象嵌細工があしらわれている。それらの家具のどこにもちりひとつない。
「で、どんな奴が地図を手にしたんだ?」
紅のベルベットのはられた美しいカーブの背もたれの椅子に、似つかわしくない薄汚れたジーンズで男はどっかと座った。
「……ダミアン、私は以前、ここに来るときは相応しい服装にするようにと言わなかったか」
やれやれ、と首を振りながらダミアンは立ち上がった。足元は年季の入ったブーツ、シャツの裾はだらしなくズボンから出ており、癖っ毛の黒髪が豊かな頭。そこに巻いた臙脂色のバンダナは色褪せている。
「悪かったな、持ち合わせがこれしかねぇんだよ。で、サフィール、俺の質問に答えてくれよ。賞品の提供者としては気になるぜ」
にやりと不敵な笑みを浮かべ、吊り目の奥の碧い瞳を好奇心に輝かせながらダミアンは答えを促した。
「手にしたのは、十歳くらいの紫瞳族の双子の男の子だ」
やるねぇ、とダミアンは軽く口笛を吹いた。
「そんぐらいの歳の時、俺も宝を集めるのに夢中だったな」
「お前の幼少期には毛ほども興味はない。しかし、あの地図を手放して本当に良かったのか? お前は今最も『イヴァンの鍵』に近いと言われているらしいが、追い抜かれる可能性があるのでは?」
サフィールは冷たくぴしゃりと言い切る。いつものことなので、そんな物言いをダミアンは全く気に留めない。
「俺は仲間が欲しいんだ」
「既にいるではないか」
違うんだなぁと言うようにダミアンは軽く指を振る。その動作にいら立ちを隠さずサフィールは眉間にシワを寄せる。そんなサフィールの態度にもダミアンは尻込みせず、自信に溢れた笑顔を浮かべて続ける。
「同じ船の仲間ってことじゃねぇ。同じ志を持つ奴らってことさ。俺と同じものを見て同じような結論に辿り着いてもらいたいんだ」
「……よくわからんが、これで借りは一つ返したぞ」
サフィールがテーブルの上のベルを鳴らすと、翠瞳族の男が部屋へやって来た。「ほんと、お前ってつれないやつだよな」とサフィールに向かってぼやくダミアンを、その男は魔法を使って送り返した。




