第44話 派手に
リアムの胸元のポケットにあるバンダナは、熱いままだ。前を走る同じバンダナを手首に巻いた双子らしき男の子の片方が足を怪我しているのに、リアムは気付いた。あれだけ腫れていてよく走れるな、と泥棒相手に感心してしまった。
「ねえ、この大きい子どこまでついてくるのかな?」
寧々《ねね》はゴーレムを指差し、息の上がっているアベルをちらりと見た。前を走る双子もどうにかしたいが、確かに後ろのゴーレムも厄介だ。リアムは無意識に眉間にしわを寄せていた。
「それはゴーレムと言って、術者の命令どおり動く石の人形です。きっと見つけた参加者を追いかけるよう仕組まれているんでしょう」
「止めるには?」
「術者に術を解かせるか、壊すかしかありません」
寧々に二通りの方法を示したが、実際この状況では後者しかできない……とリアムは眉間のしわをさらに深くする。きっと術者は運営側の人間だ。鉱山の外にいるに違いない。
「生き物じゃないなら、思い切りいっていいかな」
アベルがごそごそとバッグから大きめの爆弾を取り出した。目がキラキラと輝いている。アベルのはぁはぁという荒い呼吸は、走り続けているせいだけではない、とリアムは確信した。
「リアム、防御する魔法ってできるかな。結構爆風がすごいと思うから」
リアムが頷いたのを見て、アベルは爆弾を三つゴーレムに投げつけた。粘着力があるようでそれぞれ腕と胴体と足の辺りにくっついた。
「爆発まで十秒! 全速力で走って!!」
アベルに言われて寧々とリアムは力を振り絞りスピードを上げた。アベルも歯を食いしばって懸命に駆けている。
前を走る双子の泥棒に追いついたところでアベルが叫んだ。
「リアム!!」
「任せてください」
アベルにそう返し、自分ができる中では上級な魔法を発動させた。地面や天井から水が湧き上がり通路を塞いでいく。水の膜が完成する前にアベルが別の爆弾をゴーレムに向かって投げた。
「二、一……」
アベルのカウントダウンは完璧なタイミングだった。落雷したかのような爆音が鳴り響く。揺れる坑道。リアムの作った水の防護壁は吹っ飛び、双子も含め全員がずぶ濡れになった。
「すみません、強度がいまいちですね……」
濡れた前髪をかき上げながらリアムは謝罪した。もともと防御は得意ではないがここまで跡形もなくなると心が折れそうだった。その言葉を聞いてアベルがぶんぶんと首を振った。濡れた髪から水が飛び散り寧々が手をかざした。
「そんなことないよ! 一応相殺できるようにもう一つ爆弾は投げておいたけど、リアムの力がなかったら、こんなもんじゃすまなかったはずだよ。石がびゅんびゅん飛んできて大怪我だ」
アベルは穏やかそうに見えて、どこか頭のネジがぶっ飛んでいる。リアムは一周回って笑えてきた。
都紀と柘紀は爆破の規模にあ然とし、逃げるのをすっかり忘れていた。ゴーレムは粉々に砕けて、ただの土塊となっていた。自分たちがどう頑張っても破壊できなかったあの硬い塊を、ものの数十秒で機能停止にしてしまった。まだ空を渡り始めて日は浅いとはいえ、何人もの空賊を見てきた二人には衝撃的だった。
「あなたたち、コインとバンダナをちょうだい」
自分たちと同じ紫瞳族の女に声をかけられ、二人は我に返った。
「コインなんて持ってないよ」
「バンダナってなんのこと?」
咄嗟に飛び退き距離を取り、二人はこの場を凌ぐにはどうすればよいか考えた。
「コイン持ってんのか!?」
都紀と柘紀の後ろから野太い声がした。振り向くと、筋骨隆々の男が炎をまとった拳を振り上げていた。二人はとっさに避けた。男の拳は地面を大きく抉った。二人は息を飲む。
「声出さなきゃ取れてたよ……」
「ほんとほんと」
男の後ろからは女二人が呆れ声で言う。非常にまずい事態になってしまった。双子は二つのチームに挟み撃ちされる形となった。
「これ、もらったよ」
都紀は赤髪の爆弾男の手元を見て目を丸くする。そこには自分たちが先ほど見つけた金色に輝くコイン。攻撃を避けた瞬間に落としてしまったのだろうか。都紀は咄嗟に隠し場所にしていた腰にぶら下げている道具袋を覗いた。……コインはそこにあった。一体どういうことなんだ?
「アベルさん、お見事です! 僕が預かりましょう」
「うん、お願い。あっ……」
赤髪が翠瞳族の仲間に渡そうと投げたコインは、手が滑ったのか見当違いな方向へと飛んでいき、元々ゴーレムだった土塊のさらに向こうへと転がっていってしまった。
「ああっ……」
それを見て、悲鳴ともため息とも言えない声を出す紫瞳族の女。
「コインは俺たちのもんだ!」
筋骨隆々の男とその連れの二人は、双子とリアムたちを無視して通り越し、コインの転がっていった方へ駆けていった。それを見届けたアベルと呼ばれていた男がまた爆弾を取り出し、今度は壁や天井に設置した。
「さ、危ないから離れるよ!」
そう言ってアベルはカウントダウンしながら走り出した。都紀と柘紀の脳裏に先ほどのゴーレムを破壊した衝撃が蘇る。言われるがまま双子たちは駆け出した。




