第42話 犯人
鉱山の外、午前のまだ控えめな日が、興奮や不安にざわめく観覧者を照らす。
地図上の仲間たちの名前がついた点を目で追いながら、サラは手に汗を握った。違う色の点(点の色はチームごとに違っていた)とぶつかったのだ。交戦しているようだった。
「セシル様ー! 華麗に薙ぎ払って〜!」
中央に座る観覧者たちが、異様な盛り上がりを見せている。目を向けてみてサラは席からずり落ちそうになった。ざっと三十人はいるだろうか。大きく「セシル様」と書かれた板を持って振っている。団扇に書いている者もいる。よく見ると「クライヴ様」「ローレンス様」と書かれているものもあった。
黄色い声援は止むことがない。
「楽しそうね、あの人たち」
マイリが感心したように呟いた。
「セシルって言ったな。リアムたちが戦っている相手の空賊だ。仲間か……? 女性の割合が多いな。参加者の三人は相当崇拝されているようだ」
スヴェンはじっと見つめて観察しているようだった。崇拝……あそこまで熱狂的に応援。まさにそう言い表すのがぴったりだとサラは頷いた。
サラが地図に目を戻すと、敵の三つの点のうち二つの色が薄くなっていた。行動不能の目印だ。サラはよしっと小さくガッツポーズをした。同時に追っかけ集団からはため息や悲鳴が聞こえた。
最後の一つの点も色褪せると、集団の中には「そんな!」「おいたわしい!」と呟き気絶する者も現れた。サラは自分の知らない世界を見た気がした。
そんなことより自分の仲間だ、とはっとしてサラは賑やかな集団から地図へと目を戻した。
リアムたちはバンダナ窃盗の犯人をスピードを上げて追った。ゴールに着く前に捕まえなくては、優勝賞品は貰えないし、バンダナを持ったまま逃げられてしまうかもしれない。
「手首に巻いててくれてラッキーだったね!」
「ね! でも、何で手首なんだろ。私が盗む側なら、自分が犯人だってばれないように見えないようにするな」
アベルと寧々は揃って首を傾げる。リアムは自分の仮説を話した。
「この鏡を見て思い出したんですが、僕たちのこのバンダナ、城の宝物庫にあった『幸せの黄色いハンカチ』に似てるんです」
二人は目をぱちくりとさせる。リアムは続けた。
「そのハンカチも、この鏡同様魔法の道具です。他の人に見えるように身につけると、素晴らしい幸運が持ち主に訪れます」
「すごい! そんな道具だったら、確かに見えるように手首に巻くかもね」
アベルは何度も頷いている。
「じゃ、リアムくんは身につけたことあるの?」
寧々の疑問に「まさか」とリアムは首を振った。
「そのハンカチを次の持ち主が身につけると、前の持ち主には、訪れた幸運の分不幸が襲うんです。体の一部がなくなったり大切なものを失ったり……亡くなってしまうこともあるとか。だから、悪用されぬよう宝物庫にきっちりしまってありましたよ」
アベルと寧々は恐怖に引きつった顔を見合わせた。
「犯人がそこまで知っているのか、あるいは全く別の理由で身に付けているのかは聞いてみないとわかりませんが……」
今までリアムが聞いてきた『幸せの黄色いハンカチ』にまつわる話では、身に付けた者たちは切羽詰まっているかぶっ飛んだ思考の持ち主かのどちらかだった。リアムは犯人たちに俄然興味が湧いてきた。
その頃、鉱山内の別階層の坑道にて――
少年は手首に巻いた山吹色の布をかざし、双子の兄に顔を向けた。
「これ、本物っぽいよ。一番にコイン見つけられちゃったもん。なあ、柘紀?」
呼びかけられた柘紀はサフィール空賊団からもらった地図をくるくると巻き、それを懐にしまう。
「油断大敵! どちらにせよ、気をつけて進まないと。コインを持ってるってことは狙われる側になったってことだよ、都紀」
いつも通り慎重な兄の柘紀に「はいはい」と弟の都紀は軽いため息をつく。柘紀は軽く首を振り、両手でそっと足元のハリネズミを持ち上げる。
「何か気付いたらすぐ教えてね、とげ丸!」
ハリネズミは鼻をヒクヒクさせて柘紀に返事をした。
アップダウンのある暗い鉱山の中を走り続けるのは、なかなか体に堪える。ただ一人息の切れていない寧々。紫瞳族は身体能力が高いという話をリアムは身に染みて実感した。
「二人とも大丈夫?」
リアムとアベルに合わせて、寧々はスピードを落とした。
「どうにか……あと少しです。アベルさん、頑張りましょう!」
「はぁ……はぁ……が、頑張る……!」
アベルは話すのも苦しそうだ。リアムは足を止めた。
「だ……大丈夫! 俺学校で長距離走の大会わりと上位だったから……まだ行ける」
止まってしまったリアムを見て、息も絶え絶えに笑顔を作りアベルは走るポーズをした。リアムは思わず吹き出してから、話した。
「いえ……アベルさんは走り続けられると僕は思ってます。そうではなくて、相手の動きが止まりました」
「別の参加者と接触したのかな」
寧々は、すぐに戦闘に入れるよう糸を出した。何であれ、慎重にかつ素早く近付こうと頷き合い、一行は再び走り出す。




