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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第9章 宝探しゲーム
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第41話 そういう性格

 リアムの肌が、ピリッと張りつめる。


 クライヴ、ローレンスと呼ばれた二人は、それぞれ手から火炎放射と水鉄砲を繰り出した。狭い坑道に熱と冷気が同時に充満する。


 真っすぐ伸びてくるその攻撃を、リアムは水の刃で切り落とす。ジュッと蒸気を上げ消える炎。水流は大きく勢いを削がれ、アベルと寧々《ねね》はそれをひらりとかわす。


「寧々さんは手前の二人、アベルさんは奥の彼を。僕はお二人のサポートをします」


頷くアベルと寧々。寧々はさらに距離を取り、背負っていた包からそれを取り出した。素早く両手の指を特定の型に組み合わせた。


「糸繋ぎの術!」


寧々の指からそれぞれ糸が伸び、取り出したものとつながった。糸は非常に細く、目を凝らさなければよく見えない。


 アベルはバッグからさらに別の物を取り出し、いつでも投げられるよう準備した。リアムはサーベルの水の魔法を保持し構えなおす。


 クライヴとローレンスは先ほどと違う詠唱を始める。上級魔法か……とリアムは身構える。それぞれの拳に、轟々と炎と水が集まり出す。


 しかし、それが放たれることはなかった。


「どうしたんだ、二人とも!」


セシルは大げさに両手で頭を抱えて叫んだ。詠唱の途中で二人は倒れてしまった。気を失っている。ポーズを取っていないで助け起こしなよ……と敵ながらリアムは心の中で突っ込む。


「こいつか!」


セシルがポーズを解き、扇を構える。


 それは、人形だった。伝統的な紫瞳しとう族の隠密装束を着たかわいらしい男の子だ。手にはクナイが握られている。人形の大きさは寧々の膝上程で、手や足から細い糸が伸びている。その糸は寧々の指へと続いていた。




 昨日の作戦会議の際、寧々はリアムたちにこの人形を操る術を披露していた。


「私は無系統の術使い。元々この糸は感知用で……気象予報もこれで風向きや空気の状態を感じ取ってしてるの。『糸繋ぎの術』は、遊び相手が欲しくて上達したんだ」


寧々の言葉にリアムの胸はちくりと痛んだ。彼女の両親は旅商人だと言っていた。孤独な少女が人形遊びをする様子が自然と思い浮かんだ。




 セシルは人形の糸を狙い、攻撃を飛ばす。


「残念。この糸は私の気そのもの。切ることはできないの」


寧々はそう言うと人形を下がらせた。


「これ、服は汚れないからいいよね?」


人形に集中していたセシルの隙を狙って、アベルはボールを投げつけた。セシルは扇を真横にさっと振り、風の斬撃を繰り出す。ほのかに緑に輝くその刃は空中のボールを真っ二つに切り裂き、なおも真っすぐ飛ぶ。咄嗟に両手を首前でクロスするアベル。


「それでは、防げない!」


高らかに言い放つセシル。アベルは両目を瞑る。


「うわっ!」


アベルの体ががくんと後ろへ引かれる。リアムは詰めていた息を吐き出す。


「その糸、人にもつけられるんですね……!」

「うん、引っ張れてよかった。でも、腕ちょっと切れてるね」


アベルの背中には、寧々の糸が付けられていた。


「大丈夫、掠っただけ。ありがと!」


アベルは腕から滴る血を意に介さず、首にぶら下げているゴーグルをかけバッグから先ほどのものと同じボールと、もう一回り大きい六角柱を取り出す。


「無駄なことを」


扇を構え不敵に笑うセシル。投げられてもいつでもまた切り裂くことができる自信。


「二人とも、目閉じて!」


アベルは取り出した六角柱を投げずに、握ったまま脇のつまみを回した。


 瞬間、真昼のように眩い光が坑道内に広がる。


「なっ……」


反射板付きの特別明るいランタン。視界を奪われ目を覆うセシル。続けざまに投げつけられたボールは、彼の顔に命中し破裂した。


「このセシルの顔になんてことを……うっ……染みる!!」


涙を流しうずくまるセシル。光が収まり、アベルがゴーグルを外す。得意げな笑顔が零れる。


「俺特製の目つぶし弾だよ」

「私の完璧な表情が……この……うっ」


なおも扇を構えるセシルの後頭部に、寧々の人形が打撃を加えた。ぐらりと倒れるセシル。


「ふう! アベルくん、包帯巻いておこう」


寧々は糸を引っ込め、人形をしまう。代わりに救急セットを取り出した。


 アベルの腕の怪我をリアムは寧々とともに確認した。幸い傷は浅く、アベルは問題なく手を動かすことができた。


 安堵のため息をついたリアムは、ふと倒れているセシルへ目をやった。懐からなにかがのぞいている。手鏡のように見えるが、リアムはそこから不思議な魔力を感じた。拾い上げてそれの正体を確認したリアムは微笑んだ。


「作戦成功ですね。これを使えばコインまでたどり着けそうです」


リアムが拾ったのは、大変貴重な魔力の籠った道具だった。自分の城にも一つあったが、一般人が普通に暮らしていればお目にかかることはまずない。


 それは自分の望むものを映し出す鏡だった。望むものといってもなんでも映るわけではない。自分が名称と形を把握している物だけだ。生き物は対象外。リアムは地図に載っているコインを見ながら、鏡に問いかけた。


「鏡よ、鏡。宝箱に眠るコインを映しておくれ」


鏡からあふれる直視できない程の光。数秒してそれが収まり、リアムたち三人で覗き込むと……真っ暗だ。


「これって、自分の見たいものを映してくれるの?」


アベルの疑問にリアムは「そのはずなんですが……」と首を傾げた。


「コインはさ、宝箱の中にあるって言ってたよね。つまり……」

「あ、箱の中は真っ暗だね」


アベルの言葉に、ぽんと手を打って寧々が補足した。


「そうですよね……僕の考えが浅はかでした。宝箱の形状は明かされていないから、この鏡では見られません。この人たち、なぜ自信満々で走って行ったんですかね……」

「そういう性格なのかもね。だってほら、やられたのに何だか自信ありげなポーズで倒れてるし」


寧々が敵を指し示す。確かに、とリアムは苦笑いした。意識のない三人はそれぞれ芸術的なポーズを取って倒れている。この三人組も相当だが、安易に見つけられると思ってしまった自分がリアムは恥ずかしかった。仕切りなおさなくては、とリアムが思案し始めたところでアベルが「あっ」と声を上げ鏡を指さした。


「誰かが見つけた……!」


鏡にはコインを握る誰かの手が映っている。次の瞬間、三人は同時に短く驚きの声を上げた。


「バンダナ!」


鏡に映った手首に巻かれているのは、間違いなく一味の身に着ける山吹色のバンダナだった。ということは、コインを見つける、バンダナを盗んだ犯人を見つけるという二つの目的が一つになったということだ。


「リアム、今度はわかりそう?」

「任せてください」


アベルに大きく頷いて見せ、リアムは魔法を使った。先程のような人ごみではないので、はっきりと目的の人物たちの方向が分かった。


「こっちです!」


行動不能となった自己陶酔男たちを残し、三人は先へ進む。





 

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