第40話 こっそりあと追いコイン奪取作戦
猛る空賊たちと土煙にまぎれ、作戦通りリアムたちは少し遅めに駆けだした。名付けて「こっそりあと追いコイン奪取作戦」。発案者はスヴェンだ。ちなみに、名付けたのはマイリ。
昨日の午前中、食堂での話だ。
「お前たちの中に、地図に描かれた絵からその実物を探索出来るほどの魔法や術を使えるものはいない。そんな科学技術もない。でも、参加者の中には、そういうことができる奴もいるかもしれない」
スヴェンの言葉に全員が難しい顔になった。そんなことができる人がいるのなら、そのチームは圧倒的に有利だ。
「だから、そういう奴のあとをつければ良いんじゃないか? よく観察するんだ。自信満々で駆けて行く参加者を」
他にも作戦は色々と考えたが、三人は初動はコインの場所を確信している参加者を見つけることに専念した。コインのありかに確信があるのならば、魔法や術を使いながら迷いなく鉱山の中に入っていくはずだ。
それらしきグループが一つあった。男性三人組だ。ゆるりとした白いローブを靡かせ颯爽と駆けていく。その服装から全員翠瞳族だろうとリアムは推察した。リアムはアベルと寧々に目くばせをする。二人とも彼らがターゲットだと認識したようで、黙ってうなずいた。できる限り気配を消して、三人の男のあとを追った。
先頭を走る銀色の長髪の男がリーダーのようだった。遠目に後ろ姿しか見ていないのに、リアムはなんて気障な人なんだろうと思った。走り方だろうか。何だか自分にやたらと自信があるような雰囲気が出ていた。
「あの人、ちょっとリアムくんに雰囲気似てるね」
こそっと囁いた寧々の言葉に、リアムは同じ種族という意味だと良い、と思った。
ぽっかりと空いた巨大な生き物の口のような鉱山の入り口に三人組は、吸い込まれていった。リアムたちは見失わないぎりぎりの距離をあけて追いかけた。
鉱山内部。前を行く三人組は持つ明かりがちらちらと揺れる。その光はリアムたちまでは届かない。周囲は星のない夜空のように暗く、闇に手足が溶けてしまったかのようだった。
「相手にばれるかもしれませんが、さすがにこのままでは進めませんね……」
リアムの言葉に、アベルが持参した小型のランタンに明かりを灯した。アベルが通常のものを改造しており、炎が消えにくい造りになっている。
高さ二メートル程のトンネルが続いている。幅は三人並んで走ると少し窮屈だった。土がむき出しの壁に、リアムたちの影が躍る。
前方の明かりが淡くなったかと思うと徐々に見えなくなった。曲がり角があるようだ。リアムたちは慌ててスピードを上げて追った。
「あ、アベルさん!」
待ち伏せされている可能性……それを恐れ、リアムと寧々は見えてきた曲がり角の手前で減速した。しかし、アベルは間に合わなかった。いや、アベルもスピードは落としたのだ。しかし、ランタンの明かりの分まで計算に入れていなかった。
シュッと鋭い風の音。
寧々がアベルに体当たりする。寧々とともに倒れた拍子にアベルの手から離れたランタン。それは無残にも、空中で真っ二つになった。ふっと明かりが消えた。
「ありがとう、寧々」
「ううん、無事で良かった。……ばれたみたい」
寧々は素早く体勢を立て直した。アベルは転んだ体勢のまま、以前も使用した小型の爆弾をバッグから取り出すと、敵がいると思われる方へ投げた。
坑道内に響く火薬の爆ぜる音、ぱらぱらと落ちる小石。
続けざまにもう一つ何か取り出すと、アベルはそれを上に向かって投げた。ザクッと何かが刺さる音がしたかと思うと、周囲が明るくなった。
「どこかに刺すと自動的に火が付く仕組みにしてあるんだ」
アベル特製の小型のランタンだった。人が五人くらい固まって入れそうな範囲が照らされる。ちょうど曲がり角の天井に付けたので、向こう側も見通せそうだった。リアムは様子を見ようと鏡を取り出す。爆弾は効いたのだろうか? まだ動けるならば、風の魔法を使って姿を見せないまま同じことをしてくるかもしれない。さて、どうしようか……。
「お前たち、このセシルに何をしてくれる!」
リアムの想定とは逆に相手は堂々と曲がり角から現れた。リアムたちはさっと後ずさり、相手から十歩以上の距離を取った。銀色の長髪をたなびかせ現れた相手はランタンの真下。憤怒の形相だ。リアムはサーベルを抜いた。
「先に攻撃を仕掛けてきたのは、そちらですよ」
「うるさい! 私の、このセシルの、美しい服が焦げたではないか!!」
セシルと自分を称する男は、長い丈の服の裾を指さした。確かに真っ白な服が少し茶色くなっている。
「そんなに汚れるのが嫌なら、作業着とか着ればいいじゃないか。鉱山の中だし……。動きやすいよ」
アベルが自分の汚れたいつものつなぎを指さしながら、至極まっとうな意見を述べた。
「この美しい私が、作業着……?」
一体何を言っているんだと未知の生物でも見るかのような目で、セシルはアベルを見た。自分で美しいと言うだけあって、目鼻立ちは確かに整っているとリアムは思った。ただ、いちいちポーズが気障だ。今だって額に片手を当てて顎をぐいっと上げリアムたちを見下しており、自分に酔っているようだった。そしてとんでもないことに、セシルの仲間の二人の男も、セシルの少し後ろで同じようにそれぞれ自分の世界に入り込んだポーズを決めていた。寧々がぽつりと呟いた。
「おでこ、打ったのかな……」
相手が額を押さえているので、物理的な痛みがあるという意味なのか、精神的にヤバいという意味なのか、真意はリアムにはわからなかった。
「私たちをつけてきていただけでも、不届きな輩であることは間違いないのに……その上この暴言の数々。許さない……クライヴ、ローレンス!」
ポーズを解いた背後の二人はそれぞれグローブをはめた。セシルはポーズを決めたままだ。
「あれは、手袋に陣が描かれているタイプだと思われます。手から何かを放出する場合が多いです」
リアムの口早な説明にアベルと寧々は頷き身構える。
クライヴ、ローレンスと呼ばれた二人とリアムが詠唱を始めたのは、ほぼ同時だった。




