第38話 タソガレ島
太陽が一番高いところを過ぎたあたりで、サラたちはタソガレ島に到着した。長い間人の手が入っていなさそうな、朽ちかけた桟橋に他の船とともに停泊した。どの船にも白地にカラスがデザインされた旗がひらめく。
港からすぐ、寧々の住まいと似た雰囲気の家々が立ち並んでいた。どの建物も桟橋と同じように古びており、サラにはとても人が住める代物には見えなかった。
そんな島の建造物とは対照的に、島には活気があった。通りには所狭しと露店が並び、軽食や酒類を売っていた。露店にはサフィール空賊団のマークがもれなくついていた。
「すごい人だね!」
寧々《ねね》は興奮気味にきょろきょろと見回した。
「ね、こんなの俺初めてだよ! あ、これ食べる?」
いつ購入したのか、抱えている紙袋の中身をアベルは寧々とサラにすすめた。白い花のように弾けたとうもろこし。アベルは自分でもサクサクと美味しそうに頬張る。
無邪気な笑顔に負けて一掴みもらうサラ。とうもろこしを覆う糖蜜の甘さを堪能しつつ、サラは今回の宝探しゲームは一体どんなものなのか、そして、競合相手はどんな奴らなのか、考えを巡らせた。
島の雰囲気を見て、アベルたちは参加を即決し既に申込書を提出していた。ゲーム開始まではあと二日ある。それまでに立てられる対策を、と思いサラは島の様子を見たいと言った。自分は参加しないが、仲間のことが心配だったし、どうせなら優勝してほしかった。
アベルと寧々がサラと一緒に行動していたが、二人は情報収集と言うよりは、単純にお祭り騒ぎを楽しんでいるようだった。サラは今気がついたが、寧々の頭にはうさぎのお面が笑っていた。
周りを歩く人々は、恐らく皆空賊だ。あの招待状には「旅のご一行様」と書かれていたが、かたぎ宛とは思えない。実際、港の船にはカラスの旗、連れだって歩いている人々の瞳の色は様々だったし、何かしら武器を所持している者がほとんどだった。
ゲーム前日の朝に、サフィール空賊団の者だという男が船を訪ねてきた。
「こちらが今回の催しのルールと会場の地図となっております。ご確認ください」
派手な羽付きの帽子を被った翠瞳族の男は、くるくると巻かれた分厚い紙をリアムに手渡した。リアムが受け取ったのを確認するとすぐに立ち去ってしまった。
リアムは全員が見えるよう、食堂のテーブルの真ん中にその紙を広げた。一番上に派手な飾り文字でタイトルが書かれている。
〈わくわく☆どきどき 宝探しゲーム!〉
「おい、サフィール空賊団のセンスどうなってんだ」
サラはたまらず突っ込んだ。「まあまあ。わかりやすくていいじゃん」とアベルがなだめる。絶対に招待状と違う奴が担当したな……とサラは思った。あの手紙の厳かで丁寧な物言いとは程遠い。
タイトルの下には、箇条書きで注意事項が書かれていた。
・廃鉱山の中に隠された宝を探せ!宝は宝箱に入ったコイン(右図参照)
・コインをゴールにいるサフィール空賊団スタッフに届けた時点で、ゲーム終了。
・鉱山の中にはたくさんの罠や仕掛け有り。
・妨害工作大歓迎!
・怪我をしたり命を落としたりすることになっても、一切の責任は負いませんので悪しからず。
描かれている実物大のコインは直径五センチメートル程度で金色だ。コインにはサフィール空賊団のシンボルマークである派手な帽子をかぶったカラスがデザインされている。
廃鉱山の地図には、中の坑道まで描いてあったが下に「閉鎖されて五十年以上経つので、変わっている可能性あり!」と朱書きされていた。
「こんな広いところから見つけるなんて、かなり大変そう。手分けしたほうがいいのかな」
寧々が腕を組んで思案する。参加は三人一組。確かにそういった動きもできる。
「でも、どうやってまた集まる? 俺は魔法使えないからなぁ……」
アベルは顎に手を当てる。ああでもない、こうでもない、と参加しないメンバーも交えて作戦会議が始まった。
宝探しゲーム当日、朝食担当のサラは、食糧庫へ一人向かった。
「ん……?」
食糧庫の扉が開いている。昨晩の夕飯担当の寧々が開けっ放しにしたのだろうか。
「やられた……!」
食糧庫は荒らされていた。全ては盗られていないが、缶詰や果物等がいくつかなくなっていた。嫌な予感がして、サラは宝物庫に駆けて行った。
宝物庫と言っても、この船には金銀財宝が積まれているわけではない。アベルの爆薬と生活資金、ほんの一握りの斜陽石、そして仲間に配付されている山吹色のバンダナが入れられていた。
サラの嫌な予感は的中した。
宝物庫の鍵は壊されており、生活資金と斜陽石とバンダナがなくなっていた。爆薬には手を触れなかったようでそっくり残っていた。




