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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第6章 聞くなら今 side b
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第26話 共有

 島に乱立する山々。剥き出しの岩肌が昼前の日差しを反射する。その中腹や谷間に、朱塗りの柱に角の反り返った屋根の家々。細やかな透かし彫りの窓がかつての豊かさを象徴する。一際高い楼閣の青緑の瓦は、所々剥がれ落ちていた。 


 ルイは一度スコープから目を離し、軍帽をぐいっと後ろへ下ろした。


 黄瞳こうとう族の島、ウーペイ。その昔、この島でしか採れない香木を求めて移住者が爆発的に増えたそうだ。計画性のない伐採により壊滅状態となった森からはそれ以上利益が見込めず、今となっては無人島となっている。そこに目をつけアジトにしている、大規模な空賊団の掃討作戦が今回の任務だった。


 第一到着の巡航船がすでに空賊と空中戦を繰り広げている中、島にたどり着いたルイたちは後方支援を担った。


 ケイリーは風を読みルイの遠距離射撃のサポートを担当し、ヤンは龍に変化し手旗では伝えきれない細かな事項の伝達係を務めていた。接近戦がないことに不貞腐れ、ビアンカは船縁に座り自身の髪を弄んでいた。


 ルイは船縁に体を固定し、スコープを再び覗く。引き金を前方に押し込む。カチリ、と鋼鉄同士が噛み合う音を確かに捉える。繊細なガラス細工に触れるかのように、引き金に指をかける。


 狙いを定める時間は、ほんの一呼吸。「今!」ケイリーの声。風が止む。パキッと薄い氷が割れるような指先の感触の後、鋭く鼓膜を突き刺す音とともに筒の先から閃光が走る。立ち上る煙。ルイは船の縁から上体を起こす。ボルトを引き、飛び出した薬莢をキャッチし腰の袋に突っ込む。


 弾丸を撃ち込んだ敵の火薬倉庫が轟音とともに弾け飛ぶ。下手くそな花火のように、次から次へと爆音は続く。


「見事だな。奴らにはかなりの痛手だ」


ルイのすぐ横で双眼鏡を覗き込んでいた紫苑は満足げに頷いた。その隣のケイリーは「ひゅ~」と口笛を吹く。


 ルイは長いため息をつき髪をかきあげ、後ろに下げていた軍帽を被る。狙いを外したことは一度もないが、それ故に遠距離精密射撃を求められる際には毎回神経を張り詰めていた。


「隊長、敵さんはもう、白旗を揚げたみたいだ。掃除班が来るまでの間、念の為島の様子を見つつこの船はここに待機。後処理に助っ人が欲しいから二、三人よこせだと」


巡航船から戻り船の甲板で金色の龍から人型へと変わった洋は、親指で島に停泊する一回り大きな船を指し示した。


「そうか。では、ビアンカ、ケイリー、洋の背中に乗って行ってくれ」

「後処理って、まだ歯向かってくる残党はいるのかしら?」


笑顔で立ち上がるビアンカとあからさまに嫌そうな顔をするケイリー。紫苑は顎で洋を指しただけだった。


 三人が行ってしまってから、船を安定させるためルイは帆を調節した。紫苑は双眼鏡を覗いており、島の様子や巡航船の甲板を観察しているようだった。尋ねるのならば今がチャンスだ、とルイは覚悟を決め息を吸い込んだ。


「紫苑隊長」


双眼鏡から目を離し、ルイへ視線を向ける紫苑。


「『仮面の空賊』ってなんですか」


紫苑の眉がぴくりと動く。双眼鏡を握る手が僅かに震える。ほんの少しの間唇を噛み、軽くため息をついた。


「この間の尋問か」


ルイは黙って頷いた。「マスク空賊団」を壊滅させた時。紫苑の団長への尋問は鬼気迫るものだった。


「『仮面の空賊』は……たった一人の空賊だ。過去、空軍に潜入しており、その際私の直属の上官だった」


ルイには初耳だった。たった一人で空軍に潜入しその後逃げおおせた空賊。しかも、自分の隊長の元上官。


「奴の裏切り行為は空軍の威信に関わるとかいう馬鹿げた理由で公にされておらず、捜査も秘密裏に行われているようだ」


紫苑の話ぶりから、彼女は捜査に参加していない、あるいはさせてもらえていないのだろうとルイは推察した。そして、この部隊のメンバーが他の者から「寄せ集め」「扱いづらい」と言われる理由がわかった気がした。


「隊長は自分で捕らえたいんですね……その空賊を」


ある程度自由に動くためには、軍に忠実すぎない人間の方が都合が良い。それでいて有能なら申し分ない。ルイの言葉に、紫苑の瞳は覚悟と悲哀の色に光る。


「その通りだ。お前にはむしろ都合がいいだろう?」


未だ行方の知れない妹の姿が脳裏に浮かび、ルイは黙って頷く。彼が人探しのために軍に所属していることを、紫苑は把握している。ここで誤魔化す必要はない。


 紫苑は再び双眼鏡を覗き巡航船へ顔を向けた。


「物資補給の合図だ。船を寄せろ」


紫苑の指示に、ルイは「了」と短く答える。


 船後方の操縦桿を操るため離れたルイの後ろ姿を紫苑はちらりと見やり、すぐ俯いた。紫苑は歯を食いしばり固く目をつぶる。



 転がる死体。血まみれの左手。


「――今あなたを助けたのは……気まぐれに過ぎません」


耳に残る、苦しげな声。



 紫苑は顔を上げ、目を見開く。船はゆっくりと高度を上げる。空気中に微かに混ざる火薬の匂い。


 巡航船の真横に船を寄せると、ケイリーたちが食料や弾丸などの補給物資の入った木箱を抱えて乗り移ってきた。


「ちょっと遠いけど、行ってほしいそうです〜」


ケイリーから指令書が紫苑に手渡される。


〈緊急 ツキヨ島へ向かえ 担当巡回船に不審な動きあり 工作の疑いあり 捜査を命ず〉


 普段とは違う空域に行けるのは願ったり叶ったりだった。紫苑は帽子を目深に被り直す。何があろうとも、この手で捕まえる。あの男だけは――



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