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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第5章 整備士
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第17話 それぞれ得意なこと

 これがあれば、次の島では気兼ねなく活動できる、とマイリは機嫌がよさそうだった。


 ジェイとラナは、ソエジュ島でルイ達にバンダナの他にもう一つ発明品をくれた。


「どうかしら?」

「とってもお似合いです」

「あなたも、とってもいい感じ!」


渡されたのは、眼鏡だった。全部で十個ある。一つずつ微妙にデザインが違う。マイリとリアムは取っ替え引っ替え、眼鏡を試着し続けている。


「でも、やっぱりマイリさんは、翠色の瞳の時が一番しっくりきますね」


その眼鏡は、かけている人物の瞳の色を誤魔化すことができるものだった。ごく小さなボタンが弦の付け根についており、それを押して色を選ぶことができた。


 さらに、ジェイはマイリにだけ、ルイの見たことのない二重の円の中に記号がびっしりと書かれた模様の入ったバンダナを渡した。


「今後お前たちの旅に使える道具ができた時、輸送できるようにした。一回しか利用できないシステムだが、役に立つだろう」


手渡すジェイの声はごく小さく、ラナには聞こえていないようだった。サラはマイリから借りてそのバンダナを見たが、仕組みはさっぱりだった。眼鏡も然り。同じ碧瞳へきとう族でも、わからない時はわからないようだ。


「次サンテミラ島も碧瞳族の島だな」

「じゃ、オレ以外はその眼鏡かけた方がいいな」


地図を確認していたスヴェンは、ルイの言葉に口をへし曲げた。


「身に着ける奴の発明品は一つで十分だ。俺はこの間の色眼鏡でいい」

「ジェイはあなた用の眼鏡も作ってくれたわよ? 眼帯はずせると思うけど」


マイリの言葉にスヴェンは首を振っただけだった。ルイはスヴェンの眼帯を盗み見た。マイリの言い方だと、眼帯は目の色を隠すために着けているように聞こえる。


 詳しく聞きたい気もしたが、スヴェンは強いて地図から顔を上げないようにしている風に見え、ルイは口をつぐんだ。触れられたくない過去は、誰にでもある。


「碧瞳族の島でしたら、船に詳しい方を仲間にできると心強いですよね」


リアムが眼鏡で瞳の色を碧に変えた。レンズ越しの瞳は、生まれつきそうだったかのように自然に色づいている。


「そうだな。オレじゃわからない部分もある」


リアムの言葉にルイは頷く。ルイ達が今乗る飛空艇は碧瞳族が造ったものだった。板の継ぎ目やマストに繋がる紐が通る滑車、操作性からそれは明らかだった。他種族の物はもっと原始的で、航行速度も遅いことをルイは知っていた。


 一定の水準以上の科学技術が用いられているものの仕組みを、碧瞳族以外は理解できない。


 あれはルイが銃を分解して手入れしている時だった。


「銃ってどんな仕組みなの?」


マイリは興味津々で覗き込んできた。ルイは丁寧に説明したが途中から頭痛がすると言われ、解説を続けることができなかった。スヴェンもリアムも同じだった。


 ルイたち碧瞳族が姿を変えたり魔法を使ったりできないのと同じで、彼らは碧瞳族の作り出す道具を完璧に使いこなしたりメンテナンスしたりすることはできなかった。


 他種族同士協力した方が、圧倒的にできることは多く強い。だから、掟を意に介さぬ空賊はほとんどが他種族混合の集団(ランタナ・パーティ)だったし、それに対抗する必要のある空軍も、同じく色とりどりの瞳の集団である必要があるのだ。




 瞳の色を誤魔化せるならば、とサンテミラ島では堂々と公式の船着き場に船を停めようということになった。街へのアクセスが良いし、船を盗まれたり荒らされたりする心配がない。


 地図によると、イリンザー島と同じかそれ以上の大きさの島のようだ。サンテミラ島は一つの島で一つの郡を形成していた。優秀な船の整備士や船大工がいるかもしれない、とルイは胸を高鳴らせた。


 島の様子が肉眼で見えるほどに近くなった。隣に立つリアムの息を飲む音が、ルイには聞こえた。


 島の外縁部から流れ落ちる水は滝となる。そこにはルイたちの乗る船の三倍はありそうな巨大な歯車が設置され、水の落ちる勢いで轟々と回転していた。


「すごい迫力ですね! あれは何ですか?」

「碧瞳族の大きい島ではよくある、動力装置だ。あの回転メインシャフトに伝えて、ベベルギヤとか噛ませて……」

「あ、ちょっと……それ以上は、大丈夫です」


リアムはこめかみを押さえて、ルイに礼を言った。


 島にはクリーム色の石造りの建物が並ぶ。五階建て程の高さ。バルコニーには真鍮の洒落た手すりが取り付けられている。屋根は濃いグレーに日の光を反射させる。


 船着き場は船乗り達の賑やかな話し声や掛け声に満ちていた。さっさと停めて昼食を食べに行こうとルイ達は計画をしていた。船の食料は例のごとくぎりぎりで、かなり切り詰めた食事をルイ達はしていたのだ。


 カラスの旗を隠した船を停めて街へ向かおうとすると、関門が設けられていた。停泊料でも支払うのかとルイ達は金を確認したが、そうではなかった。


「きまりなので、眼鏡を外していただけますか。瞳の色を確認しています」


「検査官」という腕章を着けた係員に、ルイ達は止められた。まさかそんな検問があるとは、思っていなかった。


「はい……あ、でも、すみません! 船に忘れ物をして……ちょっと取ってきますね!」


リアムが機転を利かせ、一行は船まで後戻りした。


「こっそり出港して、いつもみたいに森の中とかに停めましょ!」


マイリの提案は妥当だが、ルイは首を振った。


「出港は出来るだろうけど、多分、どこにも停められねぇんじゃねぇか。これだけしっかり検問してるってことは、島の安全対策はかなり厳しいと思うぜ」


今まで訪れたことのある碧瞳族の島を思い返しながら、ルイは言った。そういった島では、船が停められそうな空き地がなかったり、あったとしても見張られていたりした。スヴェンが頷く。


「そうだな。検問のところにあった島の地図を見た感じだと、人目を忍んで停められそうなところはなかった」


だからと言って、別の島に行くとなると食料が足りない。ルイ達は餓死してしまう。どうにかこの検問をくぐり抜けることはできないだろうか。


「オレだけ入って、食料を調達してくるか」

「それが一番堅実ですね」


ルイの提案にリアムが賛成した。なんでもないように振る舞ってはいるが、この空腹は彼にはかなり辛いものだろうとルイの胸はちくりと痛んだ。その時、マイリが検問の方を指さして嬉しそうに言った。


「見て! 動物はチェックの対象外よ!」

「ノーチェスを連れてけってことか?」


ルイの言葉にマイリはちっちっと指をふる。スヴェンとリアムはまさか、と眉をひそめる。わかっていないのは、ルイだけのようだ。


「あなたたちを動物に変えるわ。得意系統ではないから、短時間しか持たないけど、十分でしょ。あ、あと少しの衝撃で戻っちゃうから気をつけてね」


話し合いの間もなく、マイリは針を甲板に刺し詠唱を始めた。

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