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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第5章 整備士
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第18話 のんき

 ルイはノーチェスを肩に、その反対側の肩にエメラルドグリーンのトカゲになったリアムを、腕の中に真っ白なウサギになったマイリを抱えた。


 スヴェンは真っ黒な犬だ。ナハトの姿よりは小さく尻尾も一本だ。ルイに身を預けず自分で歩いている。


 動物に姿は変えているが、みなの瞳の色はそのままだ。心拍数が上がったまま、ルイは先ほどとは違う検査官のいるゲートへ向かった。


「動物お好きなんですね」


ルイの瞳の色をチェックした検査官の女性は、にっこりとほほ笑んだ。疑われてはいないようだ。マイリ達はさりげなくみな地面の方へと目線をやり、瞳の色が見えないようにしていている。


 ルイが動物となった仲間たちを引き連れてゲートを潜ろうとした瞬間、鼓膜を突き刺す轟音と激しい振動が起きた。早鐘がなり響く。


 どうやら他のゲートで爆発が起きたらしい。ルイ達のいるところからでも、黒煙が立ち登るのが見えた。焦げ臭い匂いが風に乗って運ばれてくる。幼い子どもを抱き抱えて走る母親。後ろを頻繁に振り返りながら駆ける若者。逃げ惑う人々の顔は恐怖で引き攣っている。


 逃げてきた人のうちの一人が、ルイに思い切りぶつかった。不意をつかれたルイは転び、その拍子にリアムとマイリは投げ出された。ノーチェスは何事もないかのように舞い上がる。


 ルイは素早く立ち上がり手を伸ばすが、届かない。


「あ、あと少しの衝撃で戻っちゃうから気をつけてね」


変身直前、マイリは何でもないことかのようにそう言っていた。


 投げ出され地面に落ちた衝撃でリアムとマイリは、ポンッと軽い音を立てて元の姿に戻ってしまった。爆発に気を取られていた検査官も、さすがに気が付いた。拡声器を持って叫ぶ。


「違法入島! 緊急事態! 違法入島!」


こちらは自分の意志でか、スヴェンも元の姿に戻っていた。


「逃げるぞ!」


スヴェンが先頭になり走り出した。マイリ達の変身に気が付いた検査官の声は、爆発の混乱に紛れて仲間には届いていないようだった。走りながらルイは振り返ったが、追手は来なかった。




 スヴェンの記憶力を信じて、走ってついていった先は……定食屋だった。


「わかってんのか? オレ達追われてんだぞ」


ルイは呆れてしまった。なにか食べるなら、買い食いできるものでいいだろう。スヴェンは言い訳をする。


「つい……地図に載っていた一番近い飲食店がここだったんだ」

「お腹すいたし、逆にこんなところで食事してるなんて思われないだろうから、いいんじゃない?」


そんなマイリの甘い考えに、普段だったらルイは乗らない。しかし、店頭に展示されている焼き魚があまりにも美味しそうで、空腹の身には抗い難い誘惑だった。


 案外ばれないもののようで、食事が終わるまでルイは変な視線を感じなかった。スヴェンとマイリが会計のための金を袋から出して数えているときに、そいつらは来た。


「あ……あちらです」


声は聞こえなかったが、警備隊らしき制服を着た人物二名と話している店員の口元は、確かにそのように動いた。ちらちらとルイたちに視線をやっていた。追手なのは間違いなさそうだった。店員の方に背を向けているスヴェンは、ルイの表情で察したようだった。


「代金はここにおいておけばいいか」


スヴェンはそう言って、リアムを見た。


「この壁、お前ならきれいに切れるか?」

「ええ、ダイヤモンドでも切断可能ですから」


リアムはにっこりと笑って、腰にさしているサーベルを抜いた。ぼろぼろで、とても何かを切れるようには見えない。警備隊がつかつかと近寄ってくる。


「おい、来てるぞ」


ルイの声が聞こえているのかいないのか、リアムはごにょごにょと呪文を唱え続けた。すると、サーベルが新品の物のように輝き出した。よく見ると刃に薄っすらと水を纏っている。


「行きます」


リアムはすっと壁にサーベルを刺し、円を描いた。あまりにスムーズだったので、壁が切れたかどうか凝視しないとルイにはわからなかった。


 スヴェンが壁を蹴ると、円形に斬られた部分が通りの方へと倒れた。重たい音が響き土埃が舞う。通行人はいない。


 テーブルに壁の修理代の足しに、と追加の金を置いたスヴェンが先頭になり、一行は走り出した。ルイが振り向くと、壁穴から警備隊員たちも出てきていた。


「面倒くせぇな!」


ルイはホルスターから銃を取り出し、発砲する。響く銃声。銃弾の掠った膝を押さえて、警備隊員はその場に崩れ落ちた。


「さすがですね!」

「……まあな」


リアム褒め言葉にルイは顔が熱くなり、ごく短く答えた。


 薄暗い路地に駆け込み逃げ切れたかと思いきや、また新たな警備隊員が追ってきた。ルイ達はまた別の路地へと逃げていったが、また追手は現れる。きりがない。


 段々と全員息が上がってくる。ルイの美味しく食べた白身魚とパンは、あっという間に消化されそうだった。


「どっかちゃんと隠れられるところじゃねぇと、すぐ見つかっちまう」


ルイが舌打ちした直後、一行が潜んでいる路地の奥からガコッと重たいものが動いた音がした。ルイはすぐに銃を構えた。


「うわっ、撃たないで! 俺はあなた達を助けに来たんだ」


マンホールの蓋が数十センチメートル程開いており、そこから声がした。


「おい、こっちの方から声がしたぞ!」


大通りにいる警備隊員が、ルイ達の潜んでる場所に向かって来ているようだった。路地を通り抜けた先にも、ごく小さく隊員らしき人物がいるのが見えた。このままでは挟み撃ちにされてしまう。


「こっちに来て!」

「行こう」


スヴェンに続いて、一行は謎の声が招くマンホールの中へと駆け込んだ。

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