第12話 目的
ルイは船に戻る道すがら一人先程の紫苑の表情を思い返した。拾ってもらった日から二年間、彼女とはほとんどの任務を共にしている。そのどれもで彼女はいつも冷静で攻撃を受けようが相手が悲鳴を上げようが、何の色もその目に映さなかった。
「『仮面の空賊』か……」
紫苑が問いただしていた内容が、彼女の怒りに繋がっているに違いない。一体何が……。
「あ、ちょっとルイ! こっちこっち!」
ルイを待ち構えていたのか、空賊船から遠く離れた場所でケイリーが慌てて手招きする。ルイの思考は中断された。
早く掃除班への連絡を済ませたいのに……ケイリーの呼びかけに、ルイは軽くため息をついた。しかし、無視することはできない。この隊で彼は一番の下っ端であり、空軍内では上官や先輩に逆らうことは許されなかった。
ルイが駆け足で近寄ると、ケイリーの前には島民と思われる人々が集まっていた。皆紅色の瞳だ。その瞳には不安と喜びと驚きの影が見られた。町から離れて避難していた人々が戻ってきたのだろう。まだ空賊が無力化したことに半信半疑なようだ。
「基本的にこの人がやっつけました〜!」
ルイに両手を差し出し手をひらひらとさせるケイリーの言葉に人々がどよめく。それは語弊がある、と思いルイは口を開いた。
「いえ、俺はサポート……」
ルイが言い切る前に、ケイリーが沈黙した空賊船も手でひらひらと指し示した。島民達は感極まったようでわっと一斉に寄ってきた。
「あなたが……ありがとう!」
「奴らのせいでいつも怯えていて……」
島民にもみくちゃにされ仕方なく笑顔で定型文を述べつつ「事後処理があるので……」とルイはその場から逃げるように離れた。さりげなく島民の群れから離れたケイリーもついてきた。
「掃除班への連絡なら私が代わりにできるのに。いい働きしたんだから、褒められたらいいじゃないですかぁ」
きっとケイリーは特別空賊退治に関わっていないのに、感謝されるのを居心地悪く感じたのだろう。だから自分を呼んだのだとルイは考えた。しかし……
「嫌ですよ。俺は今回完全にサポートです。それに褒められるために空軍に入ったわけではありませんので」
「ひょー、クールだねぇ」
おどけるケイリーに、ルイの語気は強まる。
「あと、嫌いなんですよ。被害にあった方々の話を聞くのが」
その気持ちが痛いほど分かるから……とまでは言わなかった。ケイリーには嫌なやつだと思われたかもしれない。
「へぇ。ルイもそんなこと思うんだねぇ」
ケイリーは少し驚いたように一言呟いただけだった。
ルイは空賊を捕らえたり住民を守ったりすることは、嫌いではなかった。むしろ嫌悪する空賊を懲らしめられるのは望むところだった。ただ、彼が空軍に身を置いている本当の目的はそこにはなかった。
つかめなかった小さな手、風に煽られる金髪、遠くなる影――
妹を見つけるためにはどんなことでもする覚悟だった。
今回の任務でルイは、自分と同じように人探しを目的としている者がこの隊にもう一人いるのでは、と感じていた。
「どこにいたんだ。掃除班への連絡は済んだのか? パトロールに戻るぞ」
ルイとケイリーより先に戻っていた紫苑が船の上からいつもの調子で言った。
そう、この心の内を覗かせない、淡々と任務をこなす紫苑に、空軍の「平和をもたらす、強き鷹であれ」という信念とは違う固い意志をルイは今回感じたのだった。




