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87.狂気と呪いの底で4

 竜一は茜と菖蒲を肩に担ぎ、階段を上っていた。


 菖蒲に勝利した茜であったが、茜は菖蒲が気絶したことを確認したのち倒れ込んでしまった。

 茜を蝕む呪いの力は、茜の体力を容赦なく奪っていく。

 流石の茜も、限界を迎えていたようだ。


 茜は竜一に「ちょっと眠るね」と言い、そのまま眠りについてしまった。


 二人を担ぎ上げたまま、竜一は階段を上り切った。

 階段の先には、長い通路。


 そして、そこら中に散らばる亡者達の死体。

 おそらくだが、御形家の者達か、会議に参加した純粋種の家系の者達が亡者達を死滅させたのだろう。


 お陰ですんなりと通路を進むことが出来た。

 まずは他の者と合流しなければならない。


 しかし、最初に亡者の姿を確認して随分時間が経過している。

 今更会議室に向かったとて、誰かがそこに居る可能性は低いのかもしれない。

 ならば、この地下から出ることを考えねばならないか。


 しばらく考えたが、地上へ出ることを選択した。

 といっても、地下施設は複雑に入り組んだ迷路。

 すんなりと出口まで辿り着けはしないだろう。


 そう考えながら足を進める。

 竜一が足を止めたのは数分後。


 前方にて人影。


 その人物を見間違うはずがない。

 鮮明に記憶に残っている。


 鮮やかな桜色の長い髪に白い肌。

 金色の瞳。精巧な人形のように整った容姿。


 御形 美桜がそこにいた。


 美桜は優しい笑みを見せた。


「お兄さん、お久しぶりです」


「御形さん……君は……」


「驚きました。菖蒲さんを打ち破ったのですね。これでは計画が台無しです」


「教えてくれ。君は何がしたいんだ? 目的はなんだ?」


「お兄さん、私に与えられた宿命のことは、既に聞き及んでいるのでしょう?」


「……うん」


「であれば、それ以上の説明が必要ですか?」


「必要だよ。俺には分からない。君に与えられた宿命は、途轍もなく残酷なものだ。だけど、こんなやり方は間違っている」


「間違っている?」


「うん。こんなやり方では駄目だ」


「ではどうしろと?」


「真正面から堂々と、異議を申し立てればいい。巫女の役割を辞すると、御形家当主に言えばいい」


「本気で言ってます?」


「本気だ」


「お兄さんは分かっていません。口で言って解決できるのならば、とっくにそうしています。御形家の者達は、私を絶対に許しません。例え世界の果てに逃げたとて、必ず追ってくるでしょう。ですから、こうして御形家を潰す以外、私に安息はないのです」


「御形さん、俺はね、本当に心の底から思うんだ。家族っていうのは、何よりも大切にしなきゃいけないものなんだ。家族を失った俺には分かる。例え殺したいほど憎かろうと、絶対に殺しちゃいけないんだ」


「本当に甘いですね。それは一般家庭の話でしょう? 私達の生きる世界で、その理屈が通用しますか?」


「そうだね。その通りかもしれない……」


「でしたら……」


「でも君は、普通の女の子じゃないか」


「……私が?」


「そうだ。君は普通に笑い、普通に戸惑い、普通に照れて、普通に苦しむ。そんな普通の女の子だ。そんな普通の子が、家族殺しなんて絶対に駄目だ」


「普通? 私は純粋種の家系に連なる者ですよ?」


「そんなものはどうだっていい。俺にとっては、どうだっていいんだ」


「お話になりませんね。どれだけ言葉を並び立てようと、御形家の者達が私を許さないのは事実ですよ? すでに御形家の者達は私の敵です。ですから私は、敵を討ち滅ぼさなければなりません」


「そんなことは分かっているさ」


「そうですか? でしたら―――」


「なんとかしてやる」


「はい?」


「俺がなんとかしてやる。君を守る。絶対に。だから、もうこんなことは止めるんだ」


 美桜を正面から見据え、竜一は強く言い放った。

 美桜は言葉を詰まらせた。息を呑み、数秒間黙り込む。


「お兄さん……それは」


「それは?」


「それは……それだけは、絶対に見過ごせません」


 その瞬間、美桜の雰囲気が変わった。

 美桜の両腕に桜色の線が浮かび上がる。

 そこから、桜色の棘が出現。


「お兄さん、どうやらこれ以上は、何を語っても決着がつかないようです。ですから、裏の世界の流儀で決着をつけましょう」


「……分かった」


 竜一は茜と菖蒲を優しく下ろし、前へと歩き出した。


 竜一と美桜は、お互いを見据え名乗りを上げた。


「御形御霊之開耶第七十五代巫女、御形 美桜」


「天染家当主代行配下、泉谷 竜一」

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