75.会合
朽葉家本邸にて会合が開かれていた。
大広間にて集まったのは、裏の世界で大きな力を持つ者達。
竜一は存在感を消すように、大広間の隅で正座をしていた。
そっと、集った面々の様子を覗き見る。
まずは上座に座る人物。
朽葉 クララ。茜の実母で、長い橙色の髪にアンバーの瞳。
おそらく四十代であろうが、その外見は驚くほど若い。
クララの傍に控える者がいる。
すらりとした体型で長身。四十代と思われる男。
ブラウンの長い髪で、人の良さそうな表情をした優男。
この者はクララの夫で名を朽葉 八雲という。
純粋種ではないが只人でもない。その昔、裏の世界で名を馳せた変異種である。
次は下座に座る者達。
天染 鈴巴。長く澄んだ水色の髪。
背は高めで、すらりとした四肢。
瞳はアメジストのような美しい紫。
竜一にとっては上司にあたる人物で、天染家当主代行を務めている少女。
鈴巴の対面に座るのは、白い肌の老婆。
桜色の髪で金色の瞳。
小柄であるが、背筋は伸びている。
顔に浮かぶ表情は無。その瞳は、虚ろに見える。
この者は御形家当主、御形 御影。
そして最後の人物。
三十代と思われる体格のいい男。
白い髪に碧い瞳。
この者は斯貴 廻向の孫で現斯貴家当主を務める男。
名を斯貴 廻雲という。
現在顔を突き合わせている者達は、いずれも純粋種の家系の者達。
クララは集った面々を一通り眺め、軽く咳払いした。
「まずは皆さん、当家の呼びかけに応じて頂き感謝を申し上げます」
そのクララの発言に反応したのは、斯貴 廻雲。廻雲は低い声で言葉を発した。
「クララ殿、それに関しては拙僧の方こそ感謝申し上げます。拙僧の爺様、斯貴 廻向がご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ない」
廻雲はそう言って頭を下げた。
その後、チラッと鈴巴の様子を窺う。
鈴巴は廻雲の視線を感じ取り口を開いた。
「確かに、斯貴 廻向の企みにより私は部下を大勢失いましたが、それを非難しても詮なきこと。今は話を前に進めましょう」
「感謝する。しかし、何らかの罪滅ぼしをさせてもらいたい」
「不要です」
「しかし……」
渋い顔をする廻雲。
そこで朽葉 八雲は、柔和な笑みを浮かべ口を開いた。
「まあまあ、廻雲殿。廻雲殿が律儀な性格のは分かっていますが、鈴巴ちゃんもこう言っていることですし、一先ずは抑えて頂ければと。それよりも、今は今後のことについて話し合いましょう」
「うーむ……そうですな、八雲殿の仰る通りですな」
八雲は廻雲の反応を確認したのち、クララに視線を移した。
クララは八雲の視線を受け口を開いた。
「話を進めましょう。話に上がった斯貴 廻向は、もうこの世に存在しません。ですが、斯貴 廻向と共謀していたカイレ・メーヴィス、そして我が不肖の娘、朽葉 菖蒲。この二人はまだ生きています。おそらく、今もよからぬことを企んでいると思われます。放っておけば、この国に混乱が巻き起こるでしょう。ですので、我々で協力してこれに対抗する必要があります」
クララは、一同の顔を眺めて続ける。
「我が娘、朽葉 菖蒲については、ここでは割愛しましょう。すでに皆さんご存じかと思いますので。問題はカイレ・メーヴィスと名乗る少年です」
ここで今まで黙っていた御形家当主、御形 御影が口を開いた。
「何者だ?」
感情のこもっていない機械的な口調だった。
クララは答えた。
「この少年は非常に特殊な人間です。この少年の生まれは私達とは別の世界。つまり、異世界からの来訪者であるということ」
クララの発言に反応したのは、廻雲と御影の二人。
それ以外の者にとっては、すでに知らされていることだった。
御影は表情を崩さず、抑揚のない声で尋ねた。
「それは何かの冗談か?」
「いいえ、冗談ではありません」
クララはカイレ・メーヴィスについて知り得ていることを説明した。
カイレは異世界人であること。
世界を渡る際に、ギフトを与えられたこと。
そのギフトを使って、ホテル・オルトシア、ホテル・ヒュペリオンの惨劇を引き起こしたこと。
その説明を聞いて、廻雲が声を上げた。
「うーむ、しかし信じられませんな。まさかとは思いますが、我らを謀ってはおりますまいな?」
クララは答える。
「疑うのも無理はありません。ですが、これは冗談ではないのです。といっても、お気持ちは理解しております。これを裏付けるものが無ければ、信じられぬことでしょう」
「その通りですなあ。して、その裏付けるもの……何かあるのですかな?」
「あります」
クララはそう返事し、竜一の方へ顔を向けた。
竜一は深呼吸し立ち上がった。
廻雲は怪訝な表情でクララに視線を向ける。
この子供はなんだ? と言いだけな顔をしている。
「彼の名は泉谷 竜一。鈴巴ちゃんの部下で、彼もまた異世界人です」
廻雲は笑い声を上げた。
「ワハハッ! これは驚きましたな。よもや異世界人にお目に掛れるとは。いやはや、しかし、思ったよりは普通ですなあ」
茶化すように言う廻雲。
信じる気配のない廻雲にクララは言う。
「証拠を見せます。廻雲殿、欠損部位の再生は、斯貴家の専売特許でしたね?」
「む? そ、そうだが……」
「彼はギフトの権能により、朽葉家の力を取得しました。更に、カイレ・メーヴィスから、強制的に斯貴家の力を植え付けられています。それは本来、只人には耐えられないほどの大きな力でした。ですが、彼は朽葉家の力でそれに耐えてみせたのです」
「クララ殿、申し訳ないが、拙僧には何を言っているのか理解できぬ」
「ええ、分かっております。論より証拠。今それをお見せします。鈴巴ちゃん、竜一くん、お願いできますか?」
鈴巴と竜一は頷いた。
鈴巴は立ち上がり、竜一の隣に並ぶ。
そして、鈴巴の背中から翼が出現。
翼が赤く発光。
竜一は左腕を前に伸ばした。
翼がさっと動いた。
鮮血が飛び散った。竜一の左腕が吹き飛んだ。
廻雲は目を見開いていた。
突然、配下の左腕を斬り落とした天染家当主代行。
そして、左腕を斬り落とされても平然としている少年。
「な、なにを……」
廻雲を更に驚かす事態が発生。
竜一の左腕の切り口が蠢いた。
血が泡立った瞬間、新たな腕が出現。
静まり返る大広間。
クララはポツリと言った。
「これで少しは信じて頂けたでしょうか?」




