表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/91

72.暗中の遊戯7

 茜の拳が大蜘蛛の腹を突き破った。

 

 大蜘蛛の腹の中に強大な圧力が流れ込んだ。

 ボコッ、ボコッと音を立て、大蜘蛛の腹が膨れる。

 腹の中に溜まった圧力が逃げ場を探すように腹が大きくうねり、大蜘蛛は呻き声を漏らした。


 「グ……グッ」


 そして破裂音が森に響いた。

 大蜘蛛の腹が破裂したのだ。

 大蜘蛛の血と臓物が周囲に散らばり、辺りを赤く染めた。


 竜一と茜の頭と体も赤く染まり、気味の悪い体液や臓器の破片が全身に付着。


 「うえッ」


 と茜がしぶい顔をする。

 

 竜一も茜と同じく顔をしかめるが、同時に安堵した。

 大蜘蛛の頭部は残っているが、腹は消し飛んだ。

 大蜘蛛の頭部は動かない。赤い瞳から光が消え失せている。

 どうやら、大蜘蛛は絶命しているようだった。


 「終わった……」


 そう声に出した瞬間、どっと疲労が押し寄せてくる。

 地面に両膝をついてしまう。

 そして、竜一の体から熱が引いて行く。

 鬼神化が解けた。


 その瞬間、竜一は熱に襲われた。

 この熱さは、鬼神化した時のものとは明確に違う。

 只々熱い。鬼神化時の体の内側から滾る熱さ、高揚感、ある種の酩酊感は一切感じない。


 「あ……あつい……」


 「竜一!」


 竜一が苦しんでいる様子を見て、竜一の元へ駆け寄る茜。

 茜は竜一の背中をそっと撫で、その後、立ち上がった。


 「そ、そうだ。解毒剤を探さなきゃ」


 茜は解毒剤を探し始めた。

 大蜘蛛の内臓は、あちこちに散らばっている。

 そのどこかに解毒剤があるはずだ。


 「茜!」


 鈴巴が茜を呼んだ。

 鈴巴は翼で降下し、茜の傍に着地。


 「鈴巴! 急がなきゃまずい! 手分けして探そう!」


 「分かったわ」


 茜と鈴巴は森の中を捜索した。

 

 数分もしない内にそれは見つかった。


 「鈴巴……これ……」


 しかし、茜の表情は暗い。

 茜は人差し指と親指でソレを摘まんでいた。

 おそらく大蜘蛛の胃液で溶けてしまったと思われる、解毒剤が入っていた瓶の成れ果てだった。


 「どうしよう……」  


 茜と鈴巴は黙り込む。

 

 竜一の苦しそうな息遣いが聞こえる。


 「……ハァ……ハァ……」


 「りゅ、竜一! 大丈夫だから、待ってて、必ず薬を見つけてくるから!」


 そう言って茜は鈴巴の方へ視線を向けた。


 「鈴巴! あの少年に連絡を取って!」


 鈴巴は首を振った。


 「もうやっているわ。だけど、連絡がつかない……」


 「じゃあ、しょうがない! とにかく手当たり次第に探そう!」


 そう言って飛び出そうとする茜の右足首を何者かが掴んだ。


 「竜一?」


 茜の右足首を掴んだのは竜一だった。

 竜一は息を乱しながらも、茜に喋りかけた。


 「茜、俺なら……大丈夫……だから」


 「だ、大丈夫って! そんなわけないよ! いいから竜一は休んでて!」


 竜一はゆっくりと首を振った。


 「いいや、休む事なんてできない。やるしかないんだ」


 「や、やるってなにを?」


 竜一は無理やり笑顔を作った。

 茜を少しでも安心させるために。


 竜一は考えていた。

 このままでは、あと数十分もすれば自分は血に飢えた獣と化すだろう。

 もう時間がないのだ。


 解毒剤がすぐに手に入らない以上、助かる方法は一つしかない。

 それは鬼神の力を解き放つことだ。


 鬼神化すれば抵抗力が増す。

 ならば、この病を治すには、やはり鬼神の力を使う必要があるだろう。


 鬼神の力を限界まで解き放つ。

 鬼神の熱で病を蒸発させるイメージだ。

 確証はない。だが、竜一にはこの方法しか思いつかなかった。

 

 最大にして唯一の問題は、鬼神の力を限界まで解き放った時、己の体と精神がそれに耐えきれるか。


 鬼神化は体に大きな負荷をかける。

 今日すでに一度鬼神化を発動してしまった。

 もう一度発動して体が無事である保障はない。


 それに、精神の方も問題だ。

 限界まで力を開放した時、己の精神が鬼神に飲み込まれるかもしれない。

 そうなったら、このまま血に飢えた獣と化すのと大して変わらない。

 

 リスクは大きい。しかも、この病が治る保障はない。

 それでもやらなければならない。

 これしか方法がない。


 「茜……お願いがあるんだ……」


 「お、お願い?」


 戸惑う茜に竜一は言う。


 「頼む……俺の手を握っててくれ……」


 「それって……。竜一、諦めたら駄目だよ……」


 「違うよ。そうじゃない。諦めたわけじゃない。だから頼む」


 固まる茜に鈴巴が声をかけた。


 「茜、泉谷君の言う通りにしてちょうだい」


 「鈴巴……」


 鈴巴に促され、茜は素直に従った。

 しゃがみ込んで、仰向けで横たわる竜一の手を握った。


 「ありがとう……」


 礼を言って、竜一は目を閉じた。

 

 さあ、いくぞ。


 全ての力を開放。

 かつてない程の力の奔流。

 竜一は力に飲み込まれた。


 その中で一筋の光を見つけた。

 それは、とても暖かい橙色の光だった。


 竜一はその光に手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ