71.暗中の遊戯6
左脚と右腕を失った竜一。
どう見てもこれ以上戦える状態ではない。
しかし、竜一の目はまだ死んでいない。
地響きを感じた。
大蜘蛛が動き出した。
竜一は真っ直ぐに大蜘蛛を見据えた。
この体であれを躱すのは難しい。
だが、竜一は焦らない。
深呼吸。精神集中。
「できるはずだ」
そう呟き、自分自身に呼びかけた。
「力を貸せ!」
直後、竜一の身に変化が起こった。
失ったはずの左脚と右腕。
その傷口が疼いた。
傷口から新たな脚と腕が飛び出した。
脚と腕の再生。
欠損した部位を再生できるのは、純粋種の中でも斯貴家だけ。
竜一は、その常識を覆した。
常識外れの技。しかし、竜一は理解していた。
この力は、まぎれもなく斯貴家のものだ。
これはカイレから与えられた力。
ホテルヒュペリオンで、カイレに左肩を噛まれた。
その時に、カイレから力を付与された。
だがカイレは、竜一を助けるために力を与えたわけではない。
カイレは、竜一が力を制御できるとは思っていなかった。
竜一はカイレの予想を覆した。
手足が生えた竜一は、再び動き出した。
真横に飛び跳ねて、大蜘蛛の突進を躱す。
そして、何事もなかったかのように攻撃を再開。
狙いは大蜘蛛の脇腹。ひびの入っている箇所に一点集中。
「ああああああああああッ!」
拳を叩き込み続ける。
ひびが大きくなる。
いける。
そう確信した瞬間、大蜘蛛の巨大な脚が薙ぎ払われた。
直撃。吹き飛ぶ竜一。
竜一は力を引き出し、体を修復。
地面を蹴り上げ、大蜘蛛に接近。
そしてまた、大蜘蛛の脇腹に拳を叩き込む。
あと少しだ。
竜一は確信する。
あと少しで硬い殻を貫ける。
再現されるように大蜘蛛の脚が竜一へと襲い掛かる。
攻撃に集中する竜一は躱すことができない。
直撃し、竜一の体が吹き飛ぶ。
地面を転がりながら竜一は考える。
被弾はやむなし。防御を捨てて、攻撃に徹しなければあの硬い殻は突破できない。
これは時間との勝負だ。
現在、竜一はかなりの無理をしている。
鬼神化の負荷は途轍もなく大きい。
急ぐ必要がある。体が動かなくなる前に、ケリをつけなければならない。
「行くぞ!」
敢えて口に出し、自分を奮い立たせる。
腰を低くし、頭を下げ突撃。
一瞬にして大蜘蛛との距離を詰め、拳を叩き込む。
ひびが更に広がった。
「いける! あと一撃!」
あと一撃入れれば、殻を突破できる。そう予感があった。
しかし、またしても大蜘蛛の脚が竜一を吹き飛ばした。
地面を転がる竜一。
竜一は地面に手をついて起き上がる。
「―――なッ」
口から声が漏れる。
膝をついてしまった。
立ち上がれない。
タイムリミットを迎えていたのだ。
「くそッ! あと一撃のところで!」
悔し気に歯噛みする竜一。
その直後、地響きが聞こえた。
大蜘蛛の突進。
迫りくる巨大な岩石。
ここまでなのか……。
半ば諦める竜一であったが、視界の端に飛来する物体を捉えた。
風を切る音。白く巨大な翼。
その正体は、空を滑空する鈴巴だった。
竜一は確信した。勝利を。
何故なら、鈴巴は一人ではなかったから。
鈴巴の両腕は、茜の肩を掴んでいた。
茜は鈴巴に肩を掴まれ、空を滑空していた。
「行きなさい! 茜!」
鈴巴は両腕を離した。
まるでミサイルだった。
茜は大気を突っ切り、空中で腰を捻った。
茜は小さく呟いた。
「あのさあ、いい歳なんだしそろそろ落ち着こうよ」
そして息を吸い込み、声を張り上げた。
「―――お爺ちゃん!」
茜の拳が大蜘蛛の脇腹に炸裂。
ひびが大きく広がり、殻が砕け散った。
そして、茜の拳は大蜘蛛の腹を穿つ。




