68.暗中の遊戯3
「クハハッ、やりおるのう」
廻向は背中の脚を使い、樹木にはりつく。
「はッ!」
茜の右拳が樹木に炸裂。
一撃で樹木に穴が開く。
ギシッ、ギシッと軋みながら樹木が倒れていく。
廻向は背中の脚をバネにして、樹木の表面を蹴り上げる。
一足飛びで空中を跳び、別の樹木に着地。
着地も束の間、鈴巴の翼が廻向に迫る。
廻向は脚でガードするが、翼と接触した瞬間、スパッと脚が切断された。
鈴巴は間を置かず、翼を動かした。
赤色に輝く翼が廻向の頭部を狙う。
廻向は再び別の樹木に飛び移った。
翼は廻向を取り逃がした。
樹木は翼に撫でられ、真っ二つに裂かれた。
鈴巴は目で廻向を追った。
翼をはためかせ、空中で体を縦に一回転。
それから高度を上げ、ピタッと体を静止。
そして、両翼を目一杯広げ急降下。
翼が風を切り、鈴巴は滑空する。
翼が木々を切断していく。
ドミノ倒しのように木々が倒れていく。
鈴巴は止まらない。
翼が唸りを上げる。
廻向に接近。
廻向は樹木を蹴り上げ、翼を回避。
空中に躍り出る廻向。
直後、廻向の真上に茜の姿。
茜は右脚を大きく上げ、振り下ろした。
茜の踵落とし。
廻向の背中に直撃。
その威力は絶大。
廻向の脚は全て砕け散った。
途轍もない速度で廻向は地面に叩きつけられた。
土が大量飛び散り、地面が大きく揺れた。
「ぬうッ……」
廻向から呻き声が漏れた。
廻向はすぐには起き上がれなかった。
茜の追撃。地面に横たわる廻向の背に、再び踵落とし。
それを廻向は直前で躱す。
立ち上がって飛び跳ねた。
強風。
その風はまさしく暴風であった。
「ぬッ」
暴風に煽られ、体が浮き上がる。
暴風を生み出した正体、それは鈴巴の翼。
「茜! 決めなさい!」
廻向の体は空中へ。
廻向は脚を再生させ、防御姿勢を取る。
茜は殴りつけなかった。蹴りを放つこともなかった。
廻向の脚を掴み、全身を使って地面に投げつけた。
弾丸の如き速度で、廻向は地面に叩きつけられた。
茜は廻向の後を追うようにして落下。
茜の背後に暴風が発生。
暴風を背に受け、落下速度が増す。
「終わりだね」
茜の宣告。
茜の右拳。廻向の腹に直撃。
「―――ぐふッ」
振動。爆音。大地が大きく揺れ、廻向を中心に陥没。
廻向は、白目を剥いて動かなくなった。
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「終わった……のかしら?」
「だねー」
地面に横たわる廻向の姿。
茜は廻向の姿を見て、少し気まずそうに言う。
「ちょっと悪いことしちゃったかな?」
廻向は白髪で痩せ細った老人。
如何に純粋種であろうと、白目を剥いて気絶する今の廻向の姿は、哀れな老人そのものだった。
「よしなさい、茜。この老人は斯貴 廻向。正真正銘の化け物よ。私達と同じね」
「そうだね……」
そう呟き、茜は困ったように頭を掻いた。
「えーと、それでどうする?」
「どうするって……やるしかないでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
廻向は解毒剤を飲み込んだ。
それを取り出すには、腹を掻っ捌かなければならない。
「じゃあ鈴巴よろしく」
「はあ!? なんでよ!」
「その翼で切り裂けば簡単でしょ?」
「む、ま、まあ……」
鈴巴は渋々ながらも頷いた。
確かに茜にやらせるよりはいい。
きっとおぞましいことになる。
翼が赤色に輝き出す。
そして翼を振るった時、予想外の出来事が起きた。
廻向の体が膨れだした。
一瞬で廻向の体が大きく膨れ上がり、岩石ほどの大きさとなった。
肉塊。
そうとしか表現できないものが目の前に現れた。
「なっ、なに―――」
鈴巴が戸惑いの声を上げた瞬間、廻向の体が更に膨れ上がった。
茜と鈴巴は後ろに飛び跳ねた。
緊急事態。一旦下がるしかない。
そのサイズは、まるで小さな山。
半径十メートルほどの歪な肉塊。
「何よこれ!」
鈴巴は取り乱した。
その後、茜の方へ視線を移す。
「茜、これは―――」
鈴巴は途中で言葉を止めた。
茜の表情が、かつてない程に張り詰めていたから。
「鈴巴、まずいよ」
そう茜が言った瞬間、肉塊が蠢き出す。
肉塊は粘土のように変形し、形を成していく。
まずは胴体。その胴体は蜘蛛の胴体をしていた。
そして脚。脚もまた、蜘蛛の脚。その脚が八本。
最後に頭。
朱く染まった眼。禍々しいツノ。鋭い牙。
牛のようでもあり鬼のようでもある醜悪な顔面。
その体躯は、地上に現存するどの生物よりも大きい。
正真正銘の怪物。
太古の昔、地上で暴れ回った異形の姿がそこにはあった。




