37.束の間の休息4
竜一はジェイミーと別れて、一人歩いていた。
腹はたっぷりと満たされている。今日は色々とあったが、トータルで考えて充実した一日と言えよう。
頭に浮かぶのは、やはり先程のジェイミーの話。
この世界には、自分の知らないことがまだまだある。
曲がりなりにも裏の世界に足を踏み入れ、世界の全てを知ったような錯覚に陥っていた。
そんな筈はないのだ。むしろ、自分が知っていることなど、たかが知れている。
ジェイミーは力の信奉者だ。その力は、金という人を動かす力。
人の心すらも動かす、途轍もない力。
ジェイミーの言うことには一理ある。
金の力は大きい。事実、金がなければこの資本主義の社会では何もできない。
今日、散々街を歩き回ったが、改めて考えてみる。
綺麗な街並みも、飲食店も、カフェも、お洒落なブランドショップも、事故の対応にあたった、レッカー業者、救急、警察。それらは全て、金の力で成り立っている。
金が無ければ、誰も、何も動かない。
改めて考えると、世界とは本当に世知辛いものだと感じる。
紙切れ一枚の効力で成り立つ社会。持つ者と持たざる者を隔てるのは、薄っぺらい紙切れ。
だけど、それでも竜一は思う。
金よりも大切なことはある筈だ、と。
竜一は信じている。
これまでのことを思い出す。自分は沢山の人に助けられてきた。
自分を助けたもの、それは金なんかじゃない。
それはひとえに絆。これまで築き上げた絆が、竜一を助けたのだ。
それをジェイミーに言えば良かった。
一言ぐらい言ってやれば良かったのだ。
言えなかったのは何故だろう?
それは、もしかしたら、ジェイミーに共感してしまったからなのかもしれない。
自分とジェイミーの生い立ちはまるで違うが、本質は何も変わらない、と思う。
もし、自分がジェイミーと同じ境遇だったのなら、きっと同じように悪事に手を染め、同じようにヘマをし、同じように殺される寸前まで殴られていたのかもしれない。
だからこそ、ジェイミーに共感してしまった。
「まいったな……」
そう呟いて、頭を掻いた。
ジェイミーは天染家の敵だ。天染家当主代行の部下である自分にとっては、ジェイミーはやはり警戒すべき相手で、憎むべき敵。
だが、すでに、そのような負の感情は失ってしまった。
もはや、ジェイミーを敵だと思えなくなってしまった。
甘い自分をなじりつつ、それと同時に思う。
まあ、いいか。もうジェイミーと会うことはないだろう。
ジェイミーは世界を飛び回る傭兵、または殺し屋。
今後、会う確率は低い筈だ。
そんな風に気持ちを切り替え、夜の住宅街を歩き続けた。
だが、この時の竜一の考えは短慮だったと言わざるを得ない。
竜一はもっと考えるべきだったのだ。
仕事を終えた筈のジェイミー・ブランドナーが、まだこの国に滞在している理由を。




