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26.催しの日3

 結論。

 菖蒲(あやめ)のフルネームは朽葉 菖蒲。

 朽葉 茜の姉にして、朽葉家次期当主候補。


 茜から竜一の話を聞いていた菖蒲は、竜一の姿を一目見てピンときたと言う。

 こちらの世界では珍しい黒髪、黒瞳。そして、竜一という名前。

 この少年が茜の思い人であると確信。


 茜の口から度々出る竜一という少年。

 合コンの席で、たまたま実物を目にした菖蒲は、竜一に興味を持った。

 興味と同時に悪戯心も湧き上がる。

 竜一を驚かすため、茜の姉という身分を隠し、竜一をここまで連れて来た。

 結果的にサプライズは成功。竜一は大いに驚いた。


 それと共に竜一は反省。やはり、菖蒲にからかわれていたようだ。

 流されるままにここまで付いてきてしまったが、軽率であった。

 菖蒲に悪意はなかったようだが、場合によっては大きな被害を被っていた可能性がある。

 

 そのように密かに反省する竜一の意識は、茜の声によって引っ張られた。


 「いやー、ホント驚いたよー。私の家に竜一君が居るんだもん。二人はどこで知り合ったの?」


 「うふふっ。驚いたでしょ? たまたま近所で泉谷君の姿を見かけてね。一目見てピンときたわ。この子が茜の話に出てくる泉谷君だってね。だからね、私、勇気を出して話しかけたの。そうしたら、やっぱり正解で、それから話の流れで家に招待することになったのよ」


 そう言うと、菖蒲は竜一の方を向いてウインクした。

 今の菖蒲の話は事実とは違うが、話を合わせろということらしい。


 茜は納得したように頷き、それから少し申し訳なさそうな顔をした。


 「ごめんね、竜一君。私、竜一君のこと色々とお姉ちゃんに話しちゃった」


 「あ、うん……」


 色々という部分には、竜一が異世界出身であることや、竜一の力のことも含まれている。

 特に口止めしていたわけではないので別に構わない。

 ただ、何と返事すればよいか迷う。


 「あっ、で、でも! 話したのはお姉ちゃんだけだし! それにお姉ちゃんには誰にも言わないでってお願いしてるから大丈夫! ね? お姉ちゃん」


 「ええ、そうよ。その点は安心していいわ。私は誰にも漏らしていない。もっとも、こんな話、信じてもらえるとは思えないのだけど……」


 確かに菖蒲の言う通りだ。こんな話、誰も信じない。

 だが、茜はその誰も信じないような話を菖蒲には話し、菖蒲はその話を信じている様子。

 それは、二人が厚い信頼で結ばれていることの証拠。


 頬に手を当て、微笑みながら菖蒲は言う。


 「いつも、茜から泉谷君のことを聞いていたらね、私も恋愛というものに興味が湧いちゃってね。だからね、今まで彼氏が出来たことがないというのは本当よ。そうだ、泉谷君、恋人として私なんてどうかしら? 私達、気が合うと思うのだけれど」


 「そ、そうですかね……ハハハッ……」


 乾いた笑い声を上げながら誤魔化す竜一。

 菖蒲の提案に待ったを掛けたのは、当然、茜。


 「だめだめ! ぜっーたいだめ! それだけは、お姉ちゃんといえども許せないんだから!」


 胸の前で大きくバツ印を作り、強く言い放つ茜。

 頬を膨らませ顔を顰める姿は、幼い子供が駄々をこねているようだった。


 菖蒲は上品に笑い、茜に言う。


 「冗談よ、茜。むきになっちゃって、本当にからかい甲斐があるわね」


 そう言って、茜の頭をポンポンと叩く様は慈母の如き。

 茜は膨れっ面をしまい「もーう、お姉ちゃんたらー」と言いながら楽しそうに笑う。


 微笑ましい二人の様子に、竜一の顔に笑みが浮かぶ。

 本当に仲の良い姉妹だな、と感想。

 茜と菖蒲は、まったくタイプが違う。

 例えるなら、茜は元気ハツラツで皆を笑顔にする太陽。

 菖蒲は、優し気な雰囲気と慈愛の心で皆を包み込む、優しい光。その様は、夜の闇に浮かぶ月。

 奇跡的なバランスの上に成り立つ姉妹。

 きっと二人は、固い絆で結ばれているのだろう。

 

 菖蒲が突然、パチンと手を打ち鳴らした。

 何かを思いついたような顔で言う。


 「そうだ、泉谷君。夕飯は、うちで食べていくといいわ」


 「あっ、お姉ちゃん、それナイスアイディア!」


 「えっ、でも悪いですよ……」


 「いいのいいの。二人分も三人分も変わらないわよ」


 「そ、そうですか。それじゃあ、お言葉に甘えて」


 竜一は恐縮しながら礼を言い、菖蒲は優しく微笑み、茜は嬉しそうにはしゃぐ。

 それから菖蒲は続けて提案を言う。


 「ついでにお風呂も入っていってちょうだい。なんなら泊っていくといいわ。あっ、折角だしお風呂一緒に入っちゃう? 三人で。それから三人で川の字で寝ましょうか」


 「い、いえ……流石にそれはまずいかと」


 「あら? 私は構わないわよ。ねえ、茜?」

 

 これには流石の茜も返事をし兼ねる。

 難しい顔をしてしきりに唸り、結論を言う。


 「わ、私は……竜一君がそうしたいっていうんなら……いいよ……」


 顔を赤くして俯く茜。

 その様子を見て菖蒲は「可愛いわね、茜は」と言って茜の頭を撫でる。


 竜一は微笑ましい姉妹の様子に笑みを浮かべ、夕飯は何だろうか、と考える。

 夕飯のあとのことは、その時の自分に任せよう。

  

 未来の自分に丸投げするという暴挙を働いた竜一は、このひと時の安らぎに身を任せることにした。



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