16.裏について
竜一の視界に覆われていた闇が晴れた。
突然、瞳に飛び込んできた光。
光の眩しさに竜一は目を背けるが、しばらくすると目が慣れてくる。
竜一は、自分の置かれた状況を確認。
まず、自分が座っているのはパイプ椅子。
椅子から立ち上がろうと試みるが、手足の自由が利かない。
両腕は後ろに回され、鎖で縛られている。
両足首も同様に鎖を何重にも巻きつけられ、身動きが取れない。
周囲に目を走らせる。
四方は鋼鉄の壁。
右上には強大なモニター。
モニターの下に複雑な機器が設置されている。
「大人しくしていたまえ、少年」
背後から聞こえる渋い声。
竜一は首を後ろに回し、男の姿を確認。
背後にいるサングラスの男に、竜一は尋ねた。
「ここは、どこですか?」
「ほう。意外にも冷静だな」
ワンの指摘で竜一は気付かされた。
自分でも冷静な自分に驚く。
それは、今、起こっている事態があまりも現実離れしているためか。
「そんなことより、答えてください。ここは何処で、貴方の目的はなんですか?」
答えを得られることを期待していなかったが、意外にもワンは、すんなりと答えた。
「ここは大和第四倉庫。目的は、君を餌に茜嬢をおびき寄せること」
そう言って、男は携帯電話を懐から取り出す。
それは、竜一の携帯電話だった。
「すでに茜嬢には連絡済みだ。ここまで来るようにとな」
「……何故ですか? 何故、朽葉さんを狙う?」
「それが、私の仕事だからだ」
「仕事?」
「そうだ」
ワンは顎に手を置いて、何事か考えるそぶりを見せる。
そして、竜一に尋ねた。
「君は、本当に何も知らんのか?」
「……どういう意味ですか?」
ワンは黙り込み、少し思案したあと説明を始めた。
「いいだろう、少年。君には教えておこう」
ワンの説明は、この世界の裏に関することだった。
太古の昔、歴史の教科書にも載っていない真実。
この世界には、ソレらが存在したという。
ソレらとは、怪物、魔人、妖、魍魎、といった、人ならざる存在のこと。
ソレらは総称して、異形種と呼ばれているそうだ。
その異形種は、己の暴力性、破壊衝動に抗えず、同種で争いを繰り返し、やがて絶滅。
現代においては、異形種という存在は忘れられて久しい。
しかし、異形種と交わり、人の限界を大きく超えた者達も存在した。
その者達は、この世界を支配できるほどの絶大な力を得ていたが、何世代も代を重ねるごとに異形の血は薄れ、現代においては、異形の血が残っている者は存在しない。
ただし、一部の例外を除いて。
例外は二つ。
一つは、突然変異型。
遺伝子の突然変異で、その身に秘めた異形の血が開花した者達。
その者達は、変異種と呼ばれる。
そしてもう一つ。
異形の血と適合し、現代まで力を継承してきた者達。
その者達は、血のにじむような努力と実験で、異形の力を極限まで引き上げており、一説には、異形種の力を越えているともいわれている。
それは、純粋な力の塊。改良と研鑽を重ねたその力は、オリジナルを凌ぐ。
その者達は、純粋種と呼ばれる。
変異種、純粋種ともに、人の力を大きく超える存在。
大きすぎる力は世界の秩序を乱す。
力を持った者達は、この世界の秩序を破壊することを良しとせず、この世界の裏に潜り、密かに暗躍しているのだという。
もっとも、変異種、純粋種ともに、世界的に見ても極少数であるため、世界を牛耳れるほどの組織力はないというのが実情である。
「その話、本当……なんですか?」
「君が今、置かれている状況を見ても、まだ信じられないというのかな?」
「それは……」
ワンの言う通りだ。茜とワンの身体能力は、人間の領域から大きく外れている。
それを実際に目の当たりにした竜一は、ワンの話を信じざるを得なかった。
「来たようだな」
ワンは右上の天井から垂れ下がっているモニターを確認し、机上の機器を弄り始めた。
竜一もモニターに視線をやる。
モニターに映し出されているのは、茜の姿。
倉庫の扉が自動で開き、茜は進みだした。




