第30食
この話はラスボスの死村??の視点から始まります。
ややこしくてすみません。どうぞよろしくお願いしますm(__)m
僕の転送魔法が実は成功していたとか、こっちの世界に戻って来たばかりでまだ感覚が掴めてなくて座標がずれてしまい、別の場所に≪終末獣≫を召喚してしまっていたとか、そんなささいなミスが吹っ飛ぶほどの衝撃に僕は襲われていた。
コイツはヤバい……ヤバすぎる……
目の前にそそり立つ≪終末獣≫の全身からはオーラ?のようなものが溢れだしていて、それが周囲の空間をゆがめているのが見えた。
凡百の能力者なら近づいただけでアボンされてしまうほどの濃密な空間歪曲場が展開されているに違いない。
凡百な僕は、ぜったいにこのみまもり距離をキープしようと心に誓う。
それに、コイツ、何よりヤバいのが…………
メタリックブルーなカラー!
特徴的な形状のヘルメット!!
右腕の前腕部がこれまた特徴的な丸みを帯びた形状のバスター状になっているぅっ!!!
違いらしき違いといえば顔面がウォー○マンなのと、履いているのがブリーフじゃなくてトランクスなところだけっ!!!!
…………コイツは…………なんてRockなManなんだ…………
ほぼまんまなその見た目に、僕は打ち震えていた。
……いろいろと………大丈夫だよな…………?
あまりのヤバさに思わず天に問いかけてみる。
答えは……ない。
困惑する僕をよそに、RockなManが突如例の決めポーズをしながら、咆哮をあげるっ!!
「WAIREEYYYYYY!!!!」
うん、もう完全にアウトだわ、コレ。
ほぼ自己紹介のようなその叫び声に、僕はもう体裁をとりつくろう事を諦める。
……仕方ねぇ、お前のビジュアルはケチのつけようがないほど真っ黒なグレーだけど、僕が呼び寄せた初≪終末獣≫だ。腹をくくるかっ!!
僕はコイツと運命を共にする覚悟をきめる。
それになにより
コイツはメチャつよい。見ただけで分かる。
一体で地球を滅ぼせるくらいのパワーを秘めている。
そういう意味じゃ大当たりの部類だ。
「よしっ……そうと決まれば頼むぜRockなモンスター、略してRockモンっ!! 悪い地球人を皆殺しだっ!!!」
「WAIREEYYYYYY!!!!」
僕の求めに応じるかのようにRockモンがバスター部分を構え、彼方に狙いを定める。
そして―――撃つ。
ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
鼓膜に衝撃が突き刺さる。
それは16bitが奏でるチープな音声なんかじゃなく、人類を滅亡させるのに十二分な説得力を持った、激しい爆発音だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうなっていやがるっ!!? ヨーコてめぇ、まさか外しやがったのかっ!??」
兄貴の困惑した叫び声がメット越しに聞こえる。
いつも自身に溢れている兄貴、こんな声を聞いたのは初めてかもしれない。
でも、待ってくれ、困惑しているのはこっちもなんだ。
今日、出現が予言されていた≪終末獣≫は一体だけだった。
私の消滅弓は間違いなくその≪終末獣≫を射貫いたんだ。
そして倒した。
それなのに、なんでまだ≪終末獣≫がいるんだ?
今日の出現は一体だけだったはずなのに?
それとも……まだ私に伝えられていない予言があるっていうのか?
訳が、訳が分からない。
『ヨーコ様』
その時、セツコさんから通信が入った。
『状況はこちらでも把握しております。どうやら……これは財団本部でも予見していなかった事態のようです。……申し訳ございません』
セツコさんは絞り出すように、謝罪の言葉を口にする。
予言されていなかった≪終末獣≫の出現。
それは、財団の存在意義を根幹から揺るがす事態に他ならない。
本部の混乱ぶりは容易に想像できる。
でも、それはセツコさんが謝ってどうにかなる問題でもない。
それに、この人はスマートな人だから、余計な謝罪なんてしない。
はぁ、こんな時に含みを持たせるのはやめてくれよ。
……謝罪の意味は他にある、ってことか。
正直、息を吸うのも苦しかったけど、イヤな予感がしたから、なんとかガマンして声を振り絞る。
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、それで、な、何?」
『ヨーコ様……本当に申し訳ございません』
セツコさんは再び謝罪の言葉を口にする。
そして――
『南極基地が……先ほど≪終末獣≫の攻撃によって消滅しました』
絶望を告げてきた。
それって、つまり……
『もう、双子の支援は期待できません。ヨーコ様……貴女しか……貴女しか』
セツコさんが声を震わせていた。
あのセツコさんが―――
それがどれだけのことなのか、私には分かってしまう。
そして彼女は無情にも、最後の通告をしてきた。
『貴女しか、この地球を救える可能性がある人はいません』
私しかいない? 可能性?
それって……それって―――
「お、おぇぇぇ」
「ね、姉さん、だいじょうぶ?」
あまりのことに胃が拒絶反応を示す。
ムリだ。
今、私がどんな状態か分かってるのか?
一日に二度も消滅弓を放って、し、死にかけてるんだぞ?
それなのに、さらにもう一度消滅弓を放てって言うのか?
ふざけるな。
だって、それって―――死ねって―――言ってるようなものじゃ―――
…………
クソッ、どうすれば……
疲労のせいか、頭が上手く回らない。
その時、トキノの膝だろうか、首裏に柔らかくて暖かい感触が伝わってきた。
ああ、なんて心地いいんだ。
ちょっとだけ休んで、休憩してから考えよう。
きっと、その方がいい考えが浮かぶ―――
私はそっと瞳を閉じ、そしてそのまま何も考えずにまどろもうとして
バキバキバキバキィ!!
『あ』
ザーーーーーーーーーーーーー
?? なんだ? 今の音?
ザーーーーーーーーーーーーー
み、耳障りだな、やめてくれないか
「はぁ、はぁ、セ、セツコさん、ちょ、ちょっと、ボリューム下げて、くれない、か、ハ、ハウリングしてるみたいなんだけど」
ザーーーーーーーーーーーー
返答はない。
な、なんだ? なにをやって
「ヨーコォォォ!! ヘタってんじゃねぇぇぇぇ!!! 見やがれぇぇぇぇ!!!!」
兄貴が絶叫している。
うるさいな、何を見ろって……?
そして、そっとメットが外される。トキノだろうか?
よけいな事しないでくれ、太陽がまぶしくて目がくらむじゃないか……
……太陽?
アレ? 何かおかしい。
……たしか今日は、ずっと曇りだったはず―――
ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
その時、私が太陽だと思っていた物体が突如分散し、四方へと飛び散っていった。
そしてその欠片が地表へ落ちた瞬間
ボォォォォォォン
天を突くほどの巨大な火柱が上がる。
「えっ」
私は上体を起こして、背後を振り返る。
街が燃えていた。
メイとの思い出がたくさん詰まった街が、予言に守られていたはずの街が、赤く染まっていた。
「メ、メイ?」
メット越しに呼びかけてみる。
何の返答もない。
そしてふと視線を私とメイが暮らす洋館があるあたりに向けてみる。
そこは特に激しく燃えているように、私には見えた。




