学門へ進め
真赤 5日
トール初代学園長と初期の幹部候補達への課題指示を出してから訪れた迎賓館大ホールは妙に静まりかえっていた。
広い部屋に置かれた各丸テーブル事に知り合い同士で集まったと思われる。
まあそれは良い。
ここに集められた者は最年長で13歳、平均年齢は11歳の子供達だ。
いきなり親元を離された子供が不安を抱くのは当たり前だろう。
真ん中の2つのテーブルに3人、4人で座っているのが、西部閥の貴族子女、この中にはキリエの姉も一人混ざっている。
壁際のテーブルには、セリオン爺さんとセルラニアを訪れたことがあるジェイムス公子がいるから北部閥で、その隣にいるのは黒の竜の里の竜族達。…達と言っても姪2人と同世代の少女2人だが。
人数にして15人。
彼らが学園一期生の中核になり、最終的には学園の『色』を決めるメンバーになる者達だ。
後から南部閥や東部閥からも数名合流するし、クリングオルフやシースコンから留学希望者と言う名目でここに加わる者もいる。
予想では貴族の入学者は40名ほど、その内の8割がここで教育を受けた者になる予定だ。
「ひとまず、自己紹介はすんでいると見て良いのか?」
「一通りは終わっているぜ。にしてもブッ飛んだことを始めたな!」
ルシアへ問い掛けたつもりなのだが、答えたのはニマニマと笑う粗暴な少年。
口も態度もでかそうだがこの場では一番高い地位にいるのだから問題ない。
「ジェムか。
今は国内貴族と竜の里の女性達だけの集まりだから良いが、クリングオルフやシースコンの者が合流したら改めろよ?」
「当たり前だろう?
こちとら公子として正しい教育を受けている。
兄貴の予備扱いだがな!」
ジェイムスへおざなりに注意をすれば、向こうも同じように返す。
セルラニアにいる頃に結構な頻度で会っていた幼馴染みの気安さだな。
「悪い話ではないだろう?
教育を施されていること自体がある種の特権だぞ?」
「それは今回のことで痛感したがな。
ガムトの連中とか頭がおかしいだろ」
「貴族を特権階級と勘違いしたバカだ。連中のことは終わった話だな。
とは言え、それが尾を引いているのも事実。
折角新しく学園を立ち上げても同じレベルのバカが増えたら意味がない。
一応、トール叔父を学園長に据えることで抑止力にしたが、子供のことは子供にしか分からないからな」
「違いない。
上級貴族の子供と取り巻きが問題ないと言えば、周囲の大人は手を出そうとしなくなるだろうからな」
「そう言うことだ。それを放置したのが王立学園の現状だろう?」
「あそこは社交の場だと言うのが今の貴族達の認識だぜ?
兄貴は付き合いきれんと言って退学したくらいだ」
肩を竦めるジェムに納得する。こいつの兄ともそこそこ認識があるがあの人も商人気質で無駄なやり取りを嫌っていたしな。
「そうならないために校風と言うのを作ってしまおうと思ってな。
大多数がまともな貴族なら、バカは自然と居心地を悪くして去っていくものだろ?
そう言う流れが4年も続けば校風になり、10年続けば伝統になる」
「良いな!
実に面白い。
俺達が学校を作っちまうって発想が面白い。
俺達へのリターンは学校の伝統を作り上げた優秀な一期生って評判だな?」
「悪くないだろ?」
ニヤッと笑い合う俺達に周囲の者達も満足そうに頷いている。どうやらこいつは幼馴染みへ手助けをする意図があったらしい。
でなければわざわざこの場で確認したりはしないだろうし。
「まあな。
それで俺達をここに集めた理由は?」
「簡単な話だ。
皆でお勉強しましょうって訳さ。
変な貴族のボンボンを入れないためにも篩に掛ける必要がある。
貴族の入学生は入学試験を受けてもらおうと思ってな」
「なるほど王立学園とは逆になるのか」
王立学園は優秀な平民を受け入れる為に平民の入学生には入試を行っているが、貴族は入試を受ける必要がないからな。
「そう言っても良いか?
一応、平民の学生は2部制にして、10歳から13歳まで学ぶ基礎学部は入試はないが、基礎学部から本学部へ進級する時に進級試験を受けてもらう。
…まあ、貴族の入試を一緒に受けるようなものだな。ルシア例のものを」
「ええ。皆もね」
俺の呼び掛けに頷いたルシアがリム、アイシャ、リンラ、キリエの4人と一緒に各テーブルに紙を配る。
「これは噂に聞く紙か?
羊皮紙より薄くて使いやすそうだな」
「材質より内容に注目してくれ」
「内容? この模様か?」
「ああ。これは模様ではない。数字だ。
ここには一から二十までの数字が描かれている」
「…なるほど。
数字を記号化する訳だな?」
「さすがにジェムは理解が早いな。こうすることで今まで20文字近くの表記をしていた二桁の計算を8文字に削減し見易く出来る」
そう言って用意させていた黒板に『15+15=30』と書き、その上に『イルン・アガガ+イルン・アガガ=セムスニオ』と書き表す。
字が汚い? 実験的に造った粗悪な黒板に石灰岩モドキで直接書いているんだ。そのくらいは見逃せ。
「なるほど便利だな。しかも『メタムニオ』『セムスニオ』と10の区切り毎に単語を覚えなくても、『20』『30』と表記すれば良い訳だな」
「ああ。まずはこれを習得してもらう。
算数の入試問題は乗割算と平均値の計算と考えている」
「ブッ飛んだことを!
王立学園の最終学年レベルの学力を3年で身に付けろと言うのか?」
「その辺は問題ない。連中が覚えるのに時間が掛かるのは効率が悪いせいだ。
教師もそうやって教わってきた連中だろうから、改善がされていないだけで効率的な学習要領をこなせば大丈夫だろう。
ちなみに3ヶ月後から入学させる平民の一期生は余分な予備知識がないからな?
下手すると彼らの方が優秀になる可能性もある」
例えば九九を覚えさせるのに、ある程度の計算を常時している連中は『三三九』を理解させるのに『セムス = サン』と頭の中で変換する必要が生まれその分効率が下がる訳だ。
俺の説明に顔をしかめている所を悪いが手加減はしない。
ジェムが言っただろう?
『伝統を作り上げた優秀な一期生』って看板を得るっと。そのために自分へ投資するのは当たり前だ。
……俺の半分でも忙しくしてやれ等と酷いことは企んでいないぜ?




