土霊の末裔と雷霊
赤緑 9日
婚約のフリをした契約を成立させたリンラとそれに立ち会ったグリニカ。
その2名がいるのは今件の筋書きを書いた少女の領域だった。
穏やかな日差しが差し込む草原の真ん中で開かれたお茶会は、リンラはもちろん、グリニカ・サートでさえ初めての経験となる。
真祖直系の2名だ。多少、日下に出てもそれで即座に不調になるわけではないが、かと言って悠長にお茶を飲む余裕はないのだから。
「まさか、この年でこのような体験が出来るとは思わなかったわ」
「感謝してね?」
「もちろんですアリス様」
「ありがとうございます」
「様付けはいらないわよ。私はただの半精霊に過ぎないわ」
「半精霊の時点で私達の敬意を向ける対象ですが?」
自分達の祖と同位の存在に礼をするのは当然と言うのが、彼女達の考えであり、そうでなくても大陸規模の影響力を一個体で行使できる半精霊が敬われるのは当然でもある。
「まあ良いわ。
ひとまず、パパと契約は出来ている状態にあるからリンラは外の世界でも日差しを浴びても大丈夫。
結局、ゴルドパイヤが日光に弱いのはマナの支配力が弱い人族がベースになっているからなんだって。
竜や神族、後は悪魔族と契約を結べばどうにでもなるの。
契約を結べるのは、魂が固定化する10歳前半までしかチャンスがないって問題は残るけどね?」
「そうですか。
ルナライト伯爵家の仲介で竜族と交流が増えることを期待するしかないでしょうね」
「それしかないと思う。
別に結婚する必要はないんだし、同性同士でも契約は出来るよ?」
「クリングオルフ各領家と相談しておくとしましょう。
…何故、この情報をあの若君に話さないのです?」
「パパは結構苛烈な所があるから、この情報で派手に動いた挙げ句に世界を混乱させそうでしょ?」
「そんなことはない!」
ため息混じりに話すアリスに強く反論するリンラ。これは『あの方』の存在を知っている者と知らない者の差だろうか?
「とにかく、これを教えるのはダメ。
それはサート家の利益にもなるでしょ?」
「それはそのまま借りになるのですけどね」
「別にルナライト伯爵家には分からない借りでしょ?
私に協力してくれるだけで良いのよ?」
「分かりました。元より上位者たる半精霊に逆らう気もありませんので」
「快く引き受けてくれて良かった。
それじゃあ、後は招いた最大の理由ね。
現状は仮契約の状況なのよ。リンラちゃんはパパから名前を貰って欲しい。
精霊としての名前を得るわけだけど、普通は隠しておくものだからどんな名前でも影響はしない。…はずだから、精霊として提案するのは、ティアマト、イザナミ、ガイヤの3つが候補ね!」
「それをフォルセウス殿に付けてもらうように誘導せよと言うわけですか?」
「うん。多分パパはゴルドパイヤの印象からカグヤと名付けようとすると思うの。
だから、ゴルドパイヤは夫婦になると夫が妻に隠された名を付けるとか勝手な伝統を立ち上げてやっちゃって!」
「それは良いのですけど…」
「それなら問題なし!」
名前に規則性を見出だせずに困惑しているグリニカへ畳み掛けるアリス。
それらが国産み或いは神産みの属性を持つ異世界の地母神達の名前とは知らないグリニカには当然、アリスの思惑が見えて来るはずがない。
いや、仮にそれらの名の持つ意味を知ったところで、世界の秩序を司るはずの半精霊に不相応な野心は見出だせないだろうか…。
無邪気を装ってぶっ飛んだ野望を抱く様はまさにあの親にしてだろう。
首をかしげているグリニカにとっては救いかもしれないが…。




