宰相の、今日も頭が痛い
赤緑 12日
自分の執務室で書類を書いていたメリウスの元に2人の来客があった。
1人はバラット伯爵、もう1人は実の娘であるメイラである。
またかと言う思いが詰まったため息と共に徒労感を吐き出して、執務室へ招き入れる。
「失礼します。宰相閣下。本日は重要なご相談がありまして…」
「うむ。財務閥の重鎮たる卿が同じく財務官僚をしている娘を連れてと言うことは西部のことかね?」
「はい」
まあそれしかないだろうな。今の西部はルナライト家が主体となった大規模開発の真っ最中。
開発特需で賑わっているのにその恩恵は、海運を利用して北部とシースコンの2つが主に享受している。
そこにクリングオルフも加わればその利益の分け前は更に減るだろう。
その状態に中央部を治める貴族家が陳情を上げた。
内務閥でなく財務閥を利用する辺り無駄に狡猾だ。
内務閥を利用しても、貴族同士の調停しか出来んが、財務閥を動かせば国の後ろ楯を得られる。
大方、財務閥の小者に王国へ流れるはずだった税収が他国へ流れていますと吹き込んだ愚か者がいるのじゃろう。
「議論の余地はないぞ」
「お待ちを! 現状では中央部の不満が溜まる一方です。
せめて交渉のテーブルを持つぐらいは必要では?」
「あまり私を失望させないでくれんか?」
しっかりと目を見据えて言えば、顔を青くするメイラ。隣のバラット卿にもはっきりと理解させよう。
「良いか? 今回の開発利権を得れば、今後の学園運営の負担も背負うのは必然だろう?
利益は欲しい。損益はいらない等と子供の我が儘は通じん。
学園設立の要綱にあることを承認している以上は、学園の運営が始まれば、損益を中央貴族が負担して、利益を西部貴族が総取りする結果になる」
「そんな横暴が許されるわけありません」
「どこに横暴がある?
学園設立と運営に置ける利益と損益。学園卒業生に関する条項は別物だぞ?」
「閣下。つまり今回の特需に嘴を挟めば、設立後の運営費補填の義務も生じると言うことですか?」
「バラット卿は理解が早いな。
その通りだ。今、彼の若君は我々の前に美味しそうな餌を吊るしておるのさ」
つくづく厄介な次期伯爵殿だ。取捨選択を間違えれば痛い目を見るのは明らか。
「黒字に転じれば還元されるのでは?」
「…あの若君は絶対わざと赤字運営になるように計算しておる。学園の赤字を学園都市全体の黒字で補填して相殺する気じゃないかな?」
「学園都市の税収は学園から切り離されている」
「当たり前の話なんですけど…」
「そう。当たり前だ。学園は教育機関。学園都市は行政機関の管轄だからな。
だが、どちらもトップがルナライト伯爵家だから、相殺出来るだけだな」
「そんな無茶な…」
「我々とは見ている視点が違うのだろうな。赤字だから切り捨てる方針の我らと赤字を利用してしまうフォルセウス殿。…どちらの器が大きいか?」
穏やかに呟く私の声に顔を更に青くするメイラとバラット伯爵。
ようやく自分達が喧嘩を売ろうとした相手の怖さを理解したようだ。
「さて、これらを説明した意図は分かるな?」
「仮に王国が仲介をすれば、政府はルナライト伯爵家と中央の貴族家両方から疎まれる。
そのようなことにならないようにしっかりと統制をとる必要がありますわね?」
「独断で動く者は解任も有り得るとしっかり伝えよう。
王国の関与を否定するためのスケープゴートになってもらうとも通達しておこうか…、失礼します。宰相閣下」
慌ただしく退室する2人の財務官僚を見送りつつ、彼の若君の次の手を考える。
…正直予想が付かないのが痛い。
基本的に彼の次期伯爵は、こちらからちょっかいを掛けない限り無害だが、既に王国が伯爵家に掛けた迷惑の数々がある。
……困ったものだ。




