グリニカと対談交渉
赤緑 8日
リンラ嬢の行動に対する謝罪と言う名目で、訪ねてきたグリニカ卿と共に迎賓館の奥にある部屋へ移動した俺は向かい合ってソファーに座り込む。
対面に座るのはグリニカ卿とリンラ嬢。
当事者と責任者の3者面談と言うわけだ。本来ならルシアとリムも呼ぶべき所だとは思うが、グリニカ卿が2人の遠慮を願っている以上は、借りを作る目的できいておいて損もないと判断した。
「まずはこちらの頼みに応じていただきまして感謝します」
そう言って深く頭を下げるグリニカ卿。
嫁入り前の貴族令嬢が夜這いをかけたなんて醜聞も良いところだしな。
「いえ、これからの付き合いを考えれば当然の気遣いです」
「ありがとうございます。普段は大人しい娘がこのような大胆な行動をするとは思いもよらず、多大なご迷惑をかけました」
「グリニカ卿にとっても想定外ですと?」
「その通りです。我が家もクリングオルフにて領地を治める家。貞淑を美徳とするのは必然でしょう?」
「確かに。
そうなりますと彼女の行動には普段とは異なる事情があると言うことですね」
「ええ。フォルセウス殿の魔力にリンラが惹かれ過ぎたのが原因でしょうね」
「…惹かれ過ぎる。優れた精霊との親和性の影響でしょうか?」
雲行きが怪しいな。このままでは俺のせいにされかねない。流れを切って、向こうが落ち度としている間に交渉をまとめよう。
「そう思うわ。私達も高位の竜族と会う機会があまりなかった。ましては、男性となれば私でも覚えが無いわ」
「そうでしょうね。今回は不幸な事故と言うことで…」
「そうね。けれど今回の状況を考えれば、この子との婚約を頼みたいとは思うのだけど?」
「もちろんです。昨日の時点でとしましょうか?」
「良いのかしら?」
そうすれば、彼女の行動は婚約前の暴走から婚約者へのイタズラ程度までランクダウン出来る。
俺への借りを作ることにもなるけど…。
「ええ。その代わりと言ってはなんですが」
「何かしら?」
「味噌を造る職人を当家が作る学校の教師として派遣してもらえませんか?」
「そうね…。良いわ。そのように手配しましょう」
よし。発酵技術を持つ職人をただで確保できるぞ。発酵に使用する豆等を変えて色々と試させれば案外いい感じに味噌が造れるかもしれない。
「ゴルドパイヤの職人を派遣することになるのでその辺を考慮してくださいね?」
「それはもちろん」
…そう言うしかない。
いくら命が軽い世界でも専門技術を持つ職人の価値は高いのだ。それを庇護できない環境だと思われたら、ウチの領地の発展を阻害する。
けど、これって施設の整備が必要になるから反って高く付いていないか?
いや、どちらにしろ設備は必要なのだ。熟練工の意見で改修できればむしろプラスになる。
「それじゃあ、この子との婚約を今晩行いたいのだけど。良いかしら?」
「特別な儀式が必要でしたか?
でしたら、こちらも準備に時間をもらった方が?」
「大丈夫儀式自体はこちらで全て準備するからフォルセウス殿は立っているだけよ?
それに明日以降はクリングオルフ中の貴族が集まるのよ?
そんな余裕はなくなるわ!」
「分かりました。それではそちらにお任せします」
「ありがとう。リンラはこちらに残って、他の婚約者方と親交を深めなさい。
それでは失礼しますね?」
…慌ただしく去っていった。
年の功と言うには、優秀過ぎるだろ?
あの人。
絶対にクリングオルフの他の貴族に対する防波堤にしよう。ゴルドパイヤ達は欲しい物が無さすぎるから、常時こちらが不利になる。
経済の規模は小さいのにその小さい経済がしっかり循環しているのが厄介だ。
こう言う時は全く新しい物を入れて経済の流れを変えてしまわないと貿易で有利にはたてない。
しかし、下手な物を入れて、経済的な侵略ととらえられても困る。
ルナスフィア中央の貴族ならどんだけでも手が打てるんだ。既得権益を守り、利権を得るのに必死ならかき混ぜる手段は幾らでもあるから。
…こうなると婚姻関係を結ぶのが年下のリンラ嬢であることは助かる。
年上を迎えれば、外戚的な力が増すからな。
そこまで考慮しているならやはりグリニカ卿は侮れん。




