貴族の歓待 サート領家
木目を活かした洒落た造りのテーブルとそれに合わせた椅子に案内された俺達。
テーブルの上に並ぶ料理は、非常に良い香りの漂う肉や野菜。
見た目はやや黒っぽくて地味だが、それは味噌の色だろう。
宿屋から俺の好みを訊いて、それに合わせてくれたと言うわけだ。…それなら。
やっぱりあった。手元の小鉢に山菜と茸を切った物が入っている。
食べ損なったと思っていた山菜を用意してくれるとは憎い演出だね。
「失礼します」
思った以上の歓待に内心かなり喜んでいた俺を現実に戻したのは、対面に座った2人の少女達。
見た目は15歳前後でどの子も金髪に似通った顔立ち。
「サート領主グリニカの娘、アミカと申します。本日はよくお越しくださいました」
「同じくリンラです!」
「初めまして、ルナライト伯爵家の次期当主、フォルセウスと申します。フォルとお呼びください。
こちらにいるのは私の婚約者のルシア、リムティエル、アイシャです」
俺の紹介にそれぞれ軽く会釈して答える。それにしてもグリニカの娘と言うのがよく分からない。
俺のような若い次期当主に数百歳の女性をあてがえば、周囲の反感を買うぞ?
「現状でウチから婚約者として出せるのはこの2人になるわ。他の娘は既婚者か、歳の差がありすぎるのよ。
アミカは21歳、多少歳上だけど大丈夫でしょう。リンラはまだ6歳だからこれから礼儀作法を仕込むけど、フォル殿が子竜になるまでには間に合うと思っている」
……本当に訳が分からない生き物だな‼
見た目は同世代の3姉妹に見えるのに、実際は2400歳以上の母親と21歳の姉に6歳の妹か?
「…単刀直入に訊くけど、そちらはアミカさんを奥さんにしたいの?
それともリンラちゃん?」
リムすげぇ!
俺が訊きにくいことを本人達の前で訊いた!
普通に考えて、アミカだろう? これから教育を施す少女はその結果がどうなるか分からないが、既に教育を終えている女性なら問題は……、あれ?
「一応、アミカには婚約者がいるのよ?
けど、アミカの方が良いと言われればそちらを破棄させる。リブロバーンのダークエルフだから、こっちも良縁だけどね」
逆だった! 訊いて大正解じゃないか。リブロバーンは魔大陸東岸に広がる昼なお暗い大森林地帯。
あそこにはゴルドパイヤと袂を別ったもう1つの吸血鬼種族が住んでいたような?
「リブロバーンには銀髪の一族がいませんでしたか?」
「ええ。銀吸血鬼達が森の奥で他の不死族と小さな集落を造っているわ」
確かゴルドパイヤとの差は髪色とあちらは闇属性とも親和出来ることだっただろうか?
「シルバイアが嫌いなゴルドパイヤとシルバイアを牽制したいダークエルフが手を組むので?」
「別に表立って敵対はしていないのだけどね。
お互いに譲れないものがあるのよ?
大地の王の眷族を理由に正統性を主張してきた私達と数多の死霊を統べてきた彼女達とではどうしても主導権争いが絶えないの」
「ホーブルが元々土霊だから、ゴルドパイヤこそ第一の眷族と言えそうなんだけどね?」
「アリスと言ったかしら?
生憎とそれを証明できないのよ。ゴルドパイヤとシルバイアはほぼ同時期に産み出された種族で、上位属性の闇を持つあちらの方が高位だと考える娘は私達の中にも多いの」
「……闇だから高位?
精霊には分からない発想だよね?
確かに光と闇は世界のバランスを保つ上で大きい役割があるけど、それだけだよ?」
「多分、精霊には分からないのでしょうね」
「ま、いいけど。
パパと契約するならリンラちゃんにしておいた方が良いと思うよ?
精霊に近い種族がパパと契約するのは影響が大きいと思う。まだ安定しきっていないうちならうまく馴染めるかもしれないけどね?」
なんか、普段と違ってガンガン意見してくるな。アリスは何を知っている?
……クゥー。
「ちょっとリンラ?」
「ごめんなさい。失礼いたしました。フォルセウス卿」
「せっかくの食事が冷えてしまいますね。グリニカ卿?」
「そうね。何せ目の前の食事はフォルセウス殿が楽しみにしていたものだものね?」
可愛らしく小さなお腹の虫を鳴らすリンラ嬢に気を使って食事を始めようと促す。
「そうですね。それでは」
「ええ、お召し上がりください」
グリニカ卿の声に従って、山菜のおひたしに手を伸ばす。…コンソメ風の味付けだよ。これ。
気を取り直してメインディッシュぽい肉に手を付けるが、甘いんだけど…。
味噌だよな? これじゃまるで、中国の醤じゃないか?
そうか! 山間の盆地で、湿度は確保できるから発酵調味料が発達する。
だが、山が多い地形のせいで塩が割高になるから、麹の種類が塩分を好む好塩性じゃないのか?
いや、防腐剤の代わりに多少は塩が入っているはずじゃないか?
…もしかして。
「これは本当に変わった味わいですね。失礼ながら何から造られているので?」
「どうかしら? 2人は知っている?」
グリニカ卿に問えば分からないのか、2人の娘に話題を振る。そちらも顔を見合わせているし…。
これ、多分大豆で造った味噌じゃない。
元々豆類は連作障害を起こしやすい作物だし、山間の盆地で耕作面積が狭い地域があえて作るはずがなかったわ。
「この国は芋が主食でしたか?」
「そうだけど?」
多分、それを保管する過程で生まれた発酵調味料だわ。これ。
ヤムイモとか蛋白質がそこそこ多い芋で造った発酵調味料と言うオチだ。
これはこれでそこそこ美味いけど、味噌汁は飲めない。
…中国みたいな民族衣装に中華風調味料の国があるんだ。日本みたいな国があってもおかしくはないよな?
余裕が出来たら、レリント号に世界一周を命じようかな…。
食に命を掛ける日本人の性に大国の権力。差し詰め、キチガイに刃物のようなコラボがここに生まれる。
フック船長の不幸はこれからだ‼
その不幸は、ポーカーフェイスで肉を食いながら、微妙な晩餐をおくるのだった。
遅くなってすみません。
仕事の関係で亀更新に戻っちゃいましたが、何とか5月中に上げられました。
6月中旬くらいで仕事が落ち着けばまた更新速度を上げられると思います。
『味噌』の補足です。
現代日本のように徹底管理された状態で発酵した訳じゃないので、雑菌が混ざり、雑味が生じているので少量舐めた時は、田舎味噌的な物と勘違いをしています。
糖分やアルコール分も含んでいるので、お湯で溶くだけで味噌田楽や味噌おでんに使える、某社のいろいろ味噌みたいになりますが、残念ながら味噌汁は出来ません。




