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転生領主とその周辺  作者: しから
内政チートの始まり
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宰相メリウスの頭が痛い日々

赤緑 1日


 夜遅くに帰宅して、野菜中心の夕食で数少ない楽しみの1杯を傾けた。


 宰相と言うのは、国の舵を取る仕事だ。

 数多の書類を決裁し、王の判断を必要とするものを王に回す。

 その日、陳情する者の数と順番を決めて、それを元に王族個々の日程を調整していく。

 問題が起こればそこに駆り出されて、日が沈み始めたら、侯爵家の当主として仕事を始める。


 法衣貴族故に仕事量はそこまで多くないが、王城を走り回ることは多い。


 そこまで終われば、後は個人的な付き合い。個人のと言っても各種政策の根回しや領地貴族との打合せ等々で忙しい。


 日々健康的な生活を心掛けているが初老と呼ぶには、無理がある年齢ともなればこれらの仕事が堪えるのは当然。

 さっさと寝てしまいたいところだが、今日はそう言うわけにはいかない。

 ガチャリと音をたてて、ノックもなしに書斎を訪ねてきたのは、孫娘と言うより、ひ孫と言うのが相応しいほどに歳の離れた娘。


「おくつろぎのところに失礼します。お父様」

「なぁに、こちらから呼んだことだ。フォルセウス殿とのやり取りはどうであった?」

「完敗です。徹底的に絞られて、山ほど借りを作っただけで終わりました」

「うむ。学園長からは当たり障りのないことしか聞いていないがな?」

「無能なあの男を矢面に立たせれば、もっとひどい被害を被ったことでしょう。

 とは言え私自身の力不足もあります」

「詳しく聞こう」

「はい。最初に既に躓きました。殿下が中々学園まで行こうとしなかったお陰で着いた時には、ジュンク伯の次男揉めている最中で、割って入ろうとしたところで護衛の黒狼に邪魔されて、先に仲裁に入った学園教師を論破しているところでしか割りにはいれず。

 しかも、ジュンクの次男はフォルセウス卿の額を殴り付けています。

 ……いえ、わざと当たりに言ったようでした。

 殴ったはずの次男が手を抑え痛みを堪えていましたがフォルセウス卿は平然としたものでしたし…」

「クール殿下だけで向かわせるのは不味いと思ったが…」


 殿下は少し気の弱いところがあらせられる。下手な言質を取らせないためにこの娘を付けたのだが。


「クール殿下はフォルセウス卿に苦手意識を植え付けられていたようです」

「裁定後の面会の一件じゃな。王太子殿下から聞いている」

「その件を学園長に話す時にかなりどうでも良いように話され、そこであの男が子供同士の喧嘩と返したので」

「なんと言うことを」

「ええ。学園は在校生の管理が出来ないと自白させられ、セルドア・ガムトとの話で卒業できるだけの能力がないのに生徒を卒業させたと証明されました」

「待て、セルドアとのやり取り等聞いていないぞ!」

「王国法をまともに理解していないと、セルドアの言質を取っていたようです」


 …頭が痛い。これでは学園が教育機関として機能していないとばらしたようなものではないか。

 最初から全部掌の上だと言うことか?

 ……私ならどうする?


「自前の教育か?」

「お父様?」

「恐らく、あの次期伯爵の狙いは自分達で教育機関を準備することだ」

「そんな無茶な…」


 …うむ。聡明なクリスでもそう思うか。

 それが普通だろうな。人にものを教えると言うのは自分でやるより難しい。

 どれ程優秀な者でも、相手の能力分しか覚えさせることが出来ないのだから当然だが。


「そう無茶に思えることだ。

 じゃがそれが上手く言った時には王立士官学校の衰退は免れられん」

「それは当家を始めとする中央貴族の影響力の低下に繋がるのでは?」

「そうだ」

「どうにかして止めないと‼」

「無理だ。こちらに挽回できないほどの落ち度があるのだぞ?

 圧力をかけようものなら西部と王国で戦争になる。そうなれば負けるのは王国だ」

「そんな馬鹿な」

「事実だ。月華神教会、黒の竜の里にセルラニア、シスコーンを同時に敵に回して勝てるか?

 ましてやダグラス卿の件で中央貴族に不信感を持つ辺境伯は多い。国力向上の為にアトラス陛下を国王に迎えながら、ダグラス卿を失う失態を犯した我らは国益より私欲を優先しているのでは? と疑われているのだ」

「そんな! お父様がどれだけ国に貢献してきたことか!」

「既存の国政をそのまま保持してきただけだ。貢献を認められても、それだけだぞ?

 多くの領地貴族はルナライト伯爵家が王家を立てているから従っている。あの家が立てば、各地の不満に火が付く」


 …フォルセウス殿が王位を望んでいないのが唯一の救いだ。それがあるから伯爵家は動かず、各地の反意持つ勢力も沈黙している。

 そもそも真っ当な貴族の子弟は学園が教育機関として機能していないと知っているのだ。

 それに危機感を持つ愛国者は多い。


「……王国予算から創設資金を援助する。そうすれば王国が国益を考えていると周囲には伝わるはず。

 合わせて士官学校を直接管理しているマーブル子爵を解易。学園長以下現職を厳罰に処す」

「多額の助成金を請求されることになりそうですね」


 暗い顔になるクリスに頷くしかない。助成金と言う名目ではあるが王国から伯爵家への謝罪の意味が強いからな。……やむを得ない。

 それにより我が家が伯爵家に媚びたと侮る法衣貴族が増えるだろう。

 私が睨みを効かせている間は良いが、世代交代すればあわよくばと扇動する者が出るかもしれん。


「ダグラス卿の件がここまで祟るとはな……」

「どういうことです?」

「私はダグラス卿を襲う計画を事前に知っていた。ルナライト相手に分が悪いし、それで次期伯爵となれなければ当家の婿に迎えて宰相職を譲りたいと考えて黙認していたのだが」


 絶句しているな。ダグラス卿を不意にした今一番私の後任に相応しいのはこの娘だが、まだ当分無理そうじゃ。



 ……後日、晩餐会のお礼と称して贈られてきたフォルセウス卿自ら作ったと言うパンに名宰相メリウスも絶句することになる。

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