学園長に会おう
赤緑 1日
中からの「どうぞ」と言う呼び掛けで扉を開けて「失礼します」と入室していくクリス嬢及びクール王子に続く。
「失礼します」
と入室した部屋は、木目を活かした家具で統一された部屋で、落ち着いた印象になっている。
…壁に飾られた暴血熊の赤黒い毛皮だけ余分だが。
「ようこそ、王立士官学校へ。
歓迎いたしますぞ‼ フォルセウス殿」
こっちはバーコード頭、ビール腹の中年親父に歓迎されても嬉しくないがな。
「そうですか?
あまりにも斬新な学園紹介に私は歓迎されていないのかと不安でしたが?」
「斬新な学園紹介ですかな?
そのようなものは…」
当惑しているな。校門のやり取りの情報は得ていないか。
…一直線に学園長室に来たから無理もないか。
今一、駆け引きを知らないクール王子はともかく、クリス嬢が脇目も振れずに真っ直ぐ来たのは、ビスト侯爵家はこの学園長を見捨てる気と見ていいか?
「実地でこの学園は学外の身分がそのまま、通用すると紹介していただきました」
「そ、そのようなことは断じて!」
慌てて否定する学園長。…もう少し足掻かせようかな。
「おや? 校門で貴族の少年が嫌がる女子生徒に言い寄っていましたが?
…ああ、彼は私と同年代でしたし、私同様に見学に来た子だったのかな?」
「きっとそうでしょう‼ 当校は、勉学に励むための場。身分を持ち出して来る者など…」
「若様、少年はこの学園の制服を着ていましたよ?
もしそうなら、学生でない者に制服の着用許可を与えたことになります」
いいタイミングで口を挟んだな。ナイスアシストだ、テルム。
「そうだったか?」
「…きっと、まだ入学間もない生徒なのでしょう。当校の気風を知らずに…」
「所でクリス嬢、彼をジュンク伯爵家の次男だと紹介してくれた教師は何と言う名前ですかね?」
「…ルイよ。語学教師のルイ」
学園長の言い訳を途中でぶった切って、ビスト侯爵令嬢に教師の名前を訊けば、真っ青な顔になって、汗だくになる学園長。
「学園長の言い方では、そのルイと言う教師も新任なのでしょうか?」
「それは……」
中年のオッサンを新任とは言えんよな。教師の在籍歴等は王宮に控えられているだろうし。
「そう言えばジュンク伯爵家の次男に殴られたのだが、その事の責任はどこにあると思う?」
「子供同士のやり取りでは?」
怪訝そうな顔だ。…だよな。自分の見てないところで子供が喧嘩してもお前には関係ないよな?
「なるほど! 彼に貴族としての在り方を教育してこなかった学園に責はないと‼」
「あ! そんなことは…」
「フォルセウス殿、そのくらいにされてはいかがでしょうか?」
「そうですね。クリス様の顔を立てるとしますかね」
やんわりと止めにはいるがその目は笑っていない。学園の運営そのものは、宰相本人が行っているわけでないが、明らかに宰相の失点に繋がる。…その件はこれくらいにしてやろう。
「所で、私はこの学園の卒業生セルドア・ガムトと話す機会に恵まれたのですが、彼は驚くことに王国法の大半を理解していませんでした。
そのような者がこの学園を卒業しているなんて不思議ですね?」
これで最後、多分、学園長は…。
「そのようなことは! 当校はそれにふさわしい卒業生を出すようにカリキュラムが組まれておりまして…」
「ではその証拠に彼の成績や授業態度をまとめたものを今すぐに出してください」
「それは…」
「まさかないとでも? 数年前に卒業した生徒のものなのに?」
「それは越権行為でしょう?」
「とんでもない! 私は彼のいい加減な言動の被害者ですよ?
彼のああなった原因が学園にあったなら、私は学園の被害者ではないですか?
それともビスト侯爵家はガムト子爵の共犯者たる学園を庇うつもりですか?」
「……これが本当の狙いね?」
険しい目で睨むね。だが、先に喧嘩を売ってきたのはそちらだぞ?
「おや? そのような険しい顔をしていると皺になりますよ?」
「誰のせいかしら?」
唇の端をひくつかせながらも、笑顔を作るクリス。
「若様、そのように女性に言うのは失礼ですよ?
勝手に付いて来た挙げ句に我々を悪者扱いする困った方でも、一応宰相閣下のご息女でございます」
「そうだな! 例え実家が我が家に悪意を振る舞う学園を庇う侯爵家でも彼女個人を貶めるわけにはいかないものな‼」
テルムと一緒に和気藹々と毒を吐く。ちなみにこの娘の叔父は、何故か学園で命を落としている。
俺の父であるダグラスを庇ってのもので、はっきり言ってルナライト伯爵家は現状の学園やその運営に携わる貴族が嫌いだったりする。
「クリス姫様も少し落ち着かれてはいかがです?
元々学園には若様と王子殿下のお二人で来訪予定でしたのに急遽付いてみえたのはどなたでしょう?」
気にならないように少しずつ俺の真後ろからソファーの脇に移動していたテルム。
黒狼族にこの距離で殺気立たれたら怖いだろうな。
「……当時の父は宰相を継いだばかりでとても周囲に睨みを効かせる余裕はなかったと今でも時折後悔しています」
「そのような国にしてきたのは代々の宰相殿ではないかな?」
下らん言い訳だ。
「なあ! 学園の中を案内したいんだが?」
「必要ありません、元々の目的は達しましたので有意義な学園見学になりました」
沈黙するクリス嬢と嘲笑する俺に挟まれる形で辛そうなクール王子にさらっと返す。
資金の目処はたちそうだし、これだけやり込めれば侯爵家も否とは言えまい。
長居は無用だな。帰って爺さんを動かそう。




