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転生領主とその周辺  作者: しから
内政チートの始まり
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学園へ行こう

赤緑 1日


 昨日のザルトヒルム大神殿訪問は、大巫女と呼ばれるお婆ちゃんに会って、ルナライト伯爵家次期当主です。よろしくお願いします。

 と挨拶しただけのむなしいものだった。

 平日の昼間で人気もないから待たされることもなかったのはありがたいが、馬車の往復時間の方が長いってのもなんか納得いかない。


 爺さんは個別で用事があると神殿で別れ、夜にビスト侯爵家の主催するパーティーに合流するまで街を観光して良いと言われたのは嬉しかったが、中世の街と言うのは娯楽が少ない。


 街角のオープンテラスでカード遊びに興じている中年に声を掛けてみたが、そのカードゲームのレベルは低い。

 そもそも紙の札じゃなくて、木札で裏向けてバラバラにかき混ぜた状態から、同時に札を選び、描かれたマークで勝ち負けを決める。じゃんけんの拡大版。

 当然、持ち主はどれがどのマークか分かっているから負けることもない。

 ゲームとして成立していない。持ち主側が程ほどに負けつつ、周囲から金を巻き上げているに等しい。


 ここは前世で読んだ携帯小説で良くあるオセロを流行らせるのが良いかも。

 …オセロは、シェイクスピアの四大悲劇の1つ「オセロ」が名前の由来で、草原をイメージした緑のボード上で行うとかの規則があったから、厳密にはイギリス発祥とされるリバーシと言うべきか?

 あれはその辺の決まりを自分達で決められたはず。

 色々な形のボードを作り、そこに『ロッディアムーン』を刻印すれば、伯爵家の財源に繋がる。早い段階で公式試合を組んで大規模に周知するとかもすれば、独占市場を確保することも…。

 昼からはそんな具合に、他にも利益に繋がりそうなことを考えながら過ごした。


 夜のパーティーも微妙。

 ビスト侯爵家は宰相メリウスが当主を務める高位貴族。国の舵取りを担う家の1つだし、そのパーティーならさぞ豪華だろうと思った。

 その推測は半分当たりと言う所。きらびやかなシャンデリアの設置された大広間に派手に着飾った男女の群れ。

 孔雀の婚カツ会場とでも言うべきか?

 正直、窓3枚越しくらいに眺めるのがちょうど良いだろう。当事者になるときつい。

 色んな匂いが混ざって臭いし、原色を纏った連中がひっきりなしに彷徨くから目がチカチカする。

 そんな会場の目玉商品は、次期ルナライト伯爵。つまり俺。数えきれない数の高位貴族に話し掛けられた。

 3人から先は名前を覚えていない。5人を超えると顔さえあやふや。12人より先は諦めた。

 20人を超えて尚続く大名行列を消化して、ありついた夕食はナン擬きと肉の塩焼き。

 ルナライト伯爵家は着いたらすぐにパンを改良して広めたが、距離がある上に紛争中だった影響でここまでパンの情報は流れていなかったらしい。

 爺さんも微妙な顔でナンをかじっていた。ふんわりのパンになれるとこれはきついよな。

 塩焼きは内陸部の塩が高い王都周辺では高級料理扱い。香草焼きが庶民の料理だから、こう言う場では出されない。

 日本とは物流の差が大きい。アジの干物が高級料理として、テーブルのど真ん中に置かれていた時は、メリウス宰相の正気を疑い掛けたぞ?

 とまあ、総じて微妙なパーティーを過ごした。


 今日はリベンジ。

 あまりにもショボい王都紀行を今日の学園見学で払拭する!

 案内役は、メリウス宰相の娘で在校生のクリスと第2王子のクール。

 元々はクール王子だけだったが、クラスメイトのクリス嬢が昨日同行を買って出た。

 今はその2人を正門の前で待っている最中。そして…。


「おい! 聞いているのか? 俺はジュンク伯爵家の次男、テルム様だぞ?‼」


 ……バカに絡まれ中。

 盛っている猿に、


『朝から発情するな。目障りだ』


 と言ったら絡んできた。絡まれていた少女はさっさと逃げた後。

 質の低い学校だ。


「自分で自分のことを様付け? …ないわぁ」

「てめえ!」


 あまりのチンピラ具合に呆れて返せば、殴り掛かってくるわけで…。

 あえて打撃点をずらして額で当たりにいく。そうすると…。


「痛って!」


 右手を押さえて蹲る伯爵家の次男坊と平然と立つ伯爵家の嫡孫が出来上がる。そうなると?


「お前は何をしている! この方はジュンク伯爵家の方だぞ‼」


 近くにいた学園教師らしい男が声を上げながら近付いてくる。…ふむ。


「お前は一部始終を見ながら私が悪いと言うのか?」

「そ、そうだ‼」


 こちらに怯えが見えないのに怯むか。こいつはゴミだな。


「では、後程会う予定の学園長に貴様の行動を報告しよう」

「何を…」


 多分、俺が徒歩で目に見える範囲に護衛もいないから裕福な商人の子供とでも思ったんだろうな。

 学園長に言うと言うのを小賢しいハッタリとでも思ったか?


「この学園の教師は、権力に屈するでき損ないばかりらしいとルナライト次期伯爵のフォルセウス・ルナライト・アルヴィスの名の元に問い質すとしよう」

「「な!」」

「もちろん、ご当主様にも報告させていただきますよ?」

「やってくれたわね…。

 だから早く行きましょうと言ったのです!」

「すまなかった」


 俺の正体に驚く駄教師と次男坊の後ろに俺の侍女を勤めるテルムと随伴してきたクールとクリスの2人。

 テルムの奴、わざとこの2人を止めたな。


「…クリス様、このことは私からメリウス宰相へ奏上しますかね?」

「……本当にお父様みたいな子ね。こちらで預からせてもらえないかしら?」

「おや? よろしいので?」

「ええ。ご期待に添えられるように努力するわ」

「そうですか?」


 …このクリス嬢も父親似かね?

 ビスト侯爵家がルナライト伯爵家に借りを作ると言う提案を、クリス嬢が俺に借りを作る形で手を打ってほしいなんて。

 この学園が王立であると言うことは最終責任は宰相に掛かってくるわけで、それを個人の借りで片付けようと思えば大きい負債だぞ?


「……テルム。学園は宰相殿が責任を取ってくれる。報告を上げるのはこの貴族だけでいい」

「そうでございますか? …ああ、若様、ジュンク伯爵家は南部閥です。セーネ様に良いお土産が出来たのでは?」

「どうだろう? 新しいダガル候に譲ってやるのも手だろう?」


 …ふむ。クール王子はキョトンとしているが、クリス嬢は一瞬だけ瞼が動いた。…借りの上乗せだぞ?


「ここは放っておいて、中へ行きませんか?

 一般の生徒は普通に授業があるのでここにいるのは彼らの妨げになるでしょ?」

「そうしましょうか。二度と彼らに関わることがない以上は、立ち止まっていても時間の無駄ですし?」


 クリス嬢に続いて、校門を通ろうとすれば。


「クリス様。クール様、これは違うのです! これは……」

「お待ちください‼ 何卒、何卒ご容赦を‼」

「触らないでよ!」

「無礼者!」


 追い縋って来るバカがいるわけだが、次男坊はクリス嬢に顔面を蹴飛ばされ、教師Aはテルムに投げ飛ばされる。


「…過激ですね。顔に傷が付いたらどうするのです?」

「あら、侯爵家の令嬢に追い縋って来る変態の心配かしら?」

「彼がおった怪我を私のせいにしたら、借りは3つ目ですよ?」

「…チッ」

「え?」

「ハハハ。お嬢様はご機嫌斜めだ」


 貴族令嬢に相応しくない舌打ちに引くクール王子の様子は実に面白い。

 この王子は善良でお優しい王子様だ。


「そうね。気配りの出来る少年が私をエスコートしてくれないのですもの、少しへそを曲げても不思議じゃないでしょ?」

「小さい男の子に期待しすぎると遅くなりますよ?

 あの宰相殿に気に入られる強者はいますか?」

「あら、あなたのことは随分買っていたわよ?」

「ルナライトとビストの蜜月は他の派閥の脅威でしょうに?」

「私には兄がいるって知っている?」

「才媛を手放しますかね?」

「西部の弱化は国威の低下だもの。動くかもしれないわよ?」

「なるほど、気を付けましょう」

「1つくらいは返せたかしら?」

「どうでしょ?」


 さすがは王族と宰相の娘のコンビが先導するだけはある。誰も彼も道をあけて、すんなりと通してくれる。


「…なんかこの2人とても怖いんだけど」

「おや、クリス様、クール殿下が怯えてみえますよ?

 笑顔を忘れては駄目じゃないですか?」

「あらぁ?

 こんな可憐な笑顔に恐怖を感じるわけないわよ?」

「それもそうですね。きっと強面の生徒とすれ違ったのでしょう」

「きっとそうね」


 互いに笑顔で笑い合う。…豆知識だが、元々笑顔は威嚇用の表情だぞ?


 それからしばらく歩いて、そこそこ立派な扉の前に辿り着く。


「ここが学長室よ。

 ヘイト学園長、フォルセウス・ルナライト卿をお連れしました!」


 …さて、学長先生の手腕は如何程か?

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