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転生領主とその周辺  作者: しから
動乱の幕開け
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余録 ルナスフィアの王族

緑赤 29日


 裁定の為にルナスフィア王都ザルトヒルムを訪れた俺達ルナライト伯爵家一行は俺と爺さんに護衛の黒狼10人と侍女4人。

 レオンを始めとする隊長格の騎士は西部各地へ平定軍として派遣されているし、ハージヒルムを空に出来ないと言う理由で婆さん達やルシア、アイシャは留守番。

 リム、フィン、メルも安全の為にハージヒルムにいる。

 無事に火霊と契約してきた兄さんとその愉快な仲間は俺の代理と言う名目で黒の竜の里へ旅立った。

 アントン家の子女達は、このままハージヒルムの迎賓館で世話になると言うことでトールの家族と一緒に家財の買い出しをするらしい。

 爺さんと俺は3日ほど王都に逗留して、月華神教の神殿と2年後に入学する予定の王立士官学校を訪問する予定だ。

 逗留先として提供されたのは王城の一室。

 王族の住む後宮エリアと中庭の間にある寝室4つ、トイレ2つ、キッチン1つの間取りの大部屋だ。

 昔からルナライトの者が王都に滞在する時に使っている専用の部屋。

 

 …要するに王都用の別荘みたいな扱いの部屋と言うわけだ。

 それが後宮の入り口にあると言うことは、時々聞く、西の王家の呼び名が良くわかる話だ。


「若様、お客様がおみえですよ?」


 中央のリビングにあるソファーに深々と座り込んで休憩していると、今回連れてきた侍女の1人で俺付きの黒狼族テルナが声を掛けてくる。


「客?」

「王太子殿下とそのご家族様です」

「大伯父と再従兄弟と言うことか?」

「はい。お招きしても?」

「頼む」


 入り口へ向かうテルナを見送って、ソファーに座り直す。繋ぎを作っておいて損のない相手だ。


「フォルセウス様、王太子ラウンド殿下と太子妃ケント妃殿下。レウス殿下、クール殿下並びにイリーナ妃殿下をお連れしました。

 …フォル様!」


 眼鏡のインテリ系中年と青年が1人ずつ。眼鏡なしの細身の少年が1人。ゴスロリ系の服を着た美女と美少女が1人ずつ。

 さすが、王候貴族と言うサラブレッドのトップの一角。かなり顔が整っている。

 ? 良く考えたら、こいつらも俺も血筋ではそう負けてないんじゃないか?


「フォル様!」

「すまないテルナ。

 申し遅れました。フォルセウス・ルナライト・アルヴィスです。

 王太子殿下並びに王族の皆様にはお見知りおきのほどを…」

「気にしないよ。子供が自室で寛いでいた所を訪ねた、こっちにも非があるしね」


 テルナに口だけの謝罪をして、座ったまま自己紹介をする俺にテルナの叱責より前に穏やかに答える眼鏡インテリ大。

 そう言いつつもこちらの了承をとらずに向かいの席に座る。

 ……いい性格じゃないか。


「そう言っていただけると助かります」

「…お互い様だろう?」

「ええ、子供なので大人の行動に目くじらを立てる程、バカじゃないんですよ?」

「これは。1本取られたな!

 さすがダグラスの子供だ‼」


 肩を竦めてみせる俺の態度がツボに入ったのか、大笑いをするラウンド王太子。


「褒められて悪い気はしないが、あなたの家族も無表情に徹しているじゃないか」

「言い含めたからな。相手は言動を操って大量の政敵を自滅させた少年だ。我々のやり取りを観察しろと厳命した」

「観察しろとは上手い手を使いますね。ただ見ているだけなら、不快感を表に出す正直な方を見付けられたかもしれないのに」

「それが怖かったよ。直情な相手を煽り或いはおだてて利用するのが得意そうだったからな。

 ウチにも1人いるが、私はそいつに1度手酷い目に遭わせられた」

「そうですか」


 …メリウス宰相だろうな。あえて突っ込まないけど先程の断罪を見るに俺と似たタイプだと思った。…この王太子も同族っぽいけど。


「そう言えば、何時までご家族を立たせたままに?」

「そうだね。皆、座ったらどうだい?

 お茶を用意したい侍女が困っているだろう?」

「…それでは失礼して。

 あなた、戻ったらお話があります」

「あ、ハハハ。…お手柔らかに」


 放置された王太子妃殿下がラウンド王太子の隣へ座る際にボソッと呟き、それに苦笑いで応える王太子。


「さて、王子として私から自己紹介をすべきかな? 私はレウス。君の再従兄弟に当たる。よろしく」


 眼鏡青年。整っているけど地味な見た目の茶髪の兄さんだね。


「僕はクール。君より2つ上の12歳だ。今年から学園に通っているから、2年後に君が入学したら先輩だね」


 俺より少し上の少年。こちらは王太子妃と同じ金髪。


「イリーナです。よろしくお願いします。先月9歳になりました」


 王族の9歳児の割には幼げだが…。この子も茶髪の巻き毛でやや地味な印象。


「私はケント。

 バール辺境伯家の出身で現王太子妃です」


 こちらは派手な金髪の美女。レウス王子が17くらいだから、少なくとも30代のはずだが、魔族は見た目で歳が判断できないからな。


「よろしくお願いします。フォルと呼んでください」

「そうさせてもらうわ。早速だけど、フォルにはウチの子達と仲良くしてもらいたいの。

 正直、3人とも王族としては頼りないでしょ?」


 いきなりぶっちゃけた‼

 自分の子供の目の前で?


「どうでしょう?」

「レウスは覇気が足りない。クールは頭は良いのに性格が真っ直ぐ過ぎる。イリーナに至っては幼すぎる」


 …多分この(ひと)、この兄弟にしょっちゅう言っているな。3人ともガックリと首を下げている。


「…殿下方は未だ若くあらせられるかと?」

「そう言う機転の利いた返しが出来ない子達なのよ‼」


 …ああ、そう言えば辺境伯家の出身だからか。セーネ婆さんを彷彿させる訳だ。

 駄目な王が立てば、一番苦労するのは辺境伯家だもんな。…けれど。


「しかし殿下達の内面に期待できないから、周囲が抑えに回ってほしいと言うのは虫が良いのでは?」

「あら? あなたはこの国の王権を狙っているの?

 それならいいのだけど?」

「「な!」」


 ケント王太子妃の言葉にレウス王子とクール王子が絶句する。

 …ああ、確かに少し頼りないわ。


「嫌ですよ。伯爵家だってあれだけ問題を抱えていたのに、王家となるとそれ以上でしょ?」

「どうかしら?」

「……そうですね。臣下として王子方を支えていきましょう」

「友人になってほしいのだけど?」

「そのような畏れ多い」

「こちらから提案しているのだもの、遠慮はいらないわ?」


 最初のラウンド王太子とのやり取りはこちらを油断させるための狂言か?

 厄介な人に目を付けられたな。


「とある国では、親しき仲にも礼儀ありと言う言葉がございます。

 君主と配下ならばそうあるべきでしょう?」

「……そうね。分かりました」


 一応、退いてくれたか?

 今後も警戒しておくべきだろうが、今をやり過ごせたならば、次に関わってくるのは学園でとなる。それなら、この王太子妃と直でやりあう訳じゃない分楽なはず。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 目の前の男の子は全てが不思議だった。

 父様と母様に連れられてルナライト伯爵家次期当主の少年に会いに来た私達が見たのは、お人形のような男の子だった。

 綺麗な白い髪に穏やかに微笑んでいる形の表情なのに、楽しそうに見えない顔。ジーッと動かなかったら、人形だと信じちゃいそうな子。

 竜と言う幻想種の少年だと言っていた父様。


 幻想種って?


 って聞いたら、夢や幻のような力を持つ生き物って言っていた。

 父様の言う通り。目の前にいる男の子は、私達の遠い親戚と言うのが信じられないくらい。



……ただ綺麗だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 最初にそいつを見た時は、生意気そうだと思った。

 だってそうだろ? 王族の僕達が訪ねてきたんだぞ?

 平伏すが当たり前じゃないか?

 なのにそいつは、ソファーにふんぞり返ったままに僕らを招き入れたんだ。

 父さんから事前に観察するだけで良いと言うまで絶対に喋るなと言われていなければ、声を荒げて怒ったかもしれない。


 ……けれど。


 父さんとのやり取りでそうさせるのが狙いだと聞いて、そのイメージは一転した。

 声を荒げていれば、僕はこの少年にとって利用しやすいと自分でアピールする結果になった訳で…。

 気が付いたら言いように踊らされている未来。

 こいつはきっとメリウスみたいに怖い奴だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 この部屋を訪ねて最初に思ったのは、頭を抱えたいと言う感情だった。

 ルナライトの次期当主と言う目の前の少年は、こちらが怒れないギリギリを突いて、こっちを挑発していた。

 事前の触れもなく唐突に訪ねた時点でこちらに非があるのだから、ここで少し感情的な弟クールが怒らないかとヒヤッとした。

 そうなれば、散々やり込められた挙げ句に、傲慢な王族のレッテルを貼られていたことだろう。

 私達に厳命していた父の慧眼に感心するばかりだ。

 案の条、それを狙っていたようだし、遠回しに父に非があると批難して、言い返した父の前言を逆手にとってやり込める。

 母が友人として仲良くしてほしいと言えば、次期伯爵としては王家に協力していくと返す。

 友人としてならば個人として持つ繋がり、黒の竜の里やセルラニア王家の力を頼めるけど、次期伯爵としてと言われれば、それは叶わない。

 普通なら王族と仲良くしてと言われれば誰でもメリットに目が行きそうなのに、最初にデメリットから考えるなんて、この子は相当に手強いだろうな。

 この子と同世代になるのが、クールとイリーナだろう?

 

 …本当に頭の痛い問題だ。


 多分、クールは苦手意識を植え付けられているだろうし、イリーナに期待するしかないかな?

 けど、彼女が何処かに嫁いでしまえば、それは切れる糸。

 母が私を頼りないと呆れるのはこう言うところだろうな。目の前の少年なら、多分この時点で効果的な手を打ってくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 4人の若者がそれぞれに考える機会を与えられたとすれば、有意義と称すべき、出会いはこうして行われた。

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